第7話 「マイホーム、とは、サヨナラする」

「しゅう兄さま、起きて。父様がよんでますよ」


――夢を見ていた。


――幽霊でも夢を見るんだってことを、初めて知った。


「また畑の手伝いか」


「そのようですね」


「しゃーねーか。ふぁあああ……」


「ふふ、しゅう兄さまったら、大きなあくびだこと」


「春眠暁を覚えずってね」


「もう桜の季節ですからね」


 妹の美津子(みつこ)は、優しい春の日差しのような、笑顔を浮かべた。


「しゅう兄さまは毎日働いてるのですから、もう少しだけ休ませてもらってもいいと思うんですけどね」


「それはみんなも同じだからなぁ」


 農民は大変だ。


 毎日、作物の世話しなくちゃいけないし、力仕事なので、足腰を壊す者もいる。


「……もし休みなら、しゅう兄さまと桜を見に行けたのに」


 美津子は小声で、ぼやいた。


「……はっ! いえ、その、……わたしったらそんなこと」


 美津子は、なんとか誤魔化そうとしてる様子だった。


(美津子は本当に可愛らしくなったなぁ)


 去年の春の美津子は、まだまだ子供じみていた。


 しかし、たったの一年で見違えるほどに、成長していた。


 年頃になったばかりの妹を見て、俺は微笑ましい気持ちになる。


「恥じらう必要は無いさ。最愛の妹よ」


「し、しゅう兄さま……それじゃあ」


「二人で桜を見に行こう。な?」


 美津子の顔がぱぁ、と明るくなる。


「はい! しゅう兄さま!」


――ああ、なんて懐かしい


――こっそり仕事サボって、美津子と二人で【でーと】したんだったよな


――こっぴどく父に怒られたが、それもいい思い出だ。


――もしこの瞬間に戻れるなら、神様に何もかもを捧げるだろう


――戦さえなければ……


――戦さえ……


***


「かなしい、ゆめ」


 た、タタリちゃん……?


 目覚めた俺は、横で悲しんでるタタリちゃんの存在に気づく。


「ゆめじゃない? げんじつ? どっちなの?」


 どうやら俺の見た夢を、タタリちゃんも見ていたようだ。


 他人の夢を見ることなんて、神様には容易いようだ。


 そうだよ。現実にあったことだ。


 ほんの数ヶ月前の出来事だ、と伝える。


「みつこに、会いたい?」


 会いたい。


「みつこに、会えなかったら?」


 ……。


「くるしい? こわい?」


 そんな感じだと、思う……


「みつこを、愛してる?」


 …………………………………………愛してる、心の底から愛してる。


「わかった」


 タタリちゃんは優しく微笑む。


「みつこも、助くんを愛してる」


 え?


「連れて行って、あげる」


 ??


 そもそも、俺の故郷への道のりを調べるために行動していたはずだった。


 縁結びの神(偽物)として、着々とレベルアップを重ねていたのは、スキルを身に着けて、人に道を尋ねるためである。


 もしかして、タタリちゃん、道を知っていたってこと?


「ちがう」


 え


「ちがうけど、わかる」


 そういうと、タタリちゃんは家から出ていこうとする。


 道案内してくれるようだ。


「マイホーム、とは、サヨナラする」


 こうして、俺とタタリちゃんは、美津子のもとへと向かうのであった。





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