第35話 蒼い髪のエレイン10

「本当にもういってしまうんですか? エレインさんを起こしてきましょうか?」

「ありがとう……でも、会ったらまだいたくなっちゃうから……これを渡しておいて……」



 翌朝、もう旅立つというヴィヴィアンさんを俺は見送っていた。エレインさんは酔っぱらったせいかまだ眠っているようだ。まあ、会ってしまっては、まだいたくなるというのもわかるので、俺は素直にヴィヴィアンさんから手紙が入った封筒を受け取った。昨日の食事会の後に書いたのだろうか、結構分厚い量である。



「これはここだけの話……アーサーが聖剣を抜いてから権力の流れが変わった……多分一波乱おきるから気を付けて……」

「それって……やはり俺がギフトを売ったからでしょうか?」

「そうだね……それで、時期の王がほぼ確定したからね……王候補だった人物が荒れるだろうね……エレインはアーサーと仲が良いから何かあったら巻き込まれると思う……そうしたら力になってあげて欲しいな……」

「ですが……」



 俺はヴィヴィアンさんの言葉に言い淀む。エレインさんは無茶苦茶強いのだ。俺なんかいなくても……



「それは違うよ……力になるって言うのは何も戦いだけじゃない……悩んでいる時に話を聞いたり、仲間だよ……っていうだけでもいいんだ……それだけであの子はきっと頑張れるからさ」

「それなら、当たり前ですよ。俺にとってもエレインさんは大事な人だから」



 俺の言葉にヴィヴィアンさんは満足そうに頷いた。そして、俺の手を握る。



「いい返事だね……ご褒美に君に一つスキルを譲ってあげるよ……きっと役に立つと思う……不意を突けば格上にも通じるよ……私より、君に必要になると思うから……」

「……ありがとうございます」



 笑顔の彼女から俺はスキルを受け取った。『影縫い』貴重なコモンスキルである。俺が使いこなせるかはわからないけれど、これで少しでも誰かを守れたらいいなと思う。だけど言わなきゃな……



「実は俺のスキルは譲ってもらうことはできても、ショップから譲ってもらうことはできないんですよ……」

「え? なにそれ……あ、本当だ……微妙に不便だね……」



 俺の言葉に怪訝な顔をしたが、彼女のスキルで見たのだろう、少し同情された気がする。金貨5枚か……結構値段がするが、ここはヴィヴィアンさんの言葉に従おうと思う。俺はさっそく『影縫い』を取得した。



「あと、最後に……君とエレインは本当に仲良し、信頼していると思う……今は嘘かもしれないけど……君たちの関係が本当になったら……私はうれしいとおもうよ」

「え、それって……」

「じゃあ、いくね……結婚するときは呼んで欲しいな……パーティーの皆をつれていくよ……」



 彼女は無表情なままなにやら顔の赤くなるようなことを言い残して去っていった。決して振り向きはしなかったけれど逆にそれが俺達への信頼な気がしたのだ。




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影縫い 矢や投げナイフなどの投擲をして相手の影を床や壁なのに突き刺した場合に動きを封じるコモンスキル


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