第12話第二次 江古田原沼袋の合戦
「信頼殿、この紙に書かれた通りにすれば本当に成功するのか?」
そう言い、豊嶋泰経に渡された指示書と書かれた紙を読み返しながら奇襲部隊の将である平塚基守が同じく奇襲部隊もう1人の将、志村信頼へ不安そうに話しかけている。
「確かに某もそれを読んだ時には驚いた。 大胆と言うか無謀と言うか…。 このような事は誰も思いつかん。 やはり宗麟様のお考えは我らとは違うという事だ」
「そうは言うが、成功したとしても本隊が負ければ我らは袋のネズミ、囲まれて皆討ち取られるぞ?」
「確かに、これは本体が勝つこ事を前提に考えられた策だ。 実際、我らの奇襲が成功したとしても明日の戦には影響は無いだろう。 いや影響があってはならない、故にわざわざ物見に見つからないよう道を外れ大回りをしてるのだ、それに本隊が負けて我らも討ち死にする事になっても道灌に一泡吹かせる事ができるんだ」
「そうだな、いざとなれば火を放ち、盛大に暴れてやろうぞ!! それにしても道灌達を捕える方法まで事細かに書かれているとは、宗麟様は未来が見えるのか?」
「分からん!! それよりもそろそろ渋谷辺りだ、ここで休止を入れて夜に備えよう」
そう言い、村から見えない所に兵を集め兵達へ今のうちに睡眠をとるよう指示を出した後、家臣たちを集め、作戦の詳細を伝え、各自に役割を割り振る。
「さて、道灌達を生け捕れるかによって今後が決まると言われた以上失敗は許されんな…」
志村信頼はそう呟いて、日が傾きかけた空を見上げる。
「長い夜、そして明日は長い一日になりますな」
平塚基守も信頼と同じく空をみあげてそう呟いた。
やはり常人ではこのような事思いつかん。
そう思いながら2人はつかの間の仮眠をとった。
翌日、それぞれの持ち場に陣取った各部隊は夜が明ける前に起きだし朝食を摂り、空が白みだしたらいつでも攻めかかれるように準備を始める。
昨日、道灌が陣を張り、各隊の陣立てをおこなったのを確認し、それに対抗する為、明るいうちは一部を除く全軍が一塊となり、夜になって各自が決められた持ち場に移動した。
明るいうちにこっちの陣立てを見られ対策立てられると兵数が少ないこっちが不利になるもんね…。
まあ元から不利なんだけど、少しでも有利に戦いを進めたいし。
そう思いつつ、江古田川と妙正寺川の合流地点に布陣した部隊の篝火を眺める。
あそこには宮城さんと赤塚さんに明るいうちから陣取ってもらい、夜は篝火を絶やさぬようにと伝えておいた。
そして深夜になったら赤塚さんとその兵100が江古田川を渡り道灌軍の後備えである吉良成高隊側面まで密かに移動している…、はず。
気付かれて無いよね…。
気付かれてたら赤塚さん間違いなく討ち死にしちゃうんだけど…。
本人は望むところと言ってたけど、今後領地が増えると信頼できる統治者が必要になるから豊嶋家の一門衆減ると困るんだよね…。
実際、赤塚さんとこの嫡男はまだ10歳って言ってたし。
そんな心配をよそに、空が白みだし、辺りがうすらと明るくなり出したと同時に
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出陣前に聞いた話では、本来遭遇戦でない場合、お互い相手を罵倒したり自分達の正当性などを大声で言い合う言葉戦と言うものの後、前進を開始し本格的な戦いが始まるらしい。
だけど今回は言葉戦をしてる暇どころか余裕が無いので日が昇り始めたら突撃開始と事前に取り決めていた。
道灌には明日の合戦とは言ったけど時刻とかは何も居て無いし言われてないからギリギリ卑怯では無い…、はず…。
戦場では先陣を切って突撃した白子隊が正面に陣取る道灌家臣が率いる部隊とぶつかり戦闘が始まると白子隊の右側に待機していた板橋隊が白子隊と戦っている部隊の側面を突くように進軍を開始し、それを阻止しようと後方から前に出て来る道灌軍の部隊に豊嶋家重臣が率いる隊が立ち向かい、さらにその部隊の側面を攻撃すべく滝野川隊が前進する。
今回の布陣は正攻法な布陣の道灌軍に対し豊嶋軍は当主である泰経さんを起点にして右側に部隊を多く配し、反対に左側は泰経さんの弟の泰明さん、その左に宮城さん、後は自分だけと右側に偏った形になってる。
昨日道灌軍の布陣てを見てからこっちの布陣を決めたけど、道灌軍が数の優位を活かして横に広がり包囲するような布陣をせずある意味何の変哲もない布陣をしてくれたので安心して右に部隊を集中させる事が出来たんだよね。
実際既に右側の部隊は1隊が正面からの突撃し戦闘が始まったらもう一隊が側面から突撃をするように指示を出してるので右の戦場ではこちらが有利な状態だ。
しかも側面から攻撃をする部隊には泰経さんに頼んで急造で作ってもらったスリングを使った投石の後、攻撃するように伝えてるから完全に味方が押している。
滝野川隊の後方に居た庄隊も、左側に居た小具隊、そして庄隊の後方に居た豊嶋家重臣が率いる一隊も前進し道灌軍を右側から攻撃して善戦してるし、うん、右側はこっちが完全に優位だな…。
宗泰君も部隊を率いて前進を開始し、押され気味の部隊が居たらそこに加勢するようになってるし。
ただ左側の泰明隊は突撃を開始し戦闘に突入してるけど、相手が300人に対し味方は100人の為、既に押され気味になっている。
てか泰明さん、長巻を持って先頭で戦ってる…。
本当に泰明さんをはじめ赤塚さんや板橋さん、えらく好戦的な性格してない?
これって史実でも先頭に立って戦ってたから討ち取られたような気がして来た。
でも今回は不測の事態で討ち取られでもしたらかなり困るんだけど、今から泰明さんは後方で指揮をしてとか伝えても多分無理だよね。
泰明隊の左側には宮城隊が居るけど基本的に敵が退却を始めた時の追撃、または負けが確定し自分達が逃げる時の
右は優勢だけど左は劣勢、と言うよりも左側で現在戦っている部隊は泰明隊だけだから、劣勢は予想通りだったりするんだけど。
そして道灌軍は優勢な左側から劣勢になってる右側に部隊を移動させつつあるし、作戦は成功してる。
左側では泰明隊が徐々に後退しだしたので、当初の予定通り黒帝に乗った自分が猛スピードで戦場に乱入する。
黒帝のスピードと大太刀を軽々と振り回せる腕力を武器に泰明隊の横を通り抜け、側面から敵部隊の中に馬を乗り入れ大太刀を振り回しながら突き進むと目に見えて泰明隊への圧力が弱まっていく。
なんだろう、自分も気を引き締めて敵兵に攻めかかろうと馬を進めた辺りから自分と黒帝に赤っぽいオーラが纏わりついている。
これは何?
うん、分からない!!
害は無いみたいだし考えるのはやめて今は合戦に集中しよう。
敵軍の中を突っ切るように通り抜け、後方に居る千葉自胤部隊に正面から突っ込むとこっちは自分1人なのに黒帝に乗る自分から兵が逃げ回るように右往左往し始めた。
う~ん、誰かが名乗りながら馬に乗って向かって来たけど、名乗り終わる前に斬ってしまった…。
普通の馬なら名乗り終わる頃にお互いの間合いに入るんだろうけど黒帝のスピードだとかなり早くから名乗ってくれないと間に合わないよ…。
まあ実際の所、前回の奇襲はともかく本格的な合戦は初めてだから人の名前聞いたりしてる余裕なんて無いし、そもそも近くに居る人を大太刀で斬りつけるのに精一杯だから。
それにしても、人を殺す事にあまり抵抗を覚えない…。 まさかこの世界に転移した時精神変えられた?
多分、されてるんだろうな…。
自分は歴史シュミレーションや無双するゲームは好きだが、決してサイコパスでは無いはずだ。
うん、絶対に人を殺してもあまり抵抗がない様に精神を変えられたんだ!!!
だからこの世界で人を殺しても罪悪感があまり無いのも自分のせいじゃない! 自分は悪くない!!
そう思う事にしよう!
補足-----------------------
※補足
当時の合戦は名乗りを上げて一騎打ちをおこなったり、互いに悪口を言い合いその後、投石や弓矢での遠距離戦の後で接近戦になる事が多かったようです。
また戦国末期と違い、領主が農民に具足や武器を貸し与える事も無かったので一部の農民兵は鎧も着ずに木の棒や竹の槍などを使っていたそうです。
尚、投石については当時有効な戦い方であり、有名な所では武田信玄の家臣、小山田氏には投石専門の部隊が居たとの説があります。
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