第34話 廃村に巣くうゴブリンを討伐せよ
ポルトン村――かつては、そう呼ばれていたらしい。
小規模な村は、今や廃墟であり、建物の残骸や、壁などが点在している。平地にある廃村だが、瓦礫などが障害物となって全体を見渡すことはできなかった。
「風情はあるよな……」
俺は、思ったことを口にする。こういうのファンタジー小説の舞台とかにしたら面白そうだ。ネタになりそうな景色は、後でじっくりと見ておこう。
「嫌な雲ですな」
ヘイレンさんが空を見上げる。
「雨が降ってきそうです」
「……雨宿りくらいはできそうだ」
屋根が残っている建物があれば、だが。ゴブリンを一掃したら、ここに拠点を作ってもいいかもしれないな。
俺はオートマップと索敵スキルで、廃村全体を調べる。
「いるいる。……ゴブリンが、ざっと30体」
「ここからわかるのですか、ツグ様?」
ネージュが驚いた。頷く俺に、騎士姫は微笑んだ。
「さすがです、ツグ様!」
「連中の臭いがするぜ……」
神妙な表情を浮かべるフラム・クリムは鼻をひくつかせながらやってきた。
「結構な数がいるみたいだ」
「クリーンの魔法で、臭いも除去できないかな」
俺は手帳を取り出して、魔法と書いたページに、そう加筆する。臭いも一応取れていた気がするが、こうやってはっきり書けば、効果は確実になる。
「ゴブリンは、待ち伏せと……あ、罠があるか。ちょっと確認しよう」
索敵に罠も追加。……ふむふむ、落とし穴程度か、それが10いくつ。えっと――
俺は異空間収納から紙とインク、筆ペンを出す。ネージュが首をかしげる。
「ツグ様……?」
俺は座り込んで、膝の上にバックラーを置いて机がわりにする。簡単に廃村のマップを書いて、罠の場所を記していく。皆が注目する中、できたマップを見せた。
「これが、罠の位置。落とし穴だ。で、ゴブリンはこことここに集まっている――」
大体の配置を全員に教える。
「おいおい、マジかよ!? ここにいながら敵の配置がわかんのかよ!」
フラム・クリムはポカンとした。
「どんな術だよ!? そんなの、普通じゃねえぞ!」
そこで何故か自慢げな顔になるネージュ。俺は考える。
「これとまともに戦うのも、面倒だよな……」
ゴブリンは小癪で、待ち伏せや不意打ちも平気で使ってくる。隠れる場所がいっぱいの廃村で真面目に戦おうとすると、怪我をするのはこちらだ。
それなら、こちらも不意打ちといくか。
「スリープ、村全体!」
・ ・ ・
「マジでゴブリンどもは寝込んでいるわ」
フラム・クリムは、ゴブリンの頭部に軽く金棒を叩き込んで潰した。
「こんな楽でいいのかってレベルだ」
「いいんだよ、楽にやっていこうぜ」
廃村に入った俺たち。睡眠の魔法を村全体にかけたことで、ゴブリンの動きは完全に止まっていた。
「ゴブリンは魔法への抵抗力が低いって言われてる」
眠らせた後で、そのまま始末する。俺たちは落とし穴を回避して、ゴブリンを確実に討ち取っていく。
「何だか卑怯な気がしますね……」
騎士姫様は同情的に言った。
「いやいや、ネージュ。ゴブリンが女性の敵だってのは知ってるか?」
「……ええ、それは聞いたことあります。ゴブリンやオークは、他種族の女性を捕まえて……その、暴行するとか」
「苗床にするってやつだろ」
フラム・クリムが、またも一匹ゴブリンを潰した。
「オーガじゃ聞かねえが、まあ、汚らわしい連中だよな」
さすがにオーガはやらんだろう。体格の差ってものがある。でも上位種は完全に人型で、フラム・クリムくらいならデキなくも――って、何考えてるんだ、俺は!
真っ昼間に寝込みを襲う、ということで、廃村内のゴブリンを一掃していく俺たち。魔法が効かない種族だったら、こうも簡単にはいかなかっただろうな。
「ゴブリンってお宝を溜め込むんだなぁ」
いったいどこから奪ったのか、お金や上等な武器などが、廃屋から見つかった。家の大きさから、かつては村長の家だったのではないか、と思う。
そして……暴行の真っ最中だったのか、見たくないものを目撃することになる。睡眠魔法で全員お休みではあるが……。
これにはネージュもお怒りだった。
「卑怯と同情した私が愚かでした」
魔法剣で眠っているゴブリンの首を跳ね飛ばすネージュ。ボロボロになっている女性に歩み寄るが……。
「死んでる……」
若干熱を感じるのは、少し前まで生きていたからか。衰弱している上に暴行され、そのまま――
胸くそ悪い。これだからゴブリンは!
・ ・ ・
廃村のゴブリンは全滅した。討伐部位を回収し、ゴブリンの死体は炎の魔法で焼却した。
村に残るゴブリンの悪臭をクリーンの魔法で綺麗にすると同時に拭い去る。
犠牲者を埋葬したら、雨が降ってきた。俺たちは、屋根がかろうじて残っている建物で雨宿りする。壁が崩れていて、窓というにはずいぶんと見晴らしがいい。
そこで座り込んで、しばしの休憩。ネージュは感情の整理がつかないのか、黙り込んでいる。
セアは無表情でいつも通り。ヘイレンさんは、ネージュを心配そうに見ている。フラム・クリムは金棒を外に突き出して、雨で血を落としていた。
せっかくの空き時間なので、俺は紙を出して、クエストの遂行について、ギルドに報告する内容をメモした。
「……この内容は小説には向かないな」
ふと思ったことが口に出た。そうだ、せっかく紙もあるんだし、これから日記でもつけようかな。
「……」
雨音が心地よい。どれくらいそうしていたか、索敵スキルが反応を捉えた。
「……人間?」
識別――鑑定を合わせてっと。8、いや9人か。全員が冒険者だが、そのうちの半分に強盗や殺人の前科あり。
「嫌な予感しかしないな」
俺が筆記用具をしまうと、セアが俺を見た。
「ツグ?」
「怪しい連中が村にきた」
それを聞いただけで、セアが警戒する戦士の顔になった。フラム・クリムが立ち上がる。
「怪しい連中だって?」
「冒険者だが、半分犯罪者だ」
こんな廃村に何しにきたんだか。ただ通りかかっただけ? いやゴブリンが根城にしていた場所だぞ?
「殊勝にもゴブリン討伐にきたってか?」
「それはどうでしょう」
ヘイレンさんが首を横に振った。
「ギルドでの依頼書は我々が受けた時点で掲示板から回収されるはずです」
「半分ゴロツキみたいなのが、タダ働きをするわけないもんな」
ひょっとして、邪竜を討伐したルーキー、つまり俺たちを狩りにきた連中かもしれない。報酬額が凄かったからなぁ。もし奪えれば、しばらく遊んで暮らせるわけだし。
最悪、冒険者同士で殺し合いってか? 冗談じゃない。
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