第52話 逃亡者、解呪する

錬金術の店にやってきた


「錬金術師さーん、きたよー」

僕はご機嫌で入っていく


「なんだかテンションが高いね。悪いけどまだ魔石は全部は準備出来てないよ」


「とりあえず魔石はあるやつだけでいいや。それよりもいい知らせがあるよ」


「なんだい?金貨1枚集まったとか?」


「金貨も1枚以上集まったけど、もっといい知らせだよ」


「勿体ぶらずに教えてよ」


「なんと、これを手に入れました」

僕は錬金術師さんにスライムジュエリーを渡す


「……え!?」


「これが欲しかったんでしょ?」


錬金術師さんの目から涙が流れる


「え、え、どうしたの?」


錬金術師さんは涙を腕で拭いながら答える

「嬉しくてね、これで…」


嬉しいってレベルじゃないように見えるけど


「事情があるなら話してくれれば、力になれるかもしれないよ」


「……スライムの涙が解呪薬の素材になるって前に言ったでしょ?僕の息子が呪われてしまったんだ。死にはしないんだけど、ずっと目を覚まさないんだよ」


思ってたより重い言葉が返ってきた


「これで解呪薬が作れるようになったのか?」


「一歩進んだかな。解呪薬は集める素材が多くて、その中で一番難しかったのがスライムの涙だったんだ。後はお金さえあれば集めれるからね」


「お金はあるの?」


「君に金貨20枚渡したらほとんど0だよ。でも後数ヶ月働けば集まると思う」


なんだか貰いにくいな


「僕への報酬は後でいいよ。まずは息子を治してあげてよ」


「それはダメだよ。今までは何年掛かっても手に入るかわからなかったスライムの涙がここにある。それだけで十分だよ」


うーん、そうなのかな。

いや、少しでも早く息子に目を覚まして欲しいだろ


「その息子に会わせてもらえないかな?」


「え?」


「ミアが治癒魔法使えるからね。体力くらいは回復出来ると思うよ。それくらいしか出来ないけどね」


「ありがとう、それじゃあお願いするよ。息子は家にいるから店を閉めてくるよ。少し待ってて」


「わかった。外で待ってる」


「それじゃあ行こうか。あとこれ、火、水、土、風、聖の魔石だよ。他のはまだだからもう少し待ってて」


僕は魔石を受け取る


「ありがとう」


錬金術師さんの家には聞いてた通り子供がベットに寝かされていた。


僕は鑑定で観る


カイル

呪(強)


たしかに呪われてる。しかも強い呪いのようだ

でも僕は疑問を覚える


「なんで呪われてるってわかるの?」

僕は鑑定が使えるからわかるけど、それ以外は昏睡状態と変わらないように見えるんだけど…


「僕は去年まで王国で専属の錬金術師をやってたんだ。その時に国の騎士から息子が魔族に襲われて呪いを受けたって聞いたんだ。医師からも体に異常は見当たらないから呪いくらいしか考えられないと。」


「王国で錬金術師やってたんだろ?なんでここにいるの?」


「王国のやり方には前から納得いかないところが前からあってね。これを機に辞めたんだ。宰相からは息子を治すなら国で働き続けた方が良いって言われたけどね…」


また王国か……


「もしかして、息子のことがなくても国を離れるつもりだった?」


「よくわかったね、そうだよ。国を出ようと考えてた時に息子が呪われたんだ」


完全にクロだな。引き止める口実のために呪いを掛けたと


「王国がなにかやったとは思わなかったの?」

聞いてるだけでも、完全に王国が原因だと思うけど


「そう思うけど、大事なのは息子を治すことだからね。それに呪うよりも解呪する方が何倍も難しいんだ。王国で解呪出来るとは思わなかったからね。結局王国を出ることにしたよ」


「神官でも呪いは解けなかったの?」


「ここまで強い呪いは無理だって。だから解呪薬なんだよ。作ろうとしてるのはとびきり強力なやつなんだ。これでダメなら諦めるしか無いよ」

悲しそうな顔をする


「錬金術師さんは口は固いかな?これから起きることを誰にも言わないと約束できるなら僕が治せるかもしれない」


「え?何を言ってるの?君は冒険者だろ?神官様でも無理だったのに」


「今大事なのは、約束出来るのか、出来ないのかだよ。それと僕を信じることが出来るかどうか」


錬金術師さんはしばらく考えた後口を開く


「息子を治してくれたなら君は僕の恩人だ。恩人が黙っててくれと言うなら何があっても話さない。それに可能性が少しでもあるならお願いしたい」


「わかった。じゃあ、しばらくの間部屋から出ててくれないか?見られていると出来ないんだ」


錬金術師さんは悩みながらも部屋から出て行く


「悪いけど、フィルとフェンは向こうから出ていってもらえるかな?終わったら念話で呼ぶから」


僕は錬金術師さんが出て行った方とは逆側にある窓を指さす


「ハイトさんが言うならそうする。フェン、行くよ」


フィルとフェンが窓から外に出る


なんでこんなことをしたのかは錬金術師さんには僕が治したと思わせるためだ。実際に治すのはミアだ。

僕とミアだけが部屋に残るとミアが何かやったと思われるかもしれない。だから、フィルとフェンも残ってるように工作した。

フィルとフェンに見せたくないのは、僕達のことを知りすぎて危険に晒されないようにとの配慮のつもりである。


「ミア、浄化魔法使えたよね?」


「うん」


「あのスキルも使っていいから、杖に聖属性の魔石付けて思いっきり浄化魔法を掛けてもらえる?そしたらなんとかなると思うんだけど…」


「全力でいいの?」


「…まずは2割くらいで様子を見ようか」

全力はヤバイかもしれない。浄化魔法だから掛けすぎても良いとは思うけど


「そうだね」


ミアが浄化魔法を掛ける


カイルの体が眩しく光る


光が収まったところで鑑定で観る


うん、呪いが綺麗に消えてる


「呪いは消えたよ。ありがとう、ミア」


「よかった。でもやっぱり1割くらいでもよかったんじゃないの?」


多分1割でもやりすぎだったかもしれない


「治ったから細かいことはいいんだよ」


「そうだけど…」


僕はフィルとフェンを念話で呼んだ後に錬金術師さんを部屋に入れる


「呪い解けたよ」


「ほんとにかい?」

錬金術師さんは泣きそうだ


「嘘じゃないよ。なんでわかるのかは言えないけど、少ししたら目を覚ますんじゃないかな?」


そんなことを話してるとカイルが目を覚ました


……!


「カイル、目が覚めたのか……?」


「パパ?」

カイルは父親が泣いている理由がわからないのだろう


「ありがとう、ほんとにありがとう」

錬金術師さんはカイルを抱きしめながらお礼を言う


「たまたま解呪する手段を持ってただけなので気にしないで下さい。それと、今日の事は誰にも言わないようにしてくださいね。」


「ああ、もちろんだとも。何をすれば恩を返せるかわからないけど、僕に出来ることがあったらなんでも言って欲しい。」


……


「それなら、残りの魔石もタダにして欲しいかな。あと、スライムジュ…スライムの涙も必要なくなったなら返してもらってもいいかな?」


「そんなことでいいならいくらでもやるよ。頑張って作るから待ってて」


僕は錬金術師さんからスライムジュエリーを返してもらう。渡したままでもよかったんだけど、ミアが欲しがってたからね。功労者に渡した方がいいだろう


「急いでないから、今は息子との時間を大事にしてよね」


「ああ、助かるよ。ありがとう。あとこれ」


錬金術師さんが金貨の入った袋を持ってくる


「スライムの涙は渡してないから受け取れないよ。僕達はタダで魔石を10個も作ってもらうだけで満足してるから」


「それじゃあ、僕の気が収まらないよ」

引いてはくれないようだ


「わかった。なら半分もらうよ。残りは息子の為に使えばいいよ」


僕は袋から金貨を10枚取って袋を返す


「ほんとにいいのかい?今は無理だけど、もっと出しても良いくらいなのに…」


「いいんだよ。そのかわり、また何か欲しい時は言うから、その時はよろしく頼むよ。……ちゃんとお金は払うからね、そういった特別扱いは今回だけでいいから」


お金はいらないみたいな事言いそうだから先に釘を刺しておく。それにちゃんとお金を払ったほうがこっちも頼みやすい


「……気持ちが変わったら言ってよね。」


「わかってくれてよかったよ。それじゃあ早速だけど属性付き魔石をもう1セット追加で作ってもらっていいかな?ゆっくりでいいから」


「わかったよ。金貨1枚でいいかな?」


全然わかってないようだ。


「金貨2枚でお願いするよ。前にサービスで2枚って言ってたでしょ?」

何故に買うほうが値上げ交渉してるのだろうか……


「しょうがないな。金貨2枚で受けるよ」


「今後も正規の金額でいいからね。あまり安くされるとこっちも遠慮して頼みにくくなるから」


「それは困るから、ちゃんとお金もらうことにするよ」


「今度こそわかってくれたみたいで良かったよ」


その後、魔石の受け取り日を決めてから、鍛冶屋に寄って屋敷に戻ることにした。


鍛冶屋に寄った理由は、魔石を嵌め込む武器を僕の分も作ってもらう為である

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