第16話 帝国
けたたましく入ってきたシャンタルが開口一番。
「奴がお前を狙っているぞ!!」
それは、俺に向かって放たれた言葉であった。
その時、外の金髪の男と目があった。おそらく情報屋だろう。
しかし、奴って誰のこと?
「フラン、奴だ!あいつがなぜかそのブタ野郎を狙ってやがる」
「・・・。」
フランはその奴について心当たりがあるようだ。今までの元気が嘘のように消え黙り込んでしまった。
「いったい何の話なんだ?」
「えっ!あっ!そ、それは・・・」
「それは我らの敵であり仇でもある者だ」
シャンタルはそういった。その瞬間、フランの緊張感が一気に張り詰めた。
「し、しかしなぜあの人がレフ様を?」
「それはわからない。だが、情報屋の確かな情報なので間違いない!」
「そのために大規模な軍が動いているというぞ」
「レフ様お一人のためにですか?」
「そうだ!」
??全く2人の会話についていけない俺を尻目にさらに続けてしゃべり出した。
「なぜだと思う?奴が動くとすれば自分の損得にこいつが関わっているということになるぞ」
「うーん!そうですね。あの人が何もなしに動くとは到底・・・」
と言ったところで漸くフランが俺をほったらかしにしていることに気がついたようだ。
「ご、ごめんなさい!あまりにも驚いた情報だったのでつい置いてきぼりにしてしまいましたね」
「そ、そうだな」
さすがのシャンタルもばつの悪さに同調した。それほどまでの情報なのであろう!
俺にはさっぱりどころか検討すらつかないが・・・。
「どこからお話すればよいか?少しわからないのですけども」
「ひとまず、2人がその者と浅からぬ因縁があることまではわかったが、いったい何者なんだ?」
「詳しくは聞くな。」
「ママ!!」
「こ、これに関してはいくら信用があってもまだしゃべるわけにはいかない!!わかってくれフラン!!」
シャンタルの真剣な説得にフランもシャンタルに委ねることにしたようだ。
「奴というのはスティルガンド帝国第13皇子のレオポルト・フォン・バウムガルド。皇子でもあり軍を率いる大将軍でもある。」
その名前を聞いたとたんにフランは震えが止まらない様子であった。
おれはフランを横目にシャンタルの話の続きを聞くことにした。
「こいつは我の国もそうだが、フランの領土も蹂躙した最低最悪の皇子だ」
「もちろん、我らの国や領土だけではない、ほとんどの国と領土は奴の理不尽な理由で殺されたり略奪されている」
「・・・・。」
とてつもない悪党が権力を握ってさらに非道を重ねているということか!
これに関してはかなりの怒りを覚えたが、冷静になって聞く。
「その極悪非道な皇子がなぜ俺をつけ狙うんだ?」
「それがわからないからこちらもこれだけ狼狽えている!さらに奴自身の軍を3万ほど動かしている。これは異常事態の何者でもない!」
「レフ様は大将軍閣下の事を全くご存じないのですか?」
「思い当たるどころか初めて聞く名でしかない!だからなおさらその皇子が俺だけに3万の兵を送るなんてことがとてもじゃないが信じられない」
思い当たったとしても俺は今はブタ人間でしかない。この世界では人間族が一番強い印象を与えられている。
その人間族の中でも帝国の皇子であり、軍をまとめ上げるべき立場の者が俺を3万の兵を持って駆逐しようとしている?
全く見当もつかない!
「なんにせよ、ここにいるのはかなりまずいぞ」
「一旦引き払ってどういう状態なのかを探るのが得策ではなかろうか?どうだブタ!!」
「・・・・その通りだ。三六計逃げるに如かずだな」
「???」
「????????」
2人の微妙な顔はほっといて俺はさっさと荷造りを開始した。
他の2人もちょっと間があったものの俺にならって荷造りを開始した。
「どのあたりまで来ているのかわかるのか?」
「はっきりはわからないが、そんなに遠い位置ではないとのことだ」
「正確な情報屋が聞いて呆れるじゃないか?」
「ふん、ここまでわかれば逆に充分だ!」
「その根拠は?」
「お前は本当に何も知らないようだな!奴は大将軍は暗黒闘気の使い手なのだ!」
「?」
暗黒闘気?なんのことやらさっぱりな俺を見て、シャンタルは続けた。
「この世界では体術以外に使える手段として魔法と暗黒闘気がある!魔法は知っての通りルーン文字があれば誰でも使うことのできるものではあるが、ルーン文字自体の解読はかなり難しい。」
「暗黒闘気はルーン文字のようなものは何もいらないが、魔界との契約が必要だと聞いたことがある」
「何か初めて聞いたことが多すぎて何が何だかわからないがこの世界には魔界があるのか?」
「ある・・・・とされているだけで見たものは誰もいない」
「そうなのか?ではその暗黒闘気とやらもどういう手合いの物かはよくわからないと言うことになるな」
その言葉にあからさまに怪訝な顔になったシャンタルはさらに続けた。
「確かにお前の言う通り、どういう代物かは噂でしかない。基本目の前にすると殺されるからだ」
これほどの使い手のシャンタルが戦々恐々としている姿を見るとさすがに俺の身も引き締まる思いであった。
(第17話につづく)
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