第45話 対抗策

「俺に恋愛相談をしてきたマティルドとヤンに恋愛相談してきたラファエル君……面倒な事態になったが、一つ名案がある」


 数秒前に何も無かったかのように、話を進める。ヤンはまだほとぼりが冷めていないようで、話しかけた俺を睨みつけてきた。……相当怒ってるな。

 このまま黙っていたら何も変わらないことを知っているから、発言はするだろうが…随分と嫌われたもんだなー。暢気に考えながら、案を話す。


「俺はジェントルメイデンとして依頼を受理した場合、その人を全力でサポートするが、その人物の取り巻き、もしくは他人の事はどうでもいい。だから個人的に付き合いがあるラファエル君がマティルドに恋をしていたとしても、それを応援することも、手伝うことはない。彼が直接【ジェントルメイデン】に会いに来ない限りだがね。今回はヤンも紹介する気はないから、来ないだろうけど」

「……あぁ、てめぇのヒントはマティルドに明かしただけでもっていうのに、他の人に明かしたら、今度こそ俺の身に何が起きるか分からない」


 いつものように怒り丸出しでなく、中に収めているヤンの声はワントーン低かった。

 ヤンの身に何が起きるか分からないって……俺は裏社会を牛耳ってる訳じゃないんだぞ?俺に教えないで、誰かがヤンを脅した可能性は無きにしも非ず……


「ならお互い二手に分かれよう。俺はマティルドの方をサポートしとくから、ヤンはマティルドには秘密裏にラファエル君をサポートすればいい」

「チッ!てめぇがマティルドの陣営にいる時点で、俺が負けるのは確定してんだろうが!」

「…………」


 俺がラファエル・バイヨを手伝わないのは簡単だ:

 1.友達ではない

 2.ジェントルメイデンとして依頼を受けていない

 3.最初っから彼に勝ち目なんてないから


 この三つの理由、特に最後のが手伝わない大きな理由だ。


「ヤンも気付いているんだろ。さっき『今度は俺が殴られるさ』って言ったんだから、ラファエル君の恋が実る確率は0に近いぞ」

「……あぁ、分かってる。それでも、ジェントルメイデンに…てめぇにあいつを会わせるわけにはいかねぇ。責任を一人でしょい込むお前には……」

「責任なんて物をしょい込んだつもりは、一度もないな~重いよその言い方は。じゃあ決めていこうか。どうせヤンには三つの選択肢しかない。ここから俺の領分だから、ちゃんと聞くんだぞ?」

「…………分かった」


 ヤンは幼い容姿に不釣り合いな鋭い目で、俺を睨んだ。をついたことがバレたようだ。責任と感じたことはない、それは嘘だ。俺は人間にとって一番重要なのは人間関係だと思う。特に恋愛は人によるため、全く一緒というものがない。

 ジェントルメイデンとして活動する時、依頼人の顔は不安でいっぱいだ。そしてその顔から、祈りに近い念が見えてしまう。それは俺に多大なプレッシャーを与えるが、もう慣れた。そんな人生を左右するような恋愛を俺が取り扱っている。責任を感じないとは言えない。

 ………いけないな、マイナス思考に陥ってしまった。笑顔を浮かべて、ポジティブシンキングだ。


「一つ目はヤンがラファエル君をサポートしないこと。だがこれは今後について支障が出るため、一番やってほしくない事だ。二つ目は、マティルドがアシル君に恋をしていることを暴露すること。これも今後の事に支障が出る可能性があるため、お勧め出来ない。マティルドとアシル君は付き合えたとしても、アシル君とラファエル君の幼馴染としての関係が崩れてしまう」

「三つと言いながら、二つは使えねぇじゃねぇか!」

「あはは、御もっとも」


 正確なツッコミを入れらるが当たり前だ。俺がヤンにしてもらいたいのは、最後の案。他の二つは、最後の後押ししてくれるものだ。


「三つめは―――――ヤンが全力でラファエル君を導いて、マティルドに告白チャンスを与えることだ。名付けて当たって砕けろ作戦だ」

「まんまだな……俺にやらせたいのは、過去の俺とラファエルを重ねているからか?」

「それもあるが、単純に俺が人間の可能性を見たいだけだ」

「可能性だと?」

「俺は今まで数多くの恋愛を成功に導き、数多くの恋愛を失敗が見えていたため切り捨てた。全部やる前に、結果が見えていたから。そして俺の考え、勘が外れたことは一度もない。だからこの機に、見てみたいんだよ。俺がありえないと判断した可能性が、俺の手によって導かれたら成功するのかどうかを。結局俺は一人の人間だ、出来るのはせいぜい告白の場を用意すること、距離を近づかせること、ect…それぐらいだ。肝心の最後は本人の頑張りだ。今回はラファエル君だ、彼の熱意はマティルドに届くのどうかが知りたい」

「それはてめぇのエゴだろ…それに『俺の手によって』ってどういう意味だ?」

「そうさ俺のエゴサ!でも支障はないし、俺はただ傍観するだけだ。……後、ヤンには導くって言ったが、違うものをしてもらう」

「は?」


 心底分からないって顔で間抜けな返事が返ってきた。

 君の知識だと、ゲームに偏っていてあまり役に立たないから、別の役割を果たしてもらう。


「ジェントルメイデンには紹介しなくてもいいが、ヤンには俺が考えた作戦をラファエル君に伝えてもらう、伝令役になってくれ」

「………てめぇふざけてんのか?」

「ふざけてないよ。それにラファエル君は何も知らないんだから、問い詰められるとしてもヤンだろ。責任者は君になる、なら俺が手伝ってもいいだろ?」


 陰から手伝えば何の問題もない。それに俺のアシル・ボドワン対策と、今日から編み出すマティルド・ルーフス対策のどちらかがうまくいくのか気になるし。

 ヤンはその馬鹿を見るような目を向けるのは止めてくれるかな?

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