第50話交易

主だった家臣へ仕事を割り振った翌日、建設中の江古田城を視察して品川湊に向かう。


それにしても江古田城と言うより江古田館だったな…。

見る限り防衛には向かないし城に区分するなら平城だけど堀の替わりとなる川も浅いし、完全に居住性重視だ。

そう言う要望を出したのは自分なんだけど、意外と建設が進んでいるのには驚いた。

合戦中も日当が出るから近隣の農民を始め流人まで集まったからみたいだけど機械とか無いのにマンパワーでここまで早いとは。

これも労働基準法なんてものが無いからなのか、それともこの時代の人が勤勉だったのか。


建設現場を軽く視察した後、馬を飛ばし品川湊に向かうと、顔役である宇田川清家が出迎えてくれた。

そう、今回品川湊に来た一番の目的は建造中のガレオン船がどの程度出来上がっているかの確認と堺との交易を本格化してもらう為だ。


用意された屋敷で一夜を過ごし、翌日、造船所に足を運ぶと何故かそこにガレオン船とガレー船を掛け合わせたような船が出来上がりつつあった。

「これは? 設計図通りに作ったらこうはならないよね?」

「恐れながら、設計図の通り建造する事も出来ましたが風が無ければ船が動かないのは問題と思い、かいを付けさせてもらいました。 しかし積める荷の量も人も今まで以上でございます」


そう言われてしまうと怒るに怒れない…。

怒る気はないけどまだガレオン船の導入は時期早々だったか。

とは言え、品川湊で2隻、江戸湊で1隻、合計3隻が一月ほどで進水するとの事だ。

水夫に関しては育成が終わっているとの事で、進水し試験的に航行をしてみて異常が無ければ直ぐにでも堺に石鹸や米を積み込んで向かい、堺で綿花の種、異国の野菜や果物の種、そして香辛料などを仕入れて来てもらうつもりだ。

本当なら清酒も売りたかったけどまだ完成していないので主力商品が石鹸になったけど、まだ南蛮との取引はしていないはずなので手に入るだけ仕入れて来てもらう事になっている。


最初の取引には宇田川清家が直接堺に行き、堺に拠点を作る予定になってるし今後も船が増えれば取引量も増えるから潤沢に資金が自分の懐に入るはずだ。

さらに言うと堺に拠点が出来れば京都方面の情報収集もしやすくなるので全面的にバックアップするつもりだ。

それにしても先の合戦でかなり儲けたのか既に次の船を建造する準備を始めてるし、造船所も増えてる。


「後は湊の整備だな…。 遠浅だから大型船が直接接舷出来ないから江古田城が出来上がったら人を集めて埋め立てをして利便性を良くしよう」

そう言い大まかな埋め立て計画を説明し準備を始めておいて貰う。


土砂に関しては近くの丘陵や丘を削ればいいし、護岸に使う石もそこそこあるから工事が始まれば半年もしないうちに大型船が接舷できるようになると思う。

本格的な整備は後々で問題ないだろうし。


「あとは金が欲しいな…。 東北の方は金が沢山ありそうだからそっちとも交易はしないの?」

そう建造状況や堺でおこなう商売の説明をしながらついて来た清家に質問をするとどうやら既に交易はおこなっているもののどちらかと言うと向こうから来るのが殆どのようでこちらからは積極的に出向いていないとの事だった。


清家には東北方面への交易路を確立し対価として主に砂金を手に入れる用に伝えておいた。

砂金はあっても困らないしこれから何かしらの朝廷対策とかも必要になる可能性もあるし、海外との取引でも恐らく役に立つはずだから有って困る事は無い。

本来なら自領で採掘出来れば良いんだけど関東は金が取れる場所少ないんだよね。

無くな無いけど手間も時間もかかるし。

それなら手っ取り早く量産が進んでいる石鹸や今後量産されるはずの清酒や醤油、ハチミツなんかを売って砂金を手に入れた方が楽なはずだ。

秩父でも採掘はするけど秩父で得た利益は主に風魔衆の拡大に使用されるだろうし。


その後、一通り視察を終えてから屋敷に戻り埋立地に関する打ち合わせを行っていたら夜になってしまったので品川湊に一泊し翌日石神井城へ戻った。


それにしてもガレオン船がまさかガレー船とガレオン船を組み合わせたようなものになってるとはな。

合戦で進捗を確認出来なかったとは言え、次回新しい物を作る際は小まめに進捗を確認しよう。


その後、石神井城に戻るとその足で鉄砲生産を頼んでいた鍛冶師の所に足を運ぶ。

武器類を作る鍛冶師は石神井城の近く、現代だと石神井公園のボート池の辺りに多くの鍛冶場を作り作業をして貰っている。

現代のボート池の場所は三宝寺池から流れる川があり石神井川の支流のようになっているので鍛冶で使う水もあり、水車を利用し水力で回転する砥石で刀や槍を研ぐ道具などもあのである意味武器製造場のようになっている。

因みに農具を作る鍛冶師達は別の場所に鍛冶場を作り提供している。

農具は鍛冶の腕が悪くてもあまり問題ないけど、武器類に関しては腕のいい職人に作って貰わないと困るもんね。


因みに鉄砲造りの進捗はそこそこ進んでいいるようで多分欠陥があるだろうけど3丁程が完成していた。

うん、見た目は火縄銃だけど試し撃ちするのは勇気がいるな…。

不発なら良いけど暴発したら怪我しそうだし。


と言う訳で翌日、罪人を使って試射する事にした。

試射をする罪人は野盗だったらしく現代で言う強盗殺人を繰り返していらしく斬首が決まっていたらしく出来上がった鉄砲の試射役として仮に鉄砲が暴発して死んでも問題無いらしい。


昔の人って怖い!!

まあ今回試射で無事に生き残って今後もしっかりした物が出来るまで無事に試射役を成し遂げたら恩赦与えてあげよう。

今後つくる鉄砲隊の指導役として登用してもよさそうだし。


補足--------------------------------------------------

当時、明(現在の中国)との貿易は勘合貿易が行われており、割符が無いと基本的には取引が出来なかったと言われています。

これは朝貢国と明との国家間の位置づけを明確にすることに加え公私船の区別を行う為と言われています。

因みに私船(民間貿易)は、倭寇に代表されるように手荒い事もする為にそれを締め出す為に行われたとも言われています。

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