第40話 逃亡者、装備品を買う

僕達は裏通りにやってきた。

ここは装備品や工芸品などを作る職人が多く住んでいる一画みたいだ


周りからカンカンと鉄を打つ音が聞こえる


装備品を扱っている店の中で一番繁盛している店に入ることにする


「いらっしゃいませ……」


店主と思われる男性が僕をみて挨拶をするがフィル達をみて顔を歪める


「この子達の装備品を探してるんですが…」


僕は嫌な気持ちになりながらも欲しいものを伝える


「……その辺りにあるから勝手に見な」


感じ悪いなぁと思いながらもさっさと済ませようと店主が指差した方にある武器を鑑定する


鉄の短剣

鉄を主材料に作られた短剣

打ち込みが足りない粗悪品


鉄の槍

鉄を主材料に作られた槍

焼き入れが足りない粗悪品


ここには粗悪品しかないな

獣人にはまともな物を売る気はないのか


僕は勝手に他の所の武器も鑑定する


鉄の剣

鉄を主材料に作られた剣

打ち込みも焼き入れも足りない粗悪品


……まともな武器が無い


「すみません、もっとまともな武器はないんですか?」

僕は店主を呼んで確認する。イラッとして少し挑発気味になったのは許してほしい


「……俺の作った武器が気に入らねぇと?これだから獣人なんか連れてるやつは見る目がねえ」


「ここにある武器だとそうですね。粗悪品ばかりです」

店主が睨みつけてくるが、イラっとした僕は正直に答える

周りの客がざわつく


「そこまで言うなら俺の最高傑作を持ってきてやる」

そう言って店主は奥から剣を持ってくる


「ほら、これならどうだ?」


「見させて下さい」


銀の長剣

銀を主材料に銅と混ぜ合わさった銀合金の長剣


粗悪品ではないのか…特別良いわけでも無さそうだけど


「ちなみにいくらですか?」


「金貨4枚だ」


高いな。金貨4枚の価値があるようには思えないけど

「高くないですか?粗悪品とはいいませんけどそんなに良いものには見えませんが…」


僕は正直に答える。こういった人に遠慮する必要もないだろう。


「ふざけるなっ!この剣は俺の最高傑作だぞ!金貨4枚でも安いくらいだ。そんなに言うならこの剣よりいい武器を持ってきてみろ」


「わかりました。それでは僕の愛刀でその剣が切れなかったら金貨10枚で買いましょう。ただし切ることが出来たら金貨5枚下さい。もちろん剣の弁償もしません。ちゃんと証文も書きますよ」

僕は店主の挑発を買うことにする


ミア達が心配そうに見てくるが僕は頷いて返事をする


「出来るならやってみるがいい。」

店主が乗ってきたので僕と店主とで証文を交わす。保証人には悪いけどもサラさんにお願いした。


周りの客も僕達の言動にざわめき立つ


店主が握る長剣に僕は村正で斬りつける。

するとバターを切るかのようにスッと長剣が斬れる


思ったより手応えがなかったな。村正でこの剣が斬れないとは思ってなかったけど手応えがなさすぎた。


「賭けは僕の勝ちのようですね。金貨5枚いただくとしましょうか」


店主は半分になった長剣を見ながら言葉を失っていたが急に言い訳を始める


「なにか小細工をしたに違いない。薄汚い獣人を連れてるやつにこの剣を斬れるわけがないだろう。きたないやつめ!さっさと失せろ」


僕はカチンとくる

「こんな剣しか作れない店から出ていくのは構いませんので早く金貨5枚出してくれませんかね?僕もこんな所早く出て行きたいんでますよ!」


「そんなの無効に決まってるだろ」


「証文もありますけど」


「そんな証文は無効だ」


「そちらにいる方達もそう思われますか?」

僕は見物している客に問いかける


返事はなかったが表情を見る限り半々くらいか…残念だな


「証文で交わした僕の方の保証人であるこちらのサラさんですけども、領主様の直属の部下ですが、あなたの言った言葉に責任は持てますよね?」


「そんな嘘で私が騙されると思っているのか?」

店主に一瞬動揺が見られるが変えるつもりはないようだ


「それでは一緒に領主様のところに行きますか。僕自身も領主様とは仲良くさせてもらってますのですぐに会ってくれると思いますよ」


店主は苦虫を噛み潰したような顔をする。そして

「あなたがそんな手段に出るなら私にも考えがありますよ。これは商売の話ですからまずは商業ギルドのマスターに話を聞きませんと」


買い物に来ただけのはずだったのに大物の名前が出たな。確か商業ギルドのマスターは獣人に対して毛嫌いしてるんだったな。これは逆にチャンスかな


「構いませんよ。では私とあなたとそちらのマスターと領主様の4人で話をしましょうか。私は今からでも構いませんよ。わたしの頼みであればミハイル様もすぐに時間をつくってくれるでしょうから」

僕は余裕の表情で答える。


実はミハイル様には名前を出す前から[念話]スキルを使って逐一連絡をしていた。

[念話]は街道でワルキューレの方達に力を見せるために戦ったゴブリンを倒した時に獲得していて、便利なので実はちょくちょくと使っている


「話をしてくるから少し時間をくれ」


「どのくらい掛かりますか?僕はいいんですけど、ミハイル様をいつかもわからないまま待たせるわけにはいきませんからね」


「明日の昼までには決める」


「明日の3の鐘までにそちらのマスターが来れないのであれば、あなた1人で話し合いに来てください。ミハイル様の屋敷でお待ちしておりますので。あなた方の都合で何日も待たせれる程、ミハイル様は暇ではないですからね。」


店主は顔を真っ赤にして拳を握っている


少しやりすぎたかなと思うけど、現状を打破するためには、このくらいは必要と割り切る。始めから獣人だろうと普通に接していればこんなことにはならなかったんだから。


「みんな、そういうことだから出ようか。他の店に行こう」


僕達は店を出て、違う店に入る


入った店はさっきの店よりも少し規模が小さい店舗で、店主は僕達に気づくと迷惑そうに見ていた。

表面上はちゃんと客として扱っているのでさっきの店よりはマシだと思う。

置いてある品も悪くはなかったので、他の店を見てからダメならここで買うことにしようと決めて店を出る。


何店舗か見て回ってわかったことがある。大きい店ほど獣人に対しての差別意識が強い。多分商業ギルドの息が掛かっているのだろう。


僕達は裏通りからさらに路地裏へと入って行ったところに寂れた鍛冶屋を見つける。


時間的にもここが最後かな…


僕達は寂れた鍛冶屋に入る


カウンターには誰もいない

「すいませーん、誰かいますか?」


少し待っていると中からどっしりとしたおじさんが出てきた。親方かな。


「なんだ?冷やかしか?」


「冷やかしではありませんよ。この子達の装備が欲しいんですけど、あれば見せてくれませんか?」


親方は3人を見た後に


「随分小さいな。それに獣人か…」


ここも獣人を差別するのか……

諦めかけたその時、親方の次の言葉でその考えは覆される


「そのサイズだと既製品だと合わなくて危険だろう。合ったサイズの装備を作ってやるからそこに並べ」


そう言って3人を並ばせると一人一人丁寧に身体のサイズを測っていく。


「よし、どういった装備がいいんだ?」


聞かれても僕はよくわからないので聞くことにする。

「どんなのがあるんでしょうか?」


「ちょっと待ってろ」

そう言って奥から武器や防具を持ってくる


「武器は護身用なら短剣。ダンジョンに行くなら剣。対人なら長剣がいいだろう。魔法を使うなら杖でもいいな。防具は子供だし皮を滑した軽いやつがいい」


親切に教えてくれる


「少し見せてもらってもいいですか?」


「勝手にしろ」


僕は持ってきてもらった短剣を鑑定する


鋼鉄の短剣

鉄を主材料に炭素を混ぜ合わせたハガネの短剣

職人の技量により刃こぼれがしにくい


「それは鉄の短剣だな。おすすめはしないがすぐに欲しいなら普通の剣よりはいいだろう」


「え?ハガネですよね?」

僕は聞き返す?


「ハガネ?ってのはなんだ?」


「いや、この短剣ハガネで出来てますよね?」


「ハガネってのはよくわからないが鉄の強度を上げるために炭を混ぜ込んでるな」


この人の腕でこの仕上がりなんだな


「急いではいないので獣人の2人に合ったサイズでこれと同じ短剣を下さい。あとこっちの子には杖をお願いします。使うのは支援や治癒魔法です。いくらかかりますか?」


足りなければ、稼いでからでもここで作ってもらおう


「…いくらある?」


「金貨10枚です。ただ今手元には5枚しかありません」


「金貨9枚で作ってやるから残りで防具を買え。金は後からでいい」


多分武器だけで金貨10枚は超えててもおかしくないはずだ。


「ありがとうございます。防具はお任せしてもいいですか?」


「わかった、文句は言うなよ。3日で作るから4日後に取りに来い」


「よろしくお願いします」


いい鍛冶屋に巡り会えたな。また必要になったらここに来よう。

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