第47話、冒険者たちの帰還


 アルトズーハの町は守られた。西門を中心とした外壁が攻撃され、修理が必要だった。……ドラゴンのブレスだな、まったく。


 セア、ネージュ、フラム・クリム、ヘイレンさんは大きな傷を負うこともなく生還。俺は心底ホッとしている。


 パーティーメンバーが無事だったことは幸い……っと。


「セア、血が出てるぞ」

「ん? かすり傷」


 いま気づいたという顔をするセア。この子、あまり痛がらないから気をつけないな。はい、ヒール。


「ありがと、ツグ」

「どういたしまして」


 冒険者ギルドへ向かう冒険者たち。フラム・クリムは笑った。


「いやぁしかし疲れたぞ。勝つってのはいいもんだよなぁ」

「君の射撃の腕、凄かったな」


 俺が褒めると、フラム・クリムはまんざらでもない顔をして、邪竜弓に触れた。


「こいつのおかげさ。あんだけ撃ったのに、ビクともしない」

「フラム・クリム殿で、空の敵の三分の一は墜とされたのではありませんか?」


 ヘイレンさんが言えば、フラム・クリムは「えー、そう?」と照れた。


「でも、それを言うなら、あんたも凄かったじゃね? 新しい武器、もらったんだろう?」

「届けてくれたコラソン殿に感謝ですな」


 邪竜の素材で作られた刀、その切れ味は抜群だった。


「もちろん、これを手配してくださったツグ様にも」

「おーそれそれ。ツグもレッサーデーモンとか結構吹っ飛ばしてたよな。半分くらいやったんじゃね」

「ドラゴンスピアのブレスのおかげだな」


 俺は苦笑した。


「あれなら、別に俺じゃなくてもできたよ」

「槍って言ったら、ドラゴンの脳天に一発ぶちこんだだろう? あれには度肝を抜いた」

「左様です。感服いたしました」

「ツグは、強い」


 セアまで加わって、俺もこそばゆい。


「うん、あそこまでうまくいくとは思ってなかった。ちょっと痺れてくれれば、って思ったんだけどさ」


 強運だった。執筆チートの幸運の効果かもしれないな。たぶんそうだ。後は筋力MAXとか、武器の扱い方とか色々。


「ところで、姫さん。さっきからむっつり黙り込んでどうした?」


 フラム・クリムが、ネージュに顔を向けた。うわの空だったようで、ネージュはビックリした。


「え? いえ……何でもないです」

「あん? 何かあるなら、はっきり言えよ。気になるじゃん」


 確かに――そう思った俺だが、そこへ他の冒険者がやってきた。ロッチだ。


「よう、ツグ。お前、またやってくれたな」


 肩に手を回され、軽く小突かれた。


「ロッチ、あんたは無事そうだな」

「おかげさんでな。お前たちのおかげで、オレたちも命拾いした」


 オルデンメンバーも欠員なしで、生き残ったそうだった。


「まあ、他はそうはいかなかったみたいだがな……」


 一瞬、ロッチの表情は曇った。疲れた足取りの冒険者たち。仲間を失い、泣いている者もいる。


 だがしんみりしたのは、そこまでだった。ロッチがニヤっとした。


「それにしても、何だよ。お前の槍。魔法槍なんだろうけど、レッサーデーモンやオークとか、まとめて吹っ飛ばしちまってよ」

「ああ、ドラゴンスピア?」


 異空間収納から邪竜素材の槍を取り出すと、ロッチに見せた。好奇心丸出しで、槍を受け取り、ビッと掲げる。


「へえ、これがあの、デビルドラゴンの頭をぶちぬいた槍かー」

「いや、それはこっちだ」


 雷獣素材のサンダースピアを出す。


「本当にあれは偶然だぞ。麻痺させるつもりで投げたら、当たり所がよかっただけだ」


 ロッチだけでなく、彼の仲間たちも槍を見つめる。……包帯をしているメンバーもいるが、そこまで酷い怪我人はいないようだった。


「ツグさん、そういえば光の剣を持っていたよな? あれはどこで手に入れたんだい? 前は持ってなかったよな」

「あー、雷獣素材で作ってもらったんだよ。コラソン工房で」

「コラソンって、あのサイクロプスと一緒に仕事をしているドワーフか?」

「そうだ。ちなみに、彼女の盾や、彼女の弓、俺たちの鎧も、そこで作った」


 ネージュ、フラム・クリムと続いて、俺やセアの鎧を見せる。そうそう、ヘイレンさんの刀も。


 気づけば、近くにいた他の冒険者たちも俺たちパーティーと一緒に歩いて、武器やら、防衛戦での戦いぶりを褒めてきた。


「やっぱ、ドラゴンを一発で倒したのが一番じゃね?」

「いや、空の敵を倒したブレス魔法とか――」

「オークをバッタバッタと倒した雷の剣だろ」

「かっけぇよなぁ、ツグさん、おれにも剣を教えてくれよ!」


 おいおい、なんか騒がしくなってきたぞ。不思議な気分だった。これまで、こんなに周りから一度に褒められた経験がなかったから、余計に。


 何かふわふわしてしまうな。現実感に乏しかった。


 ともあれ、俺たちは冒険者ギルドに到着した。



  ・  ・  ・



 ギルドのフロアには、先に退避していた冒険者や守備隊の人間が大勢いるように見えた。


 ここでも負傷者が寝かされて手当を受けていたが、最前線と違い、薬などが早く届いて治療されたか、ひと段落した空気だった。


 ただ、そこにいた人々の表情には疲労の色が濃かった。だが俺たちがフロアに到着すると「英雄たちのご帰還だ!」と声が上がり、小さくはあるが拍手や賞賛の声をかけられた。


「よくやってくれた! おかげで町は救われた」

「助かったよ、ありがとうー!」


 これには俺はもちろん、ロッチや最後まで最前線にいた冒険者たちの顔がほころんだ。皆で頑張った勝利だ。


「ツグさん」


 受付嬢のウイエさんがやってきた。


「お疲れさまでした! ギルマスが今後の話をしたいそうです。ロッチさん、上級冒険者の方々も、お願いします!」


 プラチナさんが今後の話をしたいと言う。そうだよな、後始末ってのは大事だもんな。


 俺はロッチとうなずき合うと、セアたちに言った。


「ちょっと話を聞いてくる。疲れたろう、君たちは休んでいてくれ」

「ツグは? 大丈夫?」


 セアが聞いてきた。


「俺は大丈夫だよ。ありがとう」


 ポン、と彼女の頭を撫でてやる。


「……ヘイレンさん、疲れてるだろうけど、皆をよろしく」

「承知しました、ツグ様」


 ちょっかいを出してくる野郎はいないと思いたいけど、皆疲れているからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る