第5話 遭遇

 サーシャ達と別れて帰路につくところで知らない女子に絡まれました。


 振り向いてみると、その知らない女性はちょっと顔を赤くして「ゼェ…ゼェ…」と息を切らしていた。俺を捕まえるために走ったんだろうけど、君が走る羽目になったのは俺のせいじゃないので睨むのはやめてください。……ただでさえ女性が苦手で今ガッチガチに緊張しているのに…

 俺と同じ方向から来たから、多分うちの高校の女子生徒なのは間違いないはず、こういう時に制服があれば一目でどこの高校か分かって楽なのに…目の前にいる彼女は小柄な体、色白な肌、そして金髪赤眼の持ち主だった。その体つきから見て、世の中の男性の保護欲を掻き立てると同時に彼女の瞳孔が気が強いことを証明している。美少女の定義は分からないけど、それなりにもてる人だと想像できる。


「…あの…自分に何か用が?」


 やっぱり親しい人じゃないと敬語でしか喋れないなー。


「用ならあるわよ、ジェントルメイ――――

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!君!街中でその不名誉な異名を大声で言うなぁぁぁぁぁぁ!!」


 変なあだ名のせいで敬語を使う俺という仮面はすぐに剥がれた。


「わ...わかったわ。でも私はそれしかあなたの呼び方知らなかったから」

「じゃあ自己紹介からしよう!うん、それがいい!」


 大声を出したことに若干引かれたけど、あれを使われるのはこっちが恥ずかしいの!良識がある人で良かった...


「じゃあ私からね。私の名前はマティルド・ルーフス、15歳、高校一年生であなたと同じヴァシエンヌ高校に通っているわ。ついでに私のクラスは1年E組よ」

「次は自分ですね。私は―――

「同じ同級生なので敬語は不要よ、さっきも私を制止するときにタメ語だったでしょ」

「……それはちょっと無理ですねー」

「なんでよ?」

「私は人生経験が並より下なので、女子とましては今知り合ったばかりの人とは敬語以外で会話しようとすると口がパクパクするか聞き取れない単語しか発せません」

「要は極度のコミュ障ね」


 はっきり言われると地味に胸に刺さる。つき足せば、同年代の相手に冗談でも悪口を言われたらメンタルが弱いので内面では結構ショックになるという面倒な体質。


「はい、ですので自分の喋り方についてはお気になさらず」

「そうね、に乗ってもらおうとしているのに会話自体がままならないなら意味がないしね」


 今、非常に聞き捨てならない危険なワードが彼女から出た。……とてつもなく嫌な予感がする…さっきも俺を呼ぶときあの禁句を使っていたし。


「待ってください。その前に気になることが何個かあるので聞いてもよろしいでしょうか?」

「押しかけたのは私だからいいわよ」

「ありがとうございます。ではまずどこからあの呪いのニックネームを知ったんですか?」

「えっ?」


「えっ?」はこっちが言いたいんだけど!っていうか何その「マジかこの人」って物語ってる顔!めちゃくちゃ不安になるんですけど!


「まさか本人が知らないなんて…」

「あの謎が深まるので早く出所を答えてくれませんか?」


 もしだったら家に訪問して文句を言ってやる!


「実は…あなたの二つ名って結構有名なのようちの町では」

「は???」


 嘘だろ……俺の認知度が上がる=注目を浴びる=俺の精神では耐えきれない=死。人生終わったー、現代で言葉が最大の武器なのがよ~~~く分かった。あれ?でも――


「にしては私に会いに来る人は少ないように見えますが、それはなぜでしょう?」


 だって老若男女問わず、話題は誰でも食いつくし、ましては一番そういう経験を味わえる高校生時代にそれをほとんど解決できるやつがいるのに、なぜ訪問してきた人は彼女しかいないのだ?


「それは、何故かあなたの情報が今のところ「恋を叶えるキューピット」的存在としか知らないからよ」

「……あ~なるほど」


 かー。俺にこの名をつけたくせにこういう時だけは気が利くんだよなー。


「…それでは何故、私がジェントルメイデンだとおわかりに?」

「…噂があったのよ」

「噂ですか?」


 どういうことだ?正体は不明なのに、それを解き明かす噂があるね。矛盾してるなー。


「『 Ce monsieur est noir mais le plus pur, a plusieurs masques mais n'a pas d'expérience mais a le savoir(その紳士は黒いが誰よりもピュアで、複数の仮面を持ち、知識はあるが経験はない)』っていう噂がね」

「…………」


 絶句したわ。誰だよこんな意味深なダサい噂流したの…見当はついているが……

 っていうか経験がないのところ絶対ディスってるけど事実なので何も言えん。


「よく見つけられましたね…」


 本当によくこんな少ない情報量で俺が彼女が探している人だと断定できたもんだ。


「私頭はいいのよ!」

「そういうのは自分では言わない方がいいですよ」

「う…うるさいわね!それだけではないけどね…そうだ!話が長くなりそうだからカフェで話の続きをしましょう!」

「…一応聞きますが私の拒否権は?」

「ないけど、なにか?」

「イエナニモ」


 普通に面倒だし、女子とカフェ行ったことないし、嫌な予感がするから逃げたいけどマティルドの目が怖い…


「ところで敬語のせいであなたの名前を聞きそびれてしまったから名前を教えてくれる?」

「そうでしたね。私の名前は―――いや、俺の名前は黒曜淵、15歳で同じくヴァシエンヌ高校一年でクラスは1年D組だ、よろしく」

「あら、敬語はもういいの?」


 確かに俺は社交性皆無なので、敬語がないと女性や初対面の人と会話できないが、


「俺に話しかけた理由は大体予想できる。そんで、そういう時は敬語を使うと時間が余分にかかるから…頑張ります…」

「敬語に戻ってるよー淵君」

「ほっといてくれ!慣れようとしているんですk…だから」


 敬語で話さないのはやっぱり難しいや…やっぱり仮面をつけた方が楽だなぁ。


「それじゃ行こうか淵君」

「言っておきますが相談に乗るかどうかは内容次第ですからね」

「わかっているわよ、でもあなたは困っている人を放っておけないタチじゃないの?」

「ッ!」


 ……さっき会ったばかりなのにどこから来るんだろうなその自信は。っていうかそんなことを真顔で言われたら誰だって恥ずかしいと思う…


「…カフェへ行くぞ」

「あれれー淵君顔赤いよー、もしかして照れたのかなー?」

「あーーあーー急に走りたくなったなーー」

「あっこら本当に走んないでよ!」


 女性免疫ゼロなのだから照れるのはしょうがない。というか俺の豆腐メンタルが耐え切れなかった。

 というわけでカフェへレッツゴー。決して逃げたわけじゃないからね、そこは勘違いしないでね。





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