第53話現状

秋になり収穫の季節になった事で、まだ農兵分離が出来ていない各方面を担当している諸将は農兵が使えず、関東は一時の静寂を得ている。

自分は江古田館でほぼ穏やかな生活を送ってたけど、豊嶋泰経、太田道灌、長尾景春、成田正等は多忙な日々を送っていた。


三浦時高は大森家と膠着状態の為、主に渡した設計図を元に大型船の建造に力を入れ、三崎と城ヶ島の砂浜を埋め立て軍船の基地作りに力を入れているらしい。

水軍は重要だからね、いずれは三浦家に水軍を管理させようと思う。


葛西城を拠点として豊嶋泰経は下総へじわじわと勢力を伸ばしているものの支配地の地盤固めと専業足軽育成に専念している感じだ。


成田正等は古河方面の利根川沿いまで勢力を伸ばし古河公方への圧力を強めているが、利根川の水運を牛耳っている関宿城の城主である簗田政助が調略出来ず、かといって攻めると古河公方も本気で援軍を出す恐れがある為、現状膠着状態と言った感じだ。


長尾景春は自身が乱を起こした際に破壊した五十子陣いかっこのじん(本庄市)を再建し拠点として上野の方面の国人領主を調略している。

流石に関東管領の勢力が弱くなったとはいえ調略はなかなかうまく行って無いらしい。


そして太田道灌は相模への圧力をかけつつ、地味に地盤固めに力を入れている。


いずれも領地替えなどをおこなった事に不満を持つ国人領主が領地を追われた国人領主と手を組み兵を挙げたりしたので全員が大規模な攻勢に出れずにいたが、地盤固めと各方面への調略や圧力はかけてる事に注力している。


そんな中、扇谷上杉家の当主となった上杉朝昌の元には所領を追われた国人領主などが集まっていて手に負えない状態になっているらしい。

反鳳凰院と親鳳凰院で割れていて反鳳凰院の勢力が日に日に強くなっているとの事だ。

何度か道灌が兵を出して圧力を加え追い散らしたものの、圧力が弱まれば再度反鳳凰院派が集まると言った感じだ。


道灌の報告では上杉朝昌もかなり頭を痛めているうえ大森家の使者や関東管領上杉顕定からの使者が頻繁に訪れているとの事で監視を強化しているとの事だ。

恐らく朝昌を焚きつけて兵を挙げさせ自分達を弱体化させるつもりだと思う。


実際の所、朝昌が大森家と手を組み兵を挙げ、それに上杉顕定と古河公方足利成氏が呼応したら再度劣勢を強いられる可能性がある。

目下、風魔衆を派遣して情報収集にあたってはいるものの、まだ新設されて間もない為、人手不足感は否めない。


ただ鳳凰院家の専業兵士は現在の所、約4000人で内訳は足軽3000人、騎馬隊1000人と増強されているのでいざとなれば遊軍として転戦し各個撃破が出来るはずだ。

足軽には4メートルの長柄を持たせ軍装はは黒に統一し、乱戦になっても良いように太刀での戦い方も教えたし、連弩の扱いも教え状況に応じて武器を変えられるようにしていし、騎馬隊も軍装を赤で統一し馬上槍に加え片手でも一発は打てる小型の弩を持たせ一撃離脱も可能にした。

恐らく練度はまだまだだけど集団戦を行う上である意味強力な部隊になっているはずだ。

実戦はまだ経験していないので若干心配ではあるけど陣形訓練もしているから多分大丈夫だと思う…。

伝達手段が伝令か太鼓などの鳴り物なのが不満だけどこればっかりは仕方ない。

無線とかは流石に作れんし!!


因みに鉄砲隊も組織はしたけど現在は鉄砲鍛冶を育成している最中で量産体制が整ってなく、所有数が100丁程度なので合戦の際相手の出鼻を挫く程度の効果だと思う。

せめて500丁ぐらいあれば良いんだけど、流石に製造を開始して1年程度で量産体制は整えられなかった。

まあ硝石も安定供給体制が整て無いので数だけ多くても意味が無いんだけど…。


それにしても、領内の鍛冶師不足は深刻だ。

熟練の鍛冶師は鉄砲を始め刀剣類、手押しポンプの制作をし、農機具などは若手が担っている。

農機具類は最悪壊れても再度打ち直して再利用できるから若手に作らしているけど、それでも農業に使う鍬や鋤、鎌なども不足しているし、鉱山で使う道具も不足している。

堺などに向かった商人を通じて鍛冶師を呼び寄せてはいるものの流石に人材不足が解消されるにはほど遠い状態だ。

流民の青年や子供などを見習いとして育ててはいるもののこれも最低限の技術が身につくまでに数年はかかる思われるしなかなかうまくいかない。

まあこればっかりは仕方ないので諦めて気長に行こう。


それにしても火縄銃にに関しては口径の統一は出来たもののライフリングを刻むのは現時点では難しいと鍛冶師達が言っていた。

ただ銃弾を球状から先端に丸みを持たせた円錐形、例えるなら人差し指の第一関節までの形にし斜めに溝を刻んだ為、命中率は良くなった。


本当はフリントロック式の銃を作りたかったけど、ネットで調べたら日本の火打石は発火性が弱いので不発率が高くなりそうなのであきらめた。

そして雷乾式は自分の中で技術的に不可能との結論に達したのでますは弾丸の形状を変える事で暫くの間は我慢することにした。

流石に科学の下地も無い時代に雷管は無理だよね。


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※次回更新は6/16 23時を予定しています。

補足

フリントロック式銃は火縄を使わず火打石を使用し発砲する銃ですが、日本に伝わったのは江戸時代でした。

国内でも生産を試みたようですが、どうやら日本の火打石の質が悪いようで火縄銃が使われ続けたようです。

因みに現代の技術だとライフリングを刻むのは簡単ですが、鉄砲を一丁一丁手作りしている時代には流石に難しいようです。

ライフリングを刻む工具の開発が必要ですし、刻み過ぎると銃身の強度が落ちますから。

ライフリングを考えた人、銃弾を球状から変化させた人はある意味天才だったのかもしれません。

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