第3話 「よんで」
「んだんだ。小雪ちゃん、好きずら」
「よへえさん。わたすも好きずらよ」
今は夜。
小さな村の近く
竹ヤブの中で
二人の男女が抱き合っていた。
俺は別に彼らに恨みはない。
決して、羨ましいなんて思ってない
生きてる時だったら
ちくしょう、
とぼやいたに違いないが……
今は、かわいいタタリ神さまがついてる
寂しい男一人は卒業だ。
幽霊になってからの卒業、というのがすごく引っかかるが。
けど、人と話せるようになるまでは、俺も頑張らなくてはならない。
故に、あの二人には危害を加えず、穏便ないたずらで幽霊の実力をあげていこう。
……生前の腹いせ
という言葉が何度も頭をよぎってくるが、
まあ無視だ
よし、いくぞ
風のいたずら!
「……風が強くなってきただ」
「そろそろ、うちにもどりまんせ」
二人は同じ方向に歩いた
ストーキング!
そして、不気味な音!
ぎぃ
ぴと
ぎぃ
ぴと
二人は歩く
その足音に合わせて
別の足音が鳴り響く
普通の足音ではない
普通だったら草を踏む音だ
けどこれは、
水たまりを踏むような
それか、
古い家の床を踏むような
そんな足音が
「誰かいるだか?」
よへいと小雪は振り向く
「不思議だべ」
「誰もおらんね」
前を向き、二人はまた歩く
ぎぃ
ぴと
ぎぃ
ぴと
二人は、歩みを早めた
それに合わせて音も早くなる
ぎぃぴとぎぃぴとぎぃぴとぎぃぴと
二人は走った。
でも音は消えない
そして
どんどんその音が大きくなる
「誰や!!」
よへえは走りながら振り向いたが、
だれもいない
よへえは、嫌な汗がどくどく流れる
竹やぶを走り抜けたとき
ようやく
何者かの気配と
足音が消えた。
「もしや……お化けか」
「本物のお化けや」
「逃げるべ」
「はい」
二人が顔を青くしたまま、この場を走り去る。
その瞬間、俺の脳内に、文字が流れた。
――レベルアップしました
――スキル【謎の視線】を獲得しました
「よかったね」
タタリ神さま
俺の後ろから話しかけられた。
ずっと見守ってくれていたようだ
「れべるあっぷ、した」
レベルアップ?
「れべる、あがった」
レベルってなんだ?
「つよくなった」
……そういうふうに捉えればいいってことだな
新しいスキルも手に入れたみたいだし
教えてくれてありがとう
タタリ神さま
「ん、ん」
こくり、
とうなずくタタリ神さま
「おれい、して」
おれい?
……ああ、お礼してほしいってことか
俺から何をタタリ神さまにお返しすればいいんだ?
何かしてほしいこと、ありますか?
「よんで、ほしい」
よんで欲しい?
「さま、いらない。きやすく、あのニンゲンみたいに、よんでほしい」
呼び方のことだ
タタリ神さま、というのは気に入らないようだ
……タタリちゃん
とか……?
「ん! それ!」
気に入ってくれたようだ
分かりました
タタリちゃん
「……」
口元が小さく動いてる
タタリちゃん?
どうしたんだ?
顔を近づけ、口元をよく見る
「スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ」
……
まあ、冷静になるまで待つか……
俺はそう思うのであった。
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