第57話 逃亡者、金を取る

クランを立ち上げて3日後、今日から転移陣を使用するには許可証が必要になる。


「今日が一番大変だと思う。僕は基本、手を出さないから頑張ってね」


「わかりました」


ダンジョンの入り口前に行くとすでに獣人の男性が来ていた


「俺みたいのを雇ってくれてありがとうございます」

男性が僕にお礼を言う

この人は許可証の確認と使用料を受け取る為にクランが雇った獣人である。


「雇ったのは僕じゃなくて、こっちのフィルのクランだよ」


「嬢ちゃん本当にありがとう。毎日、食うものにも困ってたんだ。俺はボルグって名前だ、よろしく頼む」


「私も少し前まではそうでした。今日からよろしくお願いします。揉め事は私に回して下さい。通常のお仕事だけお願いします」


「……ああ、わかった。でも、大丈夫か?」


「力には自信があります。力づくで来るなら返り討ちです。それに、こちらのエクリプスの人たちがそれ以外のトラブルは対応してくれることになってますので安心してして下さい。」


何でも初めはトラブルがつきものだ

敵対してくる相手にはフィルとフェンが対応して、それ以外のトラブルはクルト達エクリプスのパーティが対応する。

良い体制だ


1の鐘が鳴った所で転移陣の前にフィルと獣人の男性2人が立つ。フェンとクルト達は奥で待機だ。


周知はしてあったが始めてすぐにトラブルが発生する


「え、金取るの?」


冒険者がボルグさんに聞いている


「許可証がない場合は使用料として金貨1枚頂いています。許可証は領主様が発行しています」


「高すぎないか?」


「高いと思われるなら、許可証を発行してくるか、あちらの入り口から入って下さい」


冒険者は領主の屋敷に行くことにしたようだ


見てた限りだと、多分あの人は許可証を発行してもらえるだろう。周知してても漏れがないわけではないから知らなかったのだろう。


「その調子でお願いします」

フィルがボルグさんに声をかける


ぎこちないけど、フィルなりに頑張っているようだ


まあ、こんなにやさしいトラブルばかりではないのが悲しいことだ。


「なんでオメェらに金払わねえといけねぇーんだよ!」

チンピラみたいな冒険者がボルグさんに詰め寄っている


「ですから許可証を見せていただければ、通って大丈夫です。ないなら金貨1枚頂きます」


「うっせぇな!獣人なんかに払う金はねぇよ」

チンピラがボルグさんを突き飛ばそうとする


しかし、その前にフィルが間に入る


「文句があるなら私が聞きます」


「なんだこのガキは、人間様に楯突いてんじゃねえよ」

フィルを蹴飛ばそうとする


フィルは蹴りを受け止めてそのまま脚を捻って倒す


ドシッ!

「イッ、いたたたた」


「だ、大丈夫ですか?」


フィルは相手の心配をしているが、チンピラは屈辱そうな顔をしている。


「ガキがいい気になるなよ!」

チンピラは立ち上がり暴言を吐く


「あの、まだ手加減が慣れてないので、諦めてお金を払って欲しいんですけど…」

フィルは相手の心配をして言ったようだが、これは挑発と変わらないよ?


チンピラは剣を抜いてフィルに斬りかかった

フィルはスッと避けて腹を殴る

一瞬チンピラの体が浮き血を吐きながら倒れる


えーと、よし。生きてはいるな


動かなくなったチンピラをみてオロオロしているフィルにクルトが声をかける


「フィルちゃん本当に強いんだね。自信を無くすよ。これの処理は僕がやっておくよ」

クルトがチンピラを引きずって奥に連れて行く


治療でもしてやるのかと思ったけど、そのまま床に転がして衛兵を呼びに行った


フィルが甘い分、クルトが厳しいのはいいことかな


この騒動を見ていた何人かが逃げるように散っていった。

多分、チンピラ同様無理矢理入るつもりだったのだろう


その後も大なり小なりトラブルに見舞われながらも6の鐘が鳴り、この日の仕事が終わる


夜の間、転移陣を出口専用になるように設定しておいた。便利な設定ができたものだ。


「お疲れ様でした。また明日もお願いします」

フィルがボルグさんに本日分の給金を渡す。


「ありがとうございます。…………!聞いてた分よりも多いんですが?」

ボルグさんが驚きながらフィルに聞く


「今日はトラブルばかりでしたが、最後まで頑張ってくれましたから。割増ししてあります」


「本当にいいんでしょうか?」


「もちろんです。息子さんに美味しいもの食べさせてあげて下さい」


ボルグさんはスラムへ帰って行った


さて、フィルは気づいているかな?


「フィル、この後の予定は?」


「えっと、エクリプスの方達にもお給金を払って終わりです」

残念。そこまではまだ厳しいか

僕がフィルに教えようとすると、先にクルトがフィルに声を掛けた


「僕達の給金は後でいいのでフィルちゃんはボルグさんを追いかけた方がいい」


「え、なんでですか?」


「あんな大金を持ってたら襲われてしまうよ」


フィルは走ってボルグさんを追いかけていった


「クルトも気づいてたんだな」


「…?何のことですか?」


「ボルグさんを見てた男の事だよ。殺気が出てたからな」


「何のことかわかりませんが…」

話が噛み合わないな


「気づいてたからフィルを行かせたんじゃなかったの?」


「違いますよ。悲しいことですが、獣人が買い物をしていれば襲われる可能性が高いんです。それを危惧してただけです。それに商業ギルドが何かしてくるかもしれませんから」


なるほど、クルトは思っていた以上に優秀のようだ


「それで、その男ってのはフィルちゃん1人で大丈夫なんですか?」


「ああ、それは大丈夫だよ。フィルが負ける相手じゃないよ。それに、フィルが行く前にフェンが追いかけて行ったからね。……まぁ、何も告げずに勝手に行っちゃたのは良くないけど」


「それは気づきませんでした」


「後で叱っておくよ、強いといっても心配を掛けていいわけじゃないからね。でも、これでわかったよ。クルトが入ってくれて本当に良かったよ」


「どうしたんですか、急に?」


「あの子達は正直すぎるから心配だったんだよね。実際はレベルが高いだけでまだ子供だから、搦め手とかで来られちゃうとどうしてもね…。その点はクルト達がサポートしてくれるから安心だよ」


「そう言って貰えて嬉しいですよ。でも大変なのはこの後ですよ?」


「わかってるよ。それにボルグさんを見てた男も商業ギルドの人間だろうしね。忙しくなるよ」


「まあ、商業ギルドのマスターにも今日の話は伝わってるだろうし、そろそろ本格的に動いてくるんじゃないかな。何か策は考えてあるんだろ?先に教えてもらってもいいかな?」


「え、策なんてないよ」

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