第11話奇襲

「我こそは豊嶋勘解由左衛門尉泰経が一子! 豊嶋宗泰なり!! 数を頼らねば戦えぬ太田道灌とその弱兵へ坂東武者の矢を馳走ちそうする!!!」

雑木林から馬を駆り進軍をする敵に一直線に突き進みつつ宗泰君が大音声で口上を述べ矢を放つ。


突然雑木林から突然飛び出し口上を述べながら矢を放たれた事で一瞬何が起きているのか分からず動きが止まった敵兵に後続の兵も馬上から矢を射かける。

一瞬遅れて敵兵の誰かが「敵襲~!! 敵襲~!!」と叫ぶも進軍中に加え少数で襲撃した為、先に進んでいる兵も、後続の兵も何が起きているのか分からず右往左往はじめ、指揮する将は大声を張り上げ混乱を収めようとしてる。


そんな中、敵軍の進行方向とは逆方向へ距離を置きつつ騎射を続ける事で、混乱がどんどん広がっていく。

そして自分は黒帝を駆り、敵軍の中に躍り込み大太刀を振るいながら宗泰君達を追うように敵兵を斬りながら逆走する。


外側から矢を射かけられ、中からは巨馬に乗り大太刀を振り回した自分が流れに逆らうように突き進む事で、面白いように敵兵が混乱する。

確かに真正面からこの時代では目にする事のない巨馬に跨った人間が大太刀を振り回しながら猛スピードで突っ込んで来たら誰だって慌てて逃げるよね…。

中にはその場に踏みとどまり太刀を抜いた武者も居たけど黒帝が勢いそのままに頭を下げて突込み吹っ飛ばされて倒れた所を蹄で踏んずけられてた…。

それにしても自分に纏わりついている赤っぽいオーラは何なんだろう?

黒帝にも纏わりついてるけどこのオーラが何なのか分からないと気持ち悪いな…。

害が無ければ良いんだけど。


今朝、出陣前に大太刀を振るって人を殺す事になるだろうと腹を括ってたけど、敵兵が逃げ戸惑ってるおかげで大太刀の間合いに誰も居ないんだよね…、まあ既に並走してるはずの宗泰君達を追いぬいちゃったから、混乱した兵にたっぷりと矢を撃ち込んで損害を与えてると思うから良いんだけど。

ただ、自分の手で人を殺さなくて済むのはいい事なんだけど、与えた損害は矢が刺さった人と黒帝に踏まれたり吹っ飛ばされた人だけってのは少し想定外だ…。


そう思いながらも突き進むと多くの旗指物や流れ旗を持った一団とその中心に居る立派な大鎧を纏った武者が目に留まった。

あれが太田道灌?


事前に調べたネット情報では太田道灌の家紋は丸に細桔梗だったはずなので、間違いなく太田道灌だと思う。

顔見た事ないから本物かは分からないけど…。


敵兵を蹴散らしながら一団の前まで進み、その場で輪乗りしながら声を張り上げる。

「そこに居るのは、武蔵守護代 太田備中守道灌とお見受けする!! 俺はこの日ノ本を統一する為に天より遣わされた鳳凰院 宗麟!!! 話に聞く戦上手太田道灌の率いる兵とは思えぬ弱兵振りに興覚めだ!! この分なら明日の合戦でも鎧袖一触となろう!! 戦上手と自負するならば明日の合戦でその武勇を見せてもらおう!!」


頑張って大声出した!

途中声が裏返らないかヒヤヒヤしたけど、そこも身体能力アップの影響か日本に居た時よりも大きな声が普通に出せた。

口上を述べてる最中に声が裏返ったからもう一回やり直しとか出来ないからね…。


「鳳凰院 宗麟殿!! お初にお目にかかる、某は扇谷上杉家の家宰、武蔵守護代、太田備中守道灌と申す!! 天より日ノ本を統一する為に遣わされたのであれば関東管領家にお力をお貸しくださるのが筋と言うもの、豊嶋殿の讒言に惑わされているとお見受けする! 明日の合戦にて某が正義を示しお目を覚ましてご覧にいれる!!」


あれっ?

なんか天から遣わされたってのが普通に受け入れられてるのは何故?

長く続く戦乱を収める事すら出来ず、更に戦乱を広げてる関東管領家に力を貸す気は元々ないんだけど、何故自分が天から遣わされたの知ってるの?

まさか夢のお告げを聞いたのって豊嶋家の一門だけじゃないの?

疑問で思考が混乱するも道灌が明日の合戦で正義を示すと明言してくれたから今日の合戦は回避された。

疑問はあるけどこれで良しとしよう。


そう思い馬首を返し帰ろうとすると、追いついて来た宗泰君が大声で名乗りを上げた。


「我こそは豊嶋勘解由左衛門尉泰経が一子! 豊嶋宗泰なり!! そこに見ゆるは太田備中守道灌殿とお見受けいたす! この場で一騎打ちにて勝敗を決したい所なれど明日の合戦にて我が武勇を示さん!!」

「豊嶋宗泰殿、見事な若武者ぶり! その武勇をしかと見届けさせてもらおう!!」


道灌がそう言うと宗泰殿はまさかそんな事を言われると思ってなかったのか驚いた表情を浮かべた後、「御免!!!」と叫び馬首を返し引き上げにかかる。


自分も引き上げようと馬首を返す直前に道灌の顔を見ると何故か敵のはずなのに宗泰君を何か眩しいものを見るような目で見ていた。

どの時代も自信に満ちた真っすぐな目をする若者を見る大人って居るんだな~。

と言うか実はまだ宗泰君が小さい時に会った事あるのか?

確か道灌と豊嶋氏は江戸城が出来る前まではそれなりに良好な関係だったって何かの本で読んだことがあるような…。

だとしたらあの時の子供が立派になってって感じだったのかな?

あとで宗泰君に聞いてみよう。


そして襲撃を終えて帰陣すると、多少浅い傷を負ったものもおらず死者も無く、無事奇襲を成功させて来たことに沸き返った。

その中でも一番喜んでいたのが泰経さんで奇襲をかける際の口上、そして道灌に向かって言った口上を聞くたびに満面の笑みを浮かべてた。


凄い喜んでるから聞きづらかったけど、依頼はどうなったか聞いたら板橋頼家さんと平塚基守さんがそれぞれの手勢に地侍達を加え500人程で出発したとの事だった。


これで味方は1500人、対して道灌は4000人、激戦…、になるかな?

まあそれよりも板橋さんと平塚さんの方が重要だから、うまく作戦成功させてくれる事を祈ろう。

一応、用意した指示書を泰経さん経由で渡されてるはずだから大丈夫だと思うけど…。



補足-------------------

※補足

主人公に纏わりついている赤っぽいオーラは何なのかまだ解明はされていませんが、オーラにより矢などが当たらないようなので何かしらの恩恵と思われます。


※補足する事が無かったのでオーラに付いて補足しておきました。

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