第46話 周りの人より、まずは自分
ヤンから得られる情報を得て、俺は家にかえ――――ろうとしたが、これ以上マティルドを不安にさせないよう、携帯で電話する。
「もしもし、マティルドさん?」
「はいは~い、どしたの淵君?」
周りに人が聞こえるため、外にいるのは確定だな。
「今どこですか?」
「前に淵君と行ったショッピングモールにいるけどなんでー?」
「会えますか?」
現状報告は電話でも、メッセージでもなく、ちゃんと会って伝えた方がいいと思うから、聞いてみる。断られたら高校で言うし、特に問題はない。
って言うか普通放課後にショッピングモールに行くか?
「……淵君って内容を言わないから、あらぬ誤解を招くことになるよ。それにしても珍しいね、淵君から誘いが来るなんて」
その発言こそ大きな誤解を招くと思うんだけど……招いているのは俺であって俺じゃないから。ジェントルメイデンとして恋愛相談をするだけだから、俺じゃない。
……ややこしい。何と言うか、ジェントルメイデンの時はビジネスパートナー(でもない)として招いていて、黒曜淵本人からだったら私的な意味を持っていると認識して欲しい。面倒な奴なのは分かってるけど、今までと変わらないし、変えるつもりもない。
「【ジェントルメイデン】からのお誘いだそうですよ」
他人事みたいに言ったら、例え知人が俺の周りにいたとしてもバレない。人間はこういう時に一番警戒が緩いから、外出している時はいつも気を引き締めて、最善の注意を払っている。誰も俺の事を気にしないとは分かっていても、どうしても意識してしまう……
「ッ!!今行くわ!」
【ジェントルメイデン】といった瞬間、電話を切った。俺まだ合流場所言ってないんだけど?ちょっと落ち着きが足りませんか?
あっ、携帯が鳴り始めた。場所を決めていないことに気付いたのだろう。
「ごめん!どこか決めていなかったよね、どこにする?」
「お好きにどうぞ。マティルドさんの近くにある喫茶店で良いですよ」
「じゃあ前回の恋愛相談した場所で待っているから!」
結局前回と同じ場所に決定していた。進展があったことに興奮していたせいで、声量がいつもの二倍になっていた。
俺のところからも、カフェは近くて5分で位で着いた。マティルドが入り口付近で俺を見つけた途端手をぶんぶん振り回して、注目を浴びていたことを彼女は知らなかっただろう。美少女の影響力半端ない…
前回同様、適当なものを注文して隅っこのっ席に座った。
「で?で?で?何があったの?」
「マティルド落ち着け。二週間も何もやっていなくて、街に待った時が来たことで興奮しているのは分かるが、ここは店内だ。他の人に聞かれたら困るのはマティルドだ」
「……すみませんでした」
「よろしい」
一体何の茶番をやっているのだろう?まるで玩具を手にして興奮しているマティルドを、母親の様に諭してしまった。精神年齢的にはマティルドの方が年上のはずなのに、とても幼く見える…
「結局この二週間、私は言われた通り何も行動していないけれど、そっちはどんな収穫があったの?」
「本当に何か変なことを起こさなくてありがとう。過去の恋愛の依頼はそれはもう……あまりに酷すぎて思い出したくもない。ともかく不安要素が出来なくて良かった」
本当はラファエル・バイヨがマティルドに恋をしている、という不安要素があるけど…
「一体過去に何があったの……」
「コホン!それはともかく、ようやくアシル君の攻略に作戦を移行できるようになった」
「えっ?!そうなの?!何がどうしてそうなったの?」
彼女もある一定の友情が成り立ってから、行動に移すとは言っていたが、いつになるかは発表していなかったため、慌てふためいてる。
「ターゲットをラファエル君からアシル君にチェンジするためには、条件が必要だった。親友、友人、友達の特徴とは、仲がいいこと。つまり、他人には明かせない話を相談されやすい。今回ヤンは見事、彼との友情ゲージを上げてくれて、恋愛相談されたため、もうあの二人の間には十分な絆があると見た」
「つまり今ならアシル君に話しかけても、周りからは不自然とは思われないってこと?」
「そういうこと」
これでラファエル・バイヨ経由でアシル君に接触できるというわけだ。だから、そろそろマティルドにアシル君攻略のイントロダクション部分を教えてもいいと判断した。
だから説明をし始めようと思ったら――――
「ヤン君から聞いたなら、ラファエル君が狙っている相手も分かるんでしょ?」
……嫌な予感がする。勿論俺はラファエル。バイヨがマティルドの事が好きだということを伝えるつもりはない。プライバシーの侵害行為になりえるし、なにより俺からの口とラファエル・バイヨから言われるのには大きな違いがある。
まさか女子特有の【恋バナ】か?俺も男子の中では、恋愛に興味がある方だけど、こうやって聞かないぞ。
「知っているが……教えないぞ?」
「えーなんでー」
好きな相手がマティルドだからだよ!!言えるわけないだろ!
「教えてー教えてー」
「駄目だ。他人のプライバシーは守秘義務だ。そんなに恋バナがしたいなら、友達の女子として見たらいいだろう」
少し意地悪な言い返しをする。マティルドは拗ねたようでほっぺを可愛く膨らませる。正直に言うと触って割ってみたいが、そういうのは恋人同士がやるなのでやらない。
「む~私の好みを教えるのが恥ずかしいって知っているのにー」
「人の恋より先に自分の恋を成功しなさいってことだよ」
『あっそうだった!』って顔をされたらジェントルメイデンとして活動している意味がなくなるんですけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます