第34話 蒼い髪のエレイン9
俺は酔いつぶれたエレインさんをおんぶしながら彼女の寝室へと運ぶ。冒険者という職業だからだろうか、少し重いなと思ったがそんなことを言われたらマジで殺されそうなので心の中にしまう事にする。
「セイン、あなたエレインさんにキスしちゃおっかなーとか思ったでしょ。変態……」
「いや、あれはこうでもしなきゃ収まらないかなって思ってさ」
「ふーん、ならあんたは誰とでもするんだ。ふーん」
そういうと彼女は不機嫌そうににらみつけてくる。やっべえ、こういう時の彼女は本気で怒っているのだ。正義感の強いベルの事だ、エレインの弱みに付け込んだようになったので怒っているのだろう。もちろん俺も本気ではないし、そもそもエレインさんの自業自得なのだが、確かに調子にのりすぎていたなとは思う。
「いや、本当に調子に乗ってました……すいません……」
「まあいいわ。あんたって時々悪乗りしすぎるわよね……」
あきれ顔でため息をついたベルにキスは本当に好きな人とするべきとか、エレインさんの弱みに付け込むななどとさんざん説教されて、最後にこれをヴィヴィアンさんに渡してと言われ帰ってくると、ガレスちゃんも酔ったのか可愛らしい寝顔をみせている。そんな彼女をヴィヴィアンさんは無表情に見つめていた。だけど、どこか暖かい感じがするのは気のせいではないと思う。
「ごめん……調子に乗りすぎちゃったね……」
「ああ、あれは……その……俺も悪ノリしてしまいましたし……あ、でもいつもキスくらいなら楽勝なんですがベルは初心なんですよ」
「もう、演技はしなくて大丈夫だよ……エレインのくだらない見栄に付き合ってくれてありがとうね……」
「え、気づいてたんですか?」
俺が驚愕の声をあげると、ヴィヴィアンさんは不服そうに唇を尖らせた。
「私の『鑑定眼』を馬鹿にしてるのかな……? あんなの嘘わかるに決まってるでしょ……」
「ですよねー」
「だけど……君たちを見ていて、みんながあの子の事を大事に思ってるもわかったよ……」
そういうと彼女はガレスちゃんの髪を撫でながら、何かを懐かしむように微笑む。その目は本当に慈愛に満ちていて……出会って多少一緒に過ごしたからか。無表情ではあるけれど、感情の機微が少しわかるようになってきた気がする。
「昔はね、エレインもこんな風にみんなでご飯を食べていると寝ちゃってたんだ……エレインは今も可愛いけど、昔も可愛かったんだよ……スキルのせいで私たち冒険者と一緒に過ごすことになったけど、今は幸せそうでよかった……うちのパーティーはパワー馬鹿ばかりだからね……スキルが重荷になるっていうがわかるのは私だけだったから……彼女の弱音を聞くことができた私になついてくれたんだろうね……」
「スキルが重荷に……ヴィヴィアンさんもなんですか?」
俺の言葉に彼女はゆっくりとうなずいて目を爛々と輝かせて自分の瞳を指さした。俺は彼女のその神秘的な瞳から目を話すことができなくなる。なんというかとても綺麗だったのだ。
「君……今私の目を見て『綺麗だ』って思ったよね……ふふ、嬉しいな……普通の人は不気味がるからさ……」
「いや、その……よくわかりましたね……」
「私のスキルは人の感情もわかってしまうからね……だから本来誤魔化しているはずの他人の感情の機微までわかってしまうんだ……そのせいでさ……人と接するのは実は苦手なんだよね……実はね今日も結構無理してる……冒険者なんてあんまり好きじゃないんだけどね……他人の感情がわかってしまう私を気味悪がらないでくれたみんなには幸せになってほしいから無理をしてるんだよね……」
おそらく、そのみんなにはエレインさんも含んだパーティーメンバーの事をさしているのだろう。鑑定というスキルの強化版なのだろう。確かに強力なユニークスキルだ。でもそれが重荷になっているのだったら……俺が力になれるかもしれない。
「ヴィヴィアンさん、提案なんですが、俺のスキルでそのユニークスキルを買いましょうか? もしも、そのスキルがあなたの人生を歪めてしまっているなら俺は力になりたいです」
「なるほどね……エレインはそれで前に進めたんだね……ありがとう、でも断るよ。このスキルは厄介だけど、そのおかげで、今の仲間と出会えたからね……確かに、私のスキルは重荷だけど……ずっと一緒に生きているとね……体の一部みたいになるんだよ……私にとってはこの重荷も私とは切っても切れない関係なんだ……だから……それを捨てる勇気を持っているエレインには幸せになってほしいんだよ……彼女には自分の選択を悔いないようにしてほしいんだ……」
「ヴィヴィアンさん……すいません、出過ぎた真似でしたね」
「せっかく善意で言ってくれたのにごめんね……君の事は信頼しているよ……エレインだけじゃなくて、ガレスちゃんにスキルを売って、冒険者としての道を進めるようにしたそうだね……君に救われた人もいるんだ……自信をもっていいんだよ……」
そういうと彼女はお酒を一口含んで寂しそうに言った。その視線は俺ではなくエレインさんが運ばれていった方に向けられていた。
「君のおかげで、あの子は真の仲間を手に入れたみたいだね……私たちの様に仕方なくいた仲間じゃなくて……真の仲間をみつけたみたいだ。彼女が幸せっていうのがわかってよかったよ……私は朝になったら出るとするよ。エレインが変な男に騙されてるわけではなくて、本当に幸せなんだって言うのがわかったからさ……」
ヴィヴィアンさんは力なく笑った。その笑顔は何とも寂しそうで……そして致命的なまでな勘違いをしている。
「まってください、ヴィヴィアンさん。エレインさんはあなたたちの事も大事に思ってると思います。これに見覚えがありませんか?」
「これは……プリンだね……」
俺がベルから預かったプリンをみせるとヴィヴィアンさんは驚いて目を見開きながら、おそるおそる受け取る。
「これはどうしたのかな……?」
「これは……これだけはすべてエレインさん一人で作ったそうです。どうしても、ヴィヴィアンさんに食べてほしいって」
「そっか……これは私の大好物だよ……そして、私たちの思い出の料理だ……ああ、昔は焦がしてたのに……すっかりうまくなったね……」
そういうと彼女は嬉しそうに口にする。ゆっくりと思い出を噛み締めるように、味わっているの姿を見て、俺はエレインさんが伝えたかったであろう言葉を伝える。
「あなたはさっき仕方なくいたっていいましたがそれは違うと思います。だって、エレインさんはいつも昔話をするときは誇らしげに話すんですよ。大事な仲間だって……それにどうでもいい人のために手料理や好物なんてつくりませんよ」
「そっか……私たちもあの子の支えになれていたんだね……怖くて彼女の心は鑑定眼でみなかったんだけど……ふふ、彼女にとっても私たちは家族になれていたんだね……」
ヴィヴィアンさんは涙をながしながらプリンを食べて俺はそれをみるのも悪い気がして、ガレスちゃんを背負って去るのであった。
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