第49話、魔界のゲートは存在するのか?


 ギルドの解体部門は、デビルドラゴンや、デーモンの解体などで大忙しだった。


 持ち込みは、俺の異空間収納で町まで運んだから、手間はかなり軽減されたが。


「こりゃ、領主様だけじゃなく、国王様の耳に入るんじゃねえか?」


 解体部門のガブリがそんなことを言った。


「邪竜に悪魔の軍勢だろ? 魔界の侵略ってやつじゃねえのか? それで、国が滅びたって話もあっただろう」


 ネージュの国が、そうだった。……うん、そう考えると地元領主様のところはもちろん、王国のお偉いさんたちの耳に当然入るだろうな。


「ツグ、お前さん、英雄の仲間入りじゃねえか?」

「英雄?」

「そうとも、デビルドラゴンを二頭も仕留めたドラゴンスレイヤーだ。ひょっとしたらSランクに昇級するかもしれんぞ」

「Sランクって……国から認められないといけないんだっけか」

「そう、まさしく英雄冒険者に与えられる勲章だ。制限はあるだろうが、国からお金も出るらしいぞ」

「実感がわかないな……」


 つい最近まで、万年Eランクだった男だぞ。Aランクになったのだって、まだ現実感に乏しいのにさ。


「ところで、悪魔とデビルドラゴンがまた出るかもしれないってのは本当か?」


 ガブリが聞いてきた。作業をしていた解体員も近くにいた何人かが、こっちを見た。


「魔界から来るって話じゃないか。そんなのが、この近くで立て続けに出たってことは……」

「ああ、どこかに魔界の出入口があるかもしれない」


 俺は認めた。初遭遇はダンジョン。二回目が今回の悪魔の軍勢だもんな。


「その出入口があるなら、突き止めないといけない」

「まあ、次が現れてもツグがいりゃあ、何とかなるんだろうけどさ」

「おいおい、買いかぶらないでくれよ。俺だって、いつもこの町にいるわけじゃないんだぞ」

「いてくれよ。それで皆が安心する」


 ガブリと、近くにいた解体員がすがるような目を向けてきた。


「早々に調べて、入り口があるなら潰しておくよ」

「頼むぜ。オレらは悪魔に襲われたら逃げるしかできないからな。この町から逃げても行き場がねえからさ」

「なら、もしもの時は俺んとこ来るか? ポルトン村って廃村に拠点を作ったから、当面の住居は用意できるぞ」

「……ツグ、お前、もう領地もらったのかよ?」


 ガブリが驚いた。


「あー、違う違う。廃村に魔物が住み着かないようにって拠点を作ったんだよ。領主様の許可は得ているらしいが、まあ借りてる土地だけどな」


 と、ギルドからは説明されている。領内の治安維持も兼ねているので、魔物が住み着かない=土地の使用料ということらしい。


「ほー、そうなのか」


 ガブリは早とちりを自嘲した。


 冗談はさておき、アルトズーハの住民にとっても、悪魔の軍勢が来るかもしれないという不安は大きいということだろう。


 こりゃ、早々に確認しないといけないな。



  ・  ・  ・



 仲間たちの元に戻ると、ネージュが口を開いた。


「ツグ様、お話があるのですが……」

「魔界の出入口のことか?」

「っ!? どうしてわかったのですか!?」

「ギルドの上のほうでも話が出たんだよ。今回の悪魔の軍勢の出所がわからないが、どこかに魔界の出入口があるんじゃないかって話」

「おそらく、あります」


 ネージュは深刻な顔で言った。


「私の国、ビランジャ王国も複数の邪竜と、悪魔の軍勢の襲来で滅ぼされました。単独ならばこちらの世界に迷い込んだ可能性もあるのですが、軍勢となると、ゲートは存在しているはず」

「あるかも、ではなく、『ある』んだな」


 なら、グズグズしてはいられない。


「あんま休めていないけど、急いだほうがいいんだろうな」

「はい」


 ネージュは力強く頷いた。


「手遅れになる前に」

「あー、ちょっといいか?」


 フラム・クリムが口を挟んだ。


「その魔界のゲートってやつをぶっ潰すのはいいけど、場所はわかるのか?」


 冒険者ギルドでは、それを探そうって話になっているが、明確な位置の特定はまだだ。


「ツグ様、闇の宝玉を持っていらっしゃいますよね?」

「……ああ」


 異空間収納に隔離してある。デビルドラゴンの額にある魔石にた黒い宝玉は、瘴気を持った危険物である。


 ネージュがそれを取り込み、瘴気に蝕まれていたのを助けたから、よく覚えている。


「闇の宝玉を使えば、魔界の出入口も分かります」

「そうなのか? あれでわかるのは、同種の存在……デビルドラゴンの居場所だと聞いていたんだが……」


 闇の宝玉を取り出した時に、そう聞いたが。


「宝玉には、特定の条件で魔界とこちらの世界を繋ぐ力が発動するようなのです。ですから、闇の宝玉を使って反応があれば、それはデビルドラゴンか、魔界のゲートのどちらかということになります」

「つまり、位置の特定が可能ということか」


 邪竜かゲートかはわからないが、闇雲に探すよりは断然早い。貴重な手がかりだ。壊さずに保管してよかった、と喜ぶべきかな。


 だが気がかりはある。


「その闇の宝玉は、どう使うんだ?」

「……体に、取り込めば、わかると思います」


 ネージュは、顔をうつむかせた。瘴気を含んだ物を体に入れる?


「却下だ」


 それでカゲビトという影の魔物になりかけたネージュだ。そんな危険な方法は認められない。


「私の体に入れてください、ツグ様」


 ネージュは言った。


「これは必要なことです。一刻も早くゲートの位置を突き止めないといけない。ツグ様にはご迷惑をおかけしますが、場所を探知したら、私の体から取り出してください。そうすれば、苦痛は私だけで済みます」


 確かに、俺なら闇の宝玉を取り出すことはできるが……。いま、苦痛って言ったよね? わずかな時間とはいえ、毒を喰らうのと同じくらい危ないんだぞ?


「ツグ」


 すっと、セアが手を上げた。


「わたしが、その闇の宝玉を受け入れる。痛みなら耐えられる」

「え、ちょっと何言っているんだ?」

「そうですよ、セア。あなたがそんなことをしなくても!」


 ネージュは慌てて、セアの両肩をつかんだ。


「そんなこと、あなたにはさせられません!」

「平気。わたしの体、普通じゃないから」


 怯えも不安もない、真っ直ぐな目を向けるセア。十四の少女とは思えないほど、肝の据わった眼差しだった。


「何かよくわかんねえけど」


 フラム・クリムが手を上げた。


「何か痛いもんなら、アタシがやってもいいぞ。お前らより全然頑丈だから」


 ……君はもう少し緊張感を持とうか。俺は静かにため息をついた。


「別に、必ずしも闇の宝玉を使わなくてはいけないってことはないだろ」

「と、言いますと?」


 ヘイレンさんが聞いてきた。


「俺の索敵で、条件をしぼれば見つけられると思うんだ」


 ダンジョンで遭遇したことのない魔物だって見つけられる索敵スキルだ。これは物も見つけることができるから、魔界のゲートも発見できる可能性も高い。……なに、もしゲートが探知できないものだとしても、ゲートを守っている悪魔がいるだろうから、そいつを探知して向かえばいいって寸法よ。


「というわけで、闇の宝玉は使わない方向で。どーしても、見つからないようなら、その時はまた考えよう」


 そんなことはないよう、祈っているよ。


 あ、そうだ、執筆チート手帳に、索敵スキルに魔界のゲートを識別可能と付け加えておこう。これでたぶん、大丈夫だ。

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