「おじさん、キモイ」と、非難してくる女子高生は元カノの娘なんだが……
あおいゆき
女子高生の結婚宣言!?
知っているだろうか。
年頃の娘を持つ父親の大多数が娘から「キモい」と呼ばれたことがあるらしい。
最愛の娘にそう言われることは悲しいことだが、その原因は父親の行動やしゃべり方、もっと言えば、存在そのものが娘には気持ち悪いらしい。
「おじさん、分かってないでしょ?」
現在、夜の八時。
俺は脚を組んだまま、行儀悪くテーブルに座っている女子高生の前で正座している。
目の前にあるのは、今にも舐めることができそうな女子高生のつま先。
ちょっと屈めばスカートの中が見えそうだ。
「……その目、キモイんだけど」
安定のキモい発言。
こいつの『キモイ』は、その見下ろす冷たい視線と相まって、パリピや陽キャの『キモイ』とは違う。
と、女子高生のつま先が俺の鼻先を掠める。
うん、これはこれで悪くない……じゃなくて。
「……すみません」
俺はひとまず謝罪の言葉を口にする。
なぜこんなことになっているのか。
それは目の前の女子高生、美玲の発した一言が原因だ。
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「結婚したい」
いつものように美玲の作った夕飯を食べ、いつものように雑談を楽しんで終わり――
そう思っていた俺は彼女の突然の発言に固まってしまった。
いきなり、何を言い出すんだ。
「……すまない、意味が分からん」
今、結婚したいと言ったのか?
それは将来的にとか、結婚願望があるとかそういう意味だろうか。
しかし、当の本人はこちらの心中など知る由もない。
「意味は分かるでしょ?」
そういう意味ではない。
目の前で神妙な面持ちで話すのは現在、高校二年生の
母親の
つまり、美玲は元カノの娘だ。
「お前はまだ高校生のはずだが?」
「うん」
……。
美玲のことは幼い頃からよく知っている。
彼女の家は俺の家とは目と鼻の先。
そこに美帆の両親と美帆、旦那、美玲の三人が一緒に住んでいた。
その後、美玲が物心つく前に婿養子であった旦那と美帆が離婚し、現在に至っている。
俺と美帆は幼稚園、小学校も一緒だった幼馴染。世の中的には珍しいかもしれないが、別れた後も普通に仲が良い。
もちろん、美帆の別れた旦那のこともよく知っていたし、娘の美玲にいたってはそれこそ赤ちゃんの頃からの付き合いになる。
離婚する前も仕事で忙しい美玲の両親の代わりによく面倒を見ていたし、離婚してからはより長い時間を美玲と過ごすようになった。
俺としては元カノの娘ということで複雑な心境だったが、そんなこちらの気持ちを知ってか知らずか、美玲はまるで娘のように、それはもう懐きすぎっていうくらいに良く懐いた。
美玲が中学に入学する前までは……。
「……相手はいるのか?」
「もちろん、というか居なかったら怖くない?」
そうか、いるのか……。
俺はてっきり、夢を見ているか、美玲の妄想かと思ってた。
高校生で結婚?
普通に考えて早すぎじゃないか?
いや、母親の美帆は二十歳そこそこで結婚したから早くないのか?
というか、そんな気配すらなかったぞ?
いやいや相手に騙されてるんじゃないか?
唐突な結婚したい宣言で俺の頭の中はパニックだ。
「その様子だと分かってないよね」
分かっている……結婚だろ?
ああ、娘に彼氏がいると知った父親ってこんな気持ちになるのか……。
これで結婚相手を紹介されたらと思うと、すごく憂鬱。
というか、今もかなり息苦しい。
「はぁ……おじさん、正座」
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「おじさん。なんで正座させられたか分かってる?」
「皆目見当がつきません……」
「しかも、微妙に嬉しそうにしてる……キモい」
まったく分からない。
結婚宣言をした娘にショックを受けたのは間違いない。……娘じゃないけどな。
それでも、美玲と俺のやり取りに関して俺の落ち度は無かったはずだ。
そういえば、美帆が言ってたな。
『何かをして怒らせたんじゃないなら、何も言わなくて、何もしなくて怒らせたってこと。そういう時は逆らっちゃダメ。いい?特に女性に対しては絶対よ』
美帆さんよ…。
その忠告、まさかお前の娘に適応するとは夢にも思わなかったぞ。
「おじさん。今、他の女のこと、考えてなかった?」
正座している俺の鼻先を女子高生のつま先が何度も掠める。
鋭い……。
お前の母親のことだけど、それもダメなのか?
っていうか、今の絵面はかなり背徳的で興奮する……じゃなくて、おい、動画を撮影しようとするな。
「……そんなことはない」
何かを追求するかのように、美玲のつま先は何度も俺の鼻先をギリギリの軌道で掠める。
このまま、つま先でビンタを食らったら……ちらちらと視線に入るつま先と白い太腿に、俺はたまらず下を向く。
「なんでなんだろ……」
はぁ~っと、大きくため息をついた後、ぽつりと呟く美玲。
いや、それは俺が聞きたい。
彼女の疑問は俺が何も理解していないからなのか、それとも何か別のことを意味するのか。
女子高生に正座を命じられるような頭の悪いおじさんには分かるはずもない。
やはりここは美帆の言う通り、大人しくしていよう。
「なあ、もう一度聞くが……結婚したい相手がいるのか?」
「うん、いる」
マジかぁ。本日、二度目になるが、やはりショックだ。
自分で傷口に塩を塗ってしまった。
「それは、俺が知っている男か?」
「……知ってる」
なんだ……と?
俺が知っている男?
予想をはるかに超える彼女の答えにモヤっとする。
好奇心から聞いたが、聞かないほうが良かったと思う半面、すごく知りたい自分もいる。
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