一方的に婚約破棄されたとか言って被害者ぶってる元婚約者がいるんだけど。俺は当然の事をしたまでだからな?
仲仁へび(旧:離久)
第1話
昼下がり。この屋敷にやってきたその女は、俺の婚約者だ。
「ドライン様、ひどいっ! どうして一方的に婚約破棄なさったの!」
婚約者である女フレンダが詰め寄ってきた。
手紙一つで婚約破棄を知らせるなんて、と先ほどからずっと喚いている。
つきそいで一緒に来た令嬢も「ひどいですわよ」と俺をなじってきた。
悲劇の女性を演じるのもたいがいにしてほしい。
あと、被害者ぶるのも。
俺はまず、理由の一つを相手につきつける。
「フレンダ。お前、他の男と浮気していただろ」
「なっ、そんなの濡れ衣ですわ!」
確証無しで言っているわけではない、証言者はきちんといる。
俺は友人である何人かの名前を口に出して、「そいつらの口から聞いてみるといい」と、目の前で泣き真似をしているフレンダに述べた。
付き添いで来た友人は「大丈夫だよ、フレンダちゃん。あんな人の言う事、私は信じないからね」と言っている。
美しい友情だな。
だが、話はまだ終わっていない。
「それに、お前は貴族令嬢としての勉強をしていない」
「そんな事はありませんわ。きちんと努力しています。ただ頑張っても結果がついてこないだけで、そんな事をなじるなんてっ!」
いいや、お前は怠けているだけだ。
頑張っているのに結果がついてこないだけなら、俺も考えただろう。
だが、俺はこいつが礼儀作法の勉強を抜け出して、町で遊んでいる事を知っている。
それで、平民の男性なんかと仲良くお喋りしてるらしいな。
「お前の努力は、平民とお喋りして楽しく食事をしたり、買い物をする事なのか。これについても証言できる人間はいるんだぞ」
「そんな事っ、してませんわっ、先ほどから酷い事ばっかり! ドライン様は最初から私が嫌いでしたのね! それでいやいや婚約関係を結ばされたから、こうして私を不当な罪で貶めようとしているんですわ!」
図星を突かれたから逆上か。
先ほどまで悄然としていた演技だったのに、切り替えが早すぎるぞ。
ほら、付き添いの友人とやらも戸惑ってる。
「極めつけは、俺の屋敷の金品を盗んでいった事だな」
「なっ」
「えっ」
なんともな抜けな事だが、前にフレンダの家に訪れた時、婚約者の部屋を見て気がついたのだ。
「お前の部屋に、俺の屋敷にあるはずの宝物があった」
その事実に気がついた俺は、だから罠をはらせてもらった。
見えない所に家紋を彫った宝石を、堂々と俺の部屋に置いといたのだ。
そしたら、俺の部屋に来たフレンダはどうした?
見事に宝石を盗っていったよ。
「調べればすぐ分かる事だ。お前の家の両親はまだお前よりマシだから、連絡して探し出してもらうぞ」
その間フレンダはこちらの屋敷にとどめておかなければならない。
妙な小細工で、宝石を隠されたらたまらないからな。
こんな女と一緒にいるのは疲れそうだが。
円満な婚約破棄のためなら仕方がないだろう。
「フレンダちゃん、そんな事をしていたんだね。私、友達として恥ずかしいよ」
「ちっ、違う! 本当に違うの! 信じて!」
「友達としてやっていけない。もう絶交だね」
「そんなっ」
婚約者と親友二人を同時に失ったフレンダはその場に膝をついた。
ああ、本当にざまぁみろだ。
前々から気に食わなかったんだ。
仕事があるというのに、俺がちょっと相手にしなかっただけでうるさくなるし、毎回家に押しかけてくるしで。
何かトラブルがあれば、「私は悪くない」だし。
宝石の件の結果が出るまで、打ちひしがれるフレンダを見るのはなかなか悪くない。
結果は黒だった。
後日、無事にフレンダと縁を切る事ができた。
フレンダは両親から、俺の屋敷に来ることを禁止されたようだ。
こんな娘を持っていることが恥だからという事で、きつい再教育を施されているらしい。
せいせいしたな。
嫉妬深いフレンダが、他の令嬢に俺に使づかないように牽制しまくってたから、次の婚約者探しが大変になりそうだが。
一方的に婚約破棄されたとか言って被害者ぶってる元婚約者がいるんだけど。俺は当然の事をしたまでだからな? 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます