第50話 アシル・ボドワンとの出会い(0)

 半端無理やりにマティルドと別れる。勿論送っていこうか聞くのが男としての義務だけど、カフェの前に前回同様黒い車が待ち構えていたので、必要ないと思った。彼女もだんだん俺の扱いに慣れてきたようだ。友達になれるかは別だけど。


 恋愛相談が終わって、家に帰って部屋に籠る。

 1つ彼女に言い忘れていたことがあった。


「一番重要な出会いのきっかけを話し忘れたなー」


 アシル・ボドワンとどう接点を作るのか。ラファエル・バイヨに頼むのが一番手っ取り早いが、いの一番に『アシル君のところへ連れてって!』なんて言ったら学年ワースト10の知能を持っていても怪しまれるだろう。

 だから今回は別の手段を取った。本来なら時間がかなりかかるが、リスクをほとんど伴わない手段だ。


「現在ラファエル君は、幼馴染のアシル君と、新しくできた唯一無二の親友ヤンという二名の関係に挟まれている」


 挟まれていると言うと悪い方向に行ってしまうが、別に悪い事じゃない。大抵の人は同じくらい好感度を持っている人がいると、その二人を合わせて仲良くさせようとする。親友を親友に会わせて友達にさせるためにね。

 俺は日本人の幼馴染とフランス人の幼馴染を引き合わせたいと思ったことがないけれど、他は違うと知っている。

 何故なら、そうやって他人である人と交流を持つことになるからだ。そしてそいう存在を、友達、親友、仲間、もしくは恋人にすら昇華出来る。人によるがね。


「そんで恋愛相談する程仲良くなったヤンとプラスアルファに俺とマティルドなら、アシル君に接近できると見込んだんだよ」


 親友を親友に紹介させて、親友同士の集まりが結成される。その輪の中に潜り込むのが俺の目的だった。俺の勘はよく外れるが、恋愛事で外れたことは一度もない。

 つまり、間もなく本命のアシル・ボドワンを攻略しに行くというわけだ。

 そのまま夕飯を食べて、眠りについた。


 夢の中ではマティルドと顔が見えない背の高い人が笑っていた――――――


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 朝めを覚ますと、珍しく頭痛がした。

 何かめでたいものを夢で見た気がするが、人間が見た夢なんてすぐに記憶から消えることがざらだ。

 頭痛薬を呑んで、登校中に思い出そうとしたら結局無理だった。


 いかんいかん。幻に近い夢なんかに振り回されていたら、恋愛脳が使えない。

 高校に着くと既に、マティルドとヤンそして普段朝に顔を見せないラファエル君がいた。……これは大当たりかな。


「おはよう、みんな」

「……あぁ」

「おはよう」

「おはよう淵君!」


 朝の挨拶そしたら三者三様の返答が返ってきた。ヤンはぶっきらぼうに、ラファエル君は普通に、そしてマティルドは元気いっぱいに。ラファエル君は特に仲が良くも悪くもないため、俺への対応はどうでもいいが、ヤンも少しは普通に出来ないかな?

 まだ猫を被っている筈なのに、そんな低い声のトーンを使ったらすぐにバレるよ。

 そう考えていた矢先に、ヤンが近づいてきて耳打ちしてきた。


「大丈夫だ、俺のキャラはどっかのゲームの真似をしてヤンキー風になりたいと言っておいたから素を出せる。こいつがゲーム好きで助かったぜ、扱いやすい」


 黒い笑みを浮かべているヤンは、悪魔みたいだった。よくまぁ、これが本性だとバレないもんだ。


「ところでみんな集まってどうしたの」


 予想はついているけど、聞かないと怪しまれる可能性がある。

 たとえ小さな可能性でも想定しておかないと、大きなトラブルに繋がるという事態は、もうさんざん味わってきたから。


「今回は僕の幼馴染のアシル・ボドワンに皆の事を紹介したいんだよ」

「いきなりだなぁ…一体どういう用件で、俺らをてめぇの幼馴染とやらに紹介してぇんだ?」


 ヤンはいつも通りの口調で問いただす。その口調でラファエル・バイヨ相手に喋っていることが、これまたシュールな光景だ。


「はは、やっぱりヤンがその顔で口調を変えると違和感を覚える筈なのに、何故か似合うんだよね、どうしてだろう?」

「そんなことラファエル君しか分からないでしょ。むしろ、私たちの方がこんな口調をしているヤン君を見て驚いているっていうのに、なんでラファエル君は似合うって思えるの?」

「さ、さぁ僕も何とも……」


 馬鹿な奴には何かを感じれるのか?やっぱりバレそうじゃん。すかさずマティルドがフォローを入れたおかげで助かった。好きな人に言われたら、もう何も言えなくなったしね。


「それより、どうしてラファエル君は私達とアシル君を会わせたいの?」

「……あいつはさ、生真面目だからあんまり友達が出来ないんだよ。だから僕が友達を沢山作って、紹介してみようと思ったけど…全員アシルと話が合いなそうだったから紹介したことはないんだよね……でも君達は紹介してもいいと僕の勘が言っている」

「……分かったわ、なら貴方に着いて行くわ」


 俺達の意見を代表してマティルドが言ったくれた。これは想定済みだが、ラファエル・バイヨの勘とやらが、不安定要素になってきたな。これでマティルドがアシル・ボドワンに恋をしていると気付かなければいいんだが。

 淵はここでフラグを立てたことをまだ気づいていなかった――――――


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