第81話 逃亡者、東へ向かう

サクヤさんの故郷へと馬車で進む


「サクヤさん、向かっている所ってどんな所なの?」


「小さな村ですが、海に面していますので漁業が盛んです。この大陸の東の果てになりますね」


「海か…。この大陸のってことは他の大陸もあるの?」


「海の向こうにあると伝えられていますが、実際にあるかはわかりません。行こうとしても辿り着けないみたいです」


「そうなんだ、詳しく教えてもらってもいい?」

もしかして、その大陸に魔王城があるのかも…


「私はこれ以上はわかりません。村長さんなら知ってるかも……」


「そっか、村に着いて聞けそうなら村長さんに聞いてみるよ」


「それなら、私から話だけ通しておきますね」


「それは助かるよ。お願いするね」


思わぬところから情報を得られるかもしれない。

幸先がいいな


その後は、他愛もない話をしながら進む。


「そろそろお昼にしようか?サクヤさんは食べれない物とかある?」


「いえ、特にはありません」


「じゃあ、パンにしようか」

僕は収納からサンドイッチを取り出す


「!!!今、どこから出したんですか?」

驚かせてしまったようだ


「僕のスキルだから気にしないで」


「えっ…でも…」


「サクヤさん、お兄ちゃんのすることにいちいち驚いていたら、身が持ちませんよ」

ミアにひどいことを言われる


「僕を人外みたいに言うのはやめてよ。さっきのは収納ってスキルだから。他の冒険者でも使える人いるよね?」


「あ、はい。知り合いの冒険者の方にも使える人がいます。便利なスキルを持ってて羨ましいです」


「便利だから助かってるよ。はい、サンドイッチ」

僕はサンドイッチを渡す


「ありがとうございます。……このパン、焼きたてみたいに熱いんですけど?」


「……僕の収納スキルは少しだけ特殊なんだよ」


「だから言ったんだよ。お兄ちゃんは色々と異常なんだから、少しは自覚してよね。サクヤさん、これで分かったよね?気にしてても疲れるだけだから」


ひどい…


「……わかりました」


その後も色々とサクヤさんを驚かせつつ先に進む。


馬車に揺られ続けて3日目、帝都に行く時も思ったけど、暇だ。


乗ってるだけだから楽だけど、やることがない。

ミアはサクヤさんと楽しくおしゃべりしているけど……社交的な性格が羨ましい。


暇だしゲームにでも誘うか。


「暇だし、トランプでもやらない?」

僕はミハイル様の街で作ってもらっていたトランプを取り出す


「いいよ」

「何をやりますか?」

あれ?


「サクヤさん、トランプわかるんですか?」

トランプは僕が職人の人に細かく説明して作ってもらった一品物だ。知ってるのはおかしい。


「はい、子供の頃によくミコちゃんと遊びました」


「ミコちゃん?」


「コホン!ミコト様がまだ小さい時に遊ばせていただきました」

サクヤさんは咳払いをした後、言い直した

偉い人なのだろうか?


「もしかして、会いに向かってる人?」


「はい、そうです。」


「そのミコト様って人がトランプを持ってたの?」


「そうです」

色々と気になることが出てきたな。

もしかしてミコト様って異世界人?


「サクヤさんは日本ってわかりますか?」


「にほん?聞いたことないですね……」

ミコト様が隠してるのかな?

それとも僕の思い過ごしか……


「変なこと聞いてすみません。トランプやりましょう」


僕達はトランプをして暇を潰しながら先に進む。

サクヤさんは、いくつかのトランプを使った遊びを知っていた。


馬車に揺られる事7日目、盗賊が馬車を囲う。20人くらいかな……


「面倒なのが出てきたね。はぁ。」

僕は溜息がでる


「ハイトさんとミアちゃんは馬車の中にいてください。私が引きつけますのでその内に逃げて下さい」

サクヤさんが犠牲になると言い出す


「いや、護衛はいらないと最初に言いましたよね?ミア、悪いけどお願い出来る?」


「私はいいけど。お兄ちゃん、傍から見たら鬼畜だよ」


「そうですよ!妹を囮に逃げるなんて最低です。見損ないました」

ひどい言われようだ。僕だとやりすぎるかもしれないから、ミアの魔法で眠らせてもらおうと思っただけなのに……


「誤解だよ。僕がやるよりもミアがやった方が穏便に済むからお願いしただけだよ。そもそも逃げないから」


「死にたく無かったらおとなしく出てきな!金目のものを出せば命は助けてやるよ。命はな……ハハハ」

盗賊が外で叫んでいる。今はそれどころではない、鬱陶しい。


「出たらダメですよ。あいつらが約束を守るなんてことはありません。出たら殺されます」

サクヤさんが僕達の心配をしてくれる


なんだろうか……?僕は違和感を覚える


「サクヤさん、僕達が冒険者だって知ってますよね?」


「え、そうなんですか?護衛がいらないと言っていたので、自衛が出来るくらいの心得がある程度だと思ってました」

まさか、冒険者に認知されていないとは思わなかった。

確かに言ってなかった気がするけど、Sランクだし言わなくても知ってるだろうと……自惚れていたようだ


「言ってなくてごめんね。僕はSランクの冒険者でミアはAランクの冒険者だからね。心配しなくても大丈夫だよ」


「……すみません、ハイト様達がそんなにスゴイ人達とは知らなくて……」

また様付けに戻ってしまった。


「今まで通りでいいからね。もっと気楽にね」


「死にてぇようだな!出てこねぇならどうなっても知らねぇからな!」

盗賊がまた叫ぶ。


しょうがない。僕が行くか

「はいはい、外に出ますよ」


僕は渋々馬車の外に出る


外に出ると御者の人が人質になっていた。

首にナイフを突きつけられている

しまった、御者の事を忘れてた


「おっと、動くなよ!こいつの命が惜しかったらなぁ」


どうしようかな…。手加減って苦手なんだよね。

御者の人が殺される前に無力化しようとすると、勢い余って殺っちゃうかもしれないし……


僕は収納からある物を取り出す

「あなた達の為に言うんですけど、これ見てくれませんか?」


僕は取り出した物を地面に置いて、両手を上げて数歩下がる

盗賊達は警戒して近寄ってこない


「見ないと後悔するのはあなた達ですよ」


これで来ないならしょうがない。無関係な御者を死なせるくらいなら、人質をとっている盗賊を攻撃しよう。

出来るだけ手加減はしよう


そう思っていると、盗賊の1人が近寄ってきて、置いたものを拾って見る。


「…う、うわぁぁぁ。た、助けて下さい。命だけは…」

盗賊はパニックになりながら命乞いする


「お、おい!どうした。やっぱり罠だったか?」


「罠ではありませんよ。少し落ち着いて他の人にも教えてあげてくれませんか?僕も暇ではないんです」


「あ?てめぇ何言ってやがる」

「や、やめろ!そいつは、え、Sランクだ」

盗賊達が騒めく


「ギルド証返してもらっていいですか?」


「も、もちろんです」

僕はギルド証を返してもらう


「それで、御者の人を人質にとったままですか?あなた達が御者を殺す前に、攻撃して助けることは簡単なんですが、手加減は苦手なんですよ。僕は殺したくないんですけどね……」


「解放したら見逃してくれるのか?」


「見逃しはしません。でも殺しはしません。選んで下さい。御者を人質に死ぬまで戦うか、降伏するか」


「捕まった所でどうせ俺たちは処刑されるんだ。どっちも同じだよ」


そうなのか…まぁ、これが初めてじゃないだろうし、被害者の事を考えたらそうなるのか


「確約は出来ないけど、僕が口聞きしてあげるよ。降伏するなら鉱山奴隷だ。ちなみに、戦う場合に死ぬのは人質をとっている君だけだよ」


僕は御者にナイフを突きつけている盗賊を見ながら言う


「お、俺は死にたくない」

盗賊は御者を離す


御者を助けることに成功する。


「賢明な判断ありがとうございます。これで殺さないように手加減が出来そうです。戦わないなら降伏してくれませんか?最後の忠告ですよ。降伏する人は膝をついて下さい。立ってる人は戦う意識ありと見なして攻撃します」


呆然としている盗賊にダメ押しを加える。

僕は近くの岩を村正でサクッと斬る


「…………。」


盗賊達は戦意を喪失して膝をついた


「約束は守りますので安心してください」


僕は1人づつ拘束して馬車の荷台に乗せる


「ちょっと狭いけど我慢してね」


僕は荷台に盗賊を詰め込んだ後、ミア達の所に戻る。

「うん、さすがお兄ちゃん。戦わずして勝利したね」


「ハイトさん、すごいです!」


「そんなことないよ。行こうか」

僕は照れを隠すように馬車を進めてもらう


盗賊達は向かう途中にあった町の衛兵に引き渡した。

衛兵に盗賊は降伏したので、処刑じゃなくて鉱山送りにして欲しいと伝える。

ギルド証を見せて話をしたので聞いてくれるだろう。

僕は約束はちゃんと守るのだ


それからしばらく馬車に揺られ続けて、やっとサクヤさんの故郷に着いた

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