第46話三浦時高の思惑

石神井城へ戻って来て3日後、三浦時高と面会する為に江戸城に居る。

う~ん、以前来た時に比べ江戸城の造りが変わったような気が…。


そう思うのも当然で江戸城を任せていた泰経さんの弟である泰明さんが防衛力強化の為に櫓や空堀、水堀の増設をしたらしい。

うん、防衛力が強化されるのはいい事だ、でもあまり意味のなさそうな所に水堀が…。

ってどうやら人手の関係で先に水堀が完成してしまい城壁が間に合っていないとの事だった。

良かった。 まさかと魚の養殖でも始めるつもりかと思ったよ。


葛西城から三浦時高さんが来るまで、泰明さんから江戸城改築の説明や合戦の話などを聞きながら待つ。

それにしても普通に考えるなら時高さんの養子になっている高救さんが説得して援軍を送ってくれたと考えるべきなんだろうけど三浦時高って言ったら確か道灌さんが殺された後も上杉定正に従ってたような気がするんだけど、何か心変わりする事でもでもあったのかな…。


そんな事を思っていると、時高が到着したと報告が入った為、主殿に向かい時高を待つ。

本来ならば上座に座って待つところなんだろうけど敵なのか味方なのか、それに目的も分からない為、上座では無く右側に座り、その後ろに泰経さん、泰明さんが座る。

時高さんは上座から見て左側に座るようにして同等の会見と言う演出にし出方を伺うつもりだ。


主殿で待っていると10分程で時高とその家臣数人が主殿の広間に案内された。

自分が上座に座ってない事に驚いた表情をしていたけど席を進めるとそれに従い座って平伏した。


「お初にお目にかかります。 三浦時高でございます。 この度の合戦大勝利お祝い申し上げます」

「こちらこそ、お初にお目にかかります。 鳳凰院宗麟です。 この度合戦に勝てたのは三浦殿のおかげと言っても過言ではありません。 この場を借りてお礼申し上げます」


時高さんの挨拶の後で自分が挨拶しお礼を言うと、時高は主であった定正が古河公方の侵攻を防ぐ為に作った葛西城が奪われたので取り返しただけで味方した訳ではないと平然と言い放つ。


「それで時高さん、今回面会を希望された理由とかお聞かせいただきますか?」

「理由でございますか…、理由は葛西城とその一帯を幾らで買って頂けるかと言った所ですかな、後は今後の誼を通じれればと…」


「葛西城とその一帯を金で売ると? 誼を通じるのは願っても無いですけど今は結構物入りでお金がいくらあっても足りないんでご希望の額では買えないと思いますよ」


実際の所、定正の本陣にあった金とかを手に入れているけど当座の褒美として分配し、残りは農業器具の開発や澄酒などの開発、そして硝石作りや鉄砲の生産などに投入予定なのでぶっちゃけ金がない!!

品川湊と江戸湊の商人達は今回の合戦に際して助言して儲けさせているのでその分税収は望めるものの城とその周辺の領地を買い取るほどの金は無いのが現状だ。


「左様でございますか…、では葛西城の話は後でお話させて頂くとして、誼を通じる事でございますが、率直に申し上げるがわが娘を娶って頂きたく」

「娶るって嫁にしろと? 知ってるかもしれませんが既に3人お嫁さんが居るんですけど更に娶れと?」


「左様でございます。 泰経殿、道灌殿、景春殿、お三方のご息女を娶っているのは知っております。 ゆえに我が娘も娶って頂きお三方同様に宗麟殿との繋がりを強固にして頂きたい」

「それは自分の配下になるという事ですか?」


「高救の話では関東を統一した暁には三浦家に相模一国をお与えくださると聞いております。 なれば我が娘を娶って頂く事でわれらの忠誠の証とさせて頂きたく」

「因みに娘さんの年齢は? 知ってると思いますけど自分は異世界から来たんで若すぎる娘はチョット…、まだ3人にも手を出してないし。 それに相模一国と嫁取りは関係ない気が…」


また手を出せない嫁が増えるのかと心の中でボヤキながらも一応年齢を確認すると時高さんは若干バツの悪そうな顔をしつつ絞り出すように口を開く。

「じゅ、18になります。 大森実頼の嫡男、定頼の元に嫁いでおりましたが離縁され…」


時高さんは絞り出すように年齢を言い、離縁された事を口にする時には怒りを押し殺した口調になっていた。

「あ~、彩姫さんを嫁にという事ですか? 18歳なら良いですよ。 事情は大まかですが耳にしてますし自分は特に気にしませんから」

「ま、誠でございますか? 事情を知っていてなお娶って頂けると?」


「うん、むしろ自分に甲斐性があるかどうか分からないから幸せに出来るかどうかは分かりませんが、大森家で彩姫さんが受けた扱いのような事はしませんから。 自分の居た世界には角がある人は居なかったので、1本だろうと、2本だろうと、3本だろうと気にしませんし」


そこそこ詳細な情報が伝わっていた事に驚いた様子ではあるものの無条件で快諾されるとは思って居なかったようで時高さんは目に涙を浮かべながら平伏し、堰を切ったかのように大森実頼、定頼親子への不満が噴出した…。


うん、うん、そうだよね…、それは酷い、などと相槌をうっていると少しは落ち着いたのか、咳ばらいをし襟を正した後、時高さんが平伏する。

「宗麟殿…。 いや宗麟様、これより三浦家は宗麟様を主として仰ぎお仕えいたします。 それと一つご相談が…」


家臣になると宣言した時とはうって変わって時高さんは相談の話になると途端に言い淀む。

不思議に思って聞いてみたらどうやら時高さんの子供は女の子ばかりだったので上杉家との繋がりを強くする為に養子として高救を迎え、孫も生まれたので安心して隠居出来ると思って居た所、なんと時高さんと側室との間に男の子が生まれたとの事でどうやら婿養子の高救さんでは無く自身の子である高教君に三浦家を継がせたいとの事だった。

まだ9歳らしいけど孫より自分の子供に家を継がせたいと言う親御心が見て取れる。

それで家を二分して争い衰退する家は結構あるのでその事を、高救さんに直接言えばお家騒動になりかねず悩んでいたようだ。

それを自分の家臣になった事で打開しようと思っているらしい。


「出来れば扇谷上杉家の当主にするという事で三浦家から上杉家に戻して頂ければと…」

「う~ん、それはちょっと無理っぽい。 七尾城の上杉朝昌さんに扇谷上杉家を継がせる約束してるし…」


そう、既に扇谷上杉家の家督は先約が居るんだよね…。

「朝昌殿ですか…、糟屋館に入り扇谷上杉家の当主となる事を宣言し国人領主を纏めようとしておりますが…」

「上手くいって無いんですか? 当主を宣言し厚木、伊勢原一帯を掌握するように指示を出しといたんですけど」


「宗麟様のご指示でしたか、どうりで手際が良いと思いました。 ただ‥」

「ただ?」



歯切れの悪い時高さんに、詳細を聞くと、どうやら厚木、伊勢原周辺を掌握しようとしているみたいだけど、扇谷上杉家の影響力が強い地域の為、弔い合戦をと声をあげる国人領主が多く説得に苦労をしているらしい。

しかも厄介なことに弔い合戦をと声を荒げる国人領主を大森実頼が裏で煽っているようで朝昌さんにも接触をしていて、このままだと自分に味方する国人領主と敵対する国人領主の間で争いが起きるのも時間の問題との事だった。


三浦家の領地と大森家の領地だと大森家の方が厚木、伊勢原に近いから合戦が起きれば大森家の支援を受けた国人領主が有利になり最終的に朝昌さんは扇谷上杉家の当主として糟屋館を拠点としていると大森実頼の言いなりにならざる得ない可能性もあるって事だ。


扇谷上杉家の当主の座に固執してたから大森家を始め自分に敵対する国人領主を糾合し、伊豆に居る堀越公方、足利政知と手を組んで反旗を翻す可能性もある。

現状相模方面まで手が回らないから朝昌さんを信じるしかないけど、注意しておく必要があるな…。

その後も、相模の情勢など雑談をした後、時高さんは帰って行った。


因みに葛西城とその一帯は名目上彩姫さんの化粧領として自分に引き渡してくれるらしい。

どうやら彩姫さんを娶ってくれるなら元から自分にくれるつもりだったらしい。

まあ実際の所、三浦家の領地から離れた飛び地になってるから管理が大変だし有事の際に援軍を出すにも時間がかかるから固執する理由がないとの事だった。


これで武蔵の国にある19郡がすべて手に入った事になるけど、あれだけ大きな合戦をしてやっと武蔵一国を手中に収められたけど、これから日ノ本を統一するとなるとどれだけ戦わないといけないんだろう…。

先が思いやられる。


補足---------------------------------------------------------

政略結婚

戦国時代以前より政略結婚は武家、公家共によく行われており自家と他家の繋がりを強固にし地位を保つために当然のごとく行われていました。

しかし娘を嫁に出した家であっても合戦をしたりしたそうです。

ただ、正妻と言う立場に関しては戦国後期以前は夫や家の都合でコロコロ変わる為、敵対してもほとんどの場合離縁はされず、離縁をされる場合は完全に手切れをする場合か子供が生まれなかった場合だったそうです。

また戦国時代(応仁の乱)以降は官位の高い公家の娘を嫁にする事が大名などにとって一種のステータスみたいになっており(公家との繋がりを強くする意味合いもあり)大金を公家に払い妻としたそうです。

公家も天皇家も応仁の乱から金銭に困っており大名はそこに付け込み婚姻を申し込んでいたのかもしれません。

公家からしたら一時的に大金を得られる上に大名とのつながりが出来、大名が官位を欲しがっている際なども献金を求め収入を得る事が出来るので渡りに船だったのかもしれません。

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