小さい頃助けたのが魔王だったらしく恩返しに俺を勇者にしようとする。
グシャガジ
ボロ布
「君、私を助けてくれないか?」
ボロ布は偶々通りかかったであろう少年に声をかけた。
「どうしたの?」
「ちょっと罠に嵌ってしまって抜けないのだ。」
そういうとボロ布は自身をたくし上げ右足にがっつりと食い込んだサメの口の様な罠を少年に見せた。
「うわぁ痛そうだね、これどうやったら外せるの?」
「手を翳し<解除>と言えば外れる。」
「簡単じゃん、自分ですればいいじゃん。」
「自身では解除出来ないのだ。掛けられていない者が言って初めて解除できるのだから。」
「へぇ、じゃあ<解除>、これで良い?」
少年が罠に触れてそう宣言すると見た目の物量とは全然違う、童話で聞いた山より大きなトロールの王ですら額に汗を吹きながら開ける重厚な滑車が回る様なガラッという音をたて、そのサメの歯は顎が外れた様に落ちた。
予想外の音に少年が唖然としていると。ボロ布はその純粋な驚きにハハッと笑い
「これは捉えた者と同じ力を得る。故に私と同じ力を開放したのだから致し方ないよ。」
とつづけた。
我に返った少年は、
「乞食のくせにすごい力をもっているのね。おじさん。」
「フフッ。そうだな小父さんはすごいのかもしれない。助けてくれたお礼だ、君は何を望む?」
「お礼は良いよ別に。」
「そうなのか?」
「うん。別に大したことしてないし。あんたみたいなボロを着た人から物を奪っちゃたら母様に叱られる。」
無欲な少年に鐘が共鳴する様にボロ布はワナワナと震え、両手は宙から少年の頭上へと舞い降ろした。
「穢れを知らぬ卸したばかりの麻布。寵愛を受ける子よ、聖なるかな、聖なるかな、楽園の扉はついに開かれた。」
「んぉ!?急にどうしたの?」
「あぁ、すまんね。仕事柄つい仰々しくなるのだ。」
今まで見た乞食と全く違う仰々しい態度に、父様が言ってた今流行りの修行僧というものかしら?と懸念し、もしそうならば普通乞食と言われたら怒るのに
怒らないこの修行僧ってのは変な人なんだなぁっと訝しがりながら
「仕事って大変なんだね。」
「あぁ大変なんだよ。生きる者は縛られ染まらねばならぬのだから。」
「そういうものなの?」
「そういうものだ。ところで君は何に縛られたいと望むのだ?どの様な事を成したい?」
「うーん。家は代々勇者の家系なんだって、だから父様は僕らに向かって良く勇者になれって言ってくるけど。」
「ほう、勇者とはなんなのだ?どうすれば君は勇者になれるのかね?」
「んん、やっぱり魔王倒したら勇者なのかな。」
「魔王を倒すのが君の望みかね?」
「わかんないけど、曽爺さんも魔王倒して勇者になったと聞いたからそうなのかな?」
それを聞いたボロ布は普通の人の大きさだったはずなのに今ではトロールの王様位の大きさと見間違える程膨れ、ボロ布の奥の目は太陽の様に燦燦と大きく光り、豪快に笑った。
「ハハハ!そうかそうか。君の望みは魔王を倒す事か?君の腕に魔王の首を抱く事か?」
少年は急に笑い出したボロ布が怖くなり、またなんでこんな人にバカにされないといけないのかと、しかも聞いてきたのはそっちじゃないかと憤った。
「わかんないよ!けどそうしろと父は言っているし。僕はその為に生まれたんだから。」
自分とは違う意味で膨れている少年を見て、バカにしたつもりは無い事を呈した。
「あぁすまない。馬鹿にしたつもりは無いんだ。そんな簡単な事で我が恩人の望みを叶える事が出来る喜びに我を忘れてしまっただけなのだ。」
簡単な事。その一言で少年は今度は家すら馬鹿にしているのかと憤慨してしまった。
先祖代々勇者の家系である少年の父は、単なる騎士である。
何故か?それは父が勇者になれなかったからだ。もっと言えば少年の家は曾祖父が勇者になってからすでに半世紀勇者を輩出していない。
先祖が勇者である為与えられた貴族の地位も、勇者をこう長く輩出されないならばはく奪されるという噂が領地内で囁かれていた。
領民は力を失いつつある領主を軽んじ、父は出来損ないと陰口を隠す事無く言われ、父自身再興の為に少年たち兄弟に執拗に勇者に成る様に指示していた。
「魔王を倒すのが簡単?簡単な訳ないだろ!」
なんで、なんで助けた人にこうまで馬鹿にされないといけないのか?もしかしてこの人本当に変な人なのかしらと少年は怒りでトロールの王位に大きく震えながら拳を握りしめた。
「祝福された御子よ、泣かないでおくれ。卸したての心に憤怒の穢れを満たさないでおくれ。君を馬鹿にしたつもりは無いんだ。確かに魔王は強い。普通に戦っては誰もが死ぬだろう。普通ならばな、、、」
さっきに増してかなり仰々しいそのボロ布は、怒りにて膨張した涙を浮かべた少年に向い慇懃に頭を下げさっき以上に一艘仰々しく頭を上げた。
困惑からか少年の涙はしぼんでいきボロ布が何を言っているのか理解しようとしていると、
ボロ布が剥がれ、禍々しい高価な鎧に包まれ額には雄々しき牛の角を、髪は炎の様に燃え額にある刺々しい王冠を舐める様に踊りながら姿をあらわにした。
少年は目の前に童話で聞いた姿を見て今までの怒りが消え、困惑のみが少年を包んだ。
「私がこの地を統べる魔王である!」
今までボロ布だった者は、演劇風により一層尊大に宣言した。
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