第36話山吹の里

朝、日が昇り出す頃に諸将を集め軍議をし、軍を4つに分けて八王子、府中、武蔵村山周辺の制圧をするように命じ朝食を摂った後進軍開始する。


昨日の合戦でかなり甚大な被害が出たようで殆ど抵抗することなく降伏の意思を示し所領安堵を求めて来るも昨日の合戦に加わっていた国人領主は生け捕りにした人から聞き出しているので降伏を認めず自ら所領退去をするかもう一戦するかの選択を迫る。


一旦裏切っておいて今更降伏して味方に加わりますって言っても今回は認めない!!

主戦場になる松山城や川越城、鉢形城とはかなり離れた土地を領する国人だから今回は日和見してても問題は無かったはずなのに兵を挙げた事でかなり危機的な状況に陥ったんだから当然だ。

これが自分と両上杉に挟まれていて家を存続させる為に已む無くとかだったら情状酌量の余地はあるけど今回兵を挙げた八王子、府中、武蔵村山周辺の国人領主には酌量の余地はない!!


一部抵抗した国人領主が居たものの殆どの国人領主は一族を連れて領地を逃げ出して行った。

恐らく親類縁者を頼るか川越を囲む上杉定正の元に行き所領を取り返して欲しいと頼むかどちらかだと思う。


八王子、府中、武蔵村山周辺の制圧に2日程かかったものの、合戦に加わらず日和見を貫いた国人領主が従属の意を示した為、飯能3人衆の下に従属した国人領主を付ける形にして管理維持を任せ松山城へ向けて兵を進める。


多少の死傷者は出たものの寧ろ圧勝した事で士気が最高潮に達しているので進軍する諸将や兵の顔が明るく足取りも軽い。

かなりの領地が手に入ったから恩賞にあぶれる事が無くなった事が大きいのかな?

ただ自分直轄で武石さんが率いる足軽衆は出番なかったからチョット悲しそうな顔してる…。

うん、ちゃんと出番はあると思うから今回は我慢しようね。


そして松山城を目指して進軍を始め2日目は生越に到着し夜を明かす。

「ここが山吹の里伝説の地か~」

「山吹の里伝説とは?」


暇つぶしに作った異世界定番のリバーシーの相手をして貰っていた宗泰君が不思議そうな顔をして聞いて来た。


「自分の居た世界、まあ未来の世界と言っても良いんだろうけど、この生越に若かりし頃の道灌さんが鷹狩に来た際、雨が降って来たから蓑を借りに貧しそうな民家を訪ねたら出てきた娘が何も言わずに一枝の山吹を差し出した。 って話」

「某が生まれる前かまだ幼い頃の事でしょうから聞いた事はございません」


「だろうね、この話には続きがあって、山吹の枝を差し出した娘の真意が分からなかった道灌さんが怒って帰ったけど後で娘が蓑を貸してあげる事の出来ない事を『七重八重花は咲けども山吹の 実の一つだになきぞかなしき』という古歌に託したたと家臣に教えられて、道灌さんは歌道学び、文武両道の武将になったという伝説なんだけど…」

「なんと! そのような事が、それで道灌様が武芸だけでは無く歌にも通じているのですね」


「うん、多分というか確実に創作だと思うんだけど、そう言う伝説が伝わってるんだよね」

創作と言う言葉に若干驚きつつも宗泰君は容赦なく勝負中のリバーシでトドメの一手を刺した。

容赦ない!!

ていうか最近リバーシーを豊嶋家一門衆に教えたのに何でこんなに強いの?

宗泰君とは初対戦で泰経さんには全戦戦勝だっかから余裕で勝てると思ってたのに巧妙な打ち方をして来る。


宗泰君の強さに首を傾げつつも話が創作だろうと言う理由を説明する。

まあ理由は簡単でそもそもこの時代の人の識字率低いし、貧しそうな民家の娘が古歌を知ってること自体がありえないだろうしね。

そう言うと宗泰君も納得したのか「確かに」と言った後、もう一回やります? と笑顔で聞いて来た…。


もうやらないよ!!

宗泰君強いし、自分は負けず嫌だから勝つまで何度でもって言う人種じゃ無いし。

むしろ現在ボロ負けして心折れてるから!!


補足----------------------------------------------------

山吹の里

埼玉県入間郡越生町如意に山吹の里歴史公園があります。

4月~5月にかけて、約3,000株もの山吹の花が咲き、水車小屋などもあり趣ある場所です。

若き日の太田道灌にまつわる逸話がここで生まれたと言われています。

もう5月末なので山吹の花は終わりを迎えているかもしれませんが、新緑を楽しむ事も出来ますのでお近くの人は一度足を運ばれてみてはいかがでしょう。

因みに入場料・駐車場は無料でトイレなどもあります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る