第60話 逃亡者、決着をつける
中に入ってきた男性は僕を見て怯える
この反応、やっぱりさっき中にいた人だな。
「ハリメド様、商業ギルドがこのおと」
僕は男性を睨みつける
「いえ、商業ギルドが潰れました」
男性は泣きそうだ
「どういう事だ?」
「いえ、そのままの意味です。建物が倒壊しました」
「それは大変ですね。見てきた方がいいんじゃないですか?」
僕はハリメドに進言する
「どの口が言ってるんだ?」
「誰も僕がやったなんて言ってませんよ。そうですよね?」
僕は報告に来た男性に問いかける
「私は何も見てませんので……許して下さい」
男性の足がずっと震えている。流石にやり過ぎたかもしれない
「許すも何も僕はあなたに何も怒ってませんよ」
「私はもう下がってもいいですか?」
男性は早くここから離れたいようだ。
「……ああ、報告ご苦労」
男性は足早に部屋から出て行く
「それで、見に行かれないのですか?行かないのであればそろそろフィルと話をしませんか?それともまた衛兵さんを呼びますか?」
「一度席を外させてもらう」
ハリメドは外に走っていった
「ハイトさん、やり過ぎじゃないですか?」
「そうだね。僕は何もしないつもりだったのに結局ほとんど僕がやっちゃったよ。フィルの仕事をとってゴメンね」
「いえ、そういう事じゃなくて」
フィルにジト目で見られた
「わかってるよ。でもあのままだと埒があかないからね。それに怪我人は出してないからね。建て直せばいい話だよ」
「そうかもしれませんが、商業ギルドにも良い人はいたかも知れませんよ」
それはそうだ。働いていたのは、甘い汁を吸ってた人だけではないだろう
「それは大丈夫だよ。ミハイル様と冒険者ギルドで人を受け入れる準備はしてくれている。まともな人なら雇ってくれるよ」
甘い汁を吸ってた人は一度苦しい思いをした方がいい
「それならいいですが…」
顔を見る限り本当は良くないのだろう
「とりあえず戻ってくるのを待つとしようか」
しばらくしてハリメドが戻って来た
「大丈夫でしたか?」
「……大丈夫なわけないだろう」
ハリメドは怒り心頭の様子だ
「それはそれは。それで気は変わりましたか?」
「貴様…」
どうしようかな…
「そういえば、商業ギルドは世界に展開してるらしいですね。他の支部にも行ってみようかな…」
これでダメならもう話し合いは無理かな
「そ、それだけは勘弁してくれ」
ふー、やっとか、
「僕は他の支部の話をしただけですが?」
「何が望みだ?」
「用があるのはそちらでしょう?僕は相手をお間違えですよって言ってただけです」
「わ、わかった」
「フィル、やっと本題に入れるようだよ」
「…はい。転移陣について話があるんですよね?」
「ああ、なぜ商業ギルドの人間には使わせてくれないのだ?」
「お金を頂ければだれでも使えますよ。許可証の事でしたら領主様に聞いてください。私からは安全のために敵対するものには発行しないようにお願いしてあるだけですので。それとも、商業ギルドは私に敵対しているという事でしょうか?」
「ダンジョンはお前達のものではないだろう。何の権利があって金を取っている」
「別にダンジョンに入れないわけではありませんよ。入り口は今まで通り開いてますよ。ただ、転移陣は私達クランのものです。ダンジョン攻略者と領主様から正式に許可を頂いています」
「くそっ!いいから言う事を聞け!言う事を聞かないならお前の弟の命はないぞ。私の合図で雇った傭兵が襲う手筈になっている」
「脅しですか?」
「そうだ、お前がその年で強い事は昨日見てわかったが、ここから弟を助けに行って間に合うかな」
「脅しには屈しません。あなた方の為に言います。やめた方が良いです」
「フィルいいのか?」
僕はフィルに確認する
「はい。少し期待してましたが、やっぱり話し合いではどうしようもないみたいです」
「わかった」
フィルの覚悟は決まっているようだ
「そうか、どうせ私はもう終わりだ。お前の弟を道連れにしてやる」
ハリメドは窓に向かって何かを投げる。
やりたいようにやらせてやるか……
僕は移動して窓を開ける
外が眩しく光る
閃光弾のようなものか
「あの、窓を割ろうとするのはやめてもらえませんか?」
僕はハリメドに忠告する
「馬鹿にしているのかっ!窓を開ける暇があって何であれを止めない!」
「いえ、やりたいようにやらせてあげようかと思って。僕の優しさですよ」
「強がるのも今のうちだ、助けに行った方がいいんじゃないか?」
「必要ありませんよ、そろそろ終わります……終わりましたよ」
「何を言っている?」
「こっちの話です。でも殺人未遂ですね。これは明らかに犯罪です。衛兵を呼びますね。」
サラさんに衛兵を呼んでもらう
と言っても、さっきの衛兵さんに待機しててもらったんだけど
「聞いてましたよね?」
「はい、メイドさんに言われてそこで待機していましたので」
「では、お願いします」
「最初から逃げるつもりはないわ。最後に獣人を殺してやったんだ。それで満足だよ」
「衛兵さん、悪いんだけどダンジョンの近くを寄りながらこの男を連れてってもらって良いかな」
「任せてください」
「フィルとクルトも行くだろ?結果はわかってるけど」
「「はい」」
僕達はダンジョンに向かう
その最中商業ギルド跡地を見てフィルとクルトがドン引きしてた
ダンジョンの前には人だかりができている
人だかりの中に入っていくと10人くらいの武装した男が倒れていた
「あ、お兄ちゃん。早かったね」
ミアが僕を見つけて手を振る
「どうだった?」
「わかってても最初は怪我してないか確認するものだよ」
「ど、どうなっている?なんで全員倒れているんだ」
ハリメドはこの光景が信じられないようだ
「返り討ちにあったんですね。フェンに」
「何を言っている。あんな子供に私の傭兵がやられたって言うのか?」
「言ってませんでしたが、フィルよりもフェンの方が戦闘力は上ですよ」
話しているうちに衛兵がやってきて男達を連れて行く
「この人たちはどうなるんですか?」
僕は衛兵に聞く
「今回は大事だからね、領主様が沙汰を下すんじゃないかな。良くて鉱山送りだと思うよ」
「そうですか。それではお願いします」
後は衛兵とミハイル様に任せるか
「ふぅ、やっと終わったね」
「結局お兄ちゃんがほとんどやっちゃったんでしょ?昨日言ってたことと違うね」
「いや、僕はフィルとハリメドが話し合いになるようにしようとしてたんだよ。でもそんな空気にならなかったんだよ。だから僕のせいじゃないよ」
僕は言い訳を並べる
「フィルはそれでよかったの?」
「はい。本当は商業ギルドの人とも仲良く出来ればよかったんですが、そういった空気ではありませんでしたのでしょうがないです」
「ならいいけど」
わかってもらえたようで良かった
「お姉ちゃん、僕頑張ったよ」
フェンがフィルに自慢している
「うん、頑張ったね」
フィルはフェンの頭を撫でる
「予定とは違うけど、これで商業ギルドは当分動けないし、再開してもハリメドがマスターになることはないと思う。でも獣人差別がなくなったわけじゃないから、これからの方が大変かもね」
「大丈夫です。少しずつ良くなるはずです」
フィルに会った頃の怯えはない。
「困ったことがあったら呼んでくれていいからね」
「本当に行っちゃうんですか?」
「そうだね。ゲルダ様にも会わないといけないし、後数日したら出ることにするよ」
「それなら私も……いえ、なんでもないです」
本当は付いてきたいんだろう。
「……付いてきてもいいよ?」
「いえ、大丈夫です。まだこの街でやることがありますから」
「わかった。旅先で応援してるからね」
その後、商業ギルドの主要メンバーもミハイル様の命令で捕まることになり、刑期こそ異なるが全員鉱山送りとなった。ハリメドと傭兵は刑期が100年とのことで実質死ぬまで働き続けるようだ
ミハイル様曰く、処刑するよりも獣人の下で働かせ続けた方が苦痛だろうとの事で、鉱山の現場指揮にはスラムの獣人を雇ったらしい
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