第26話 ウェポン・クラッシャー


 魔法剣スノーホワイトを、復元の魔法で再生した俺。


 魔法なんだからしょうがないと思うが、折れた剣を元通りにする魔法など奇跡のようなもので、ネージュとヘイレンさんには大絶賛された。


「直ったのは嬉しいですし、ツグ様には感謝ですが、これは大事に保管ですね」


 そうしみじみというネージュ。セアが首をかしげた。


「使わないの……?」

「ええ、また壊してしまうといけませんし」

「魔法剣は、そう簡単に壊れるものじゃないだろう」


 俺が思ったことを口にすると、ネージュは自嘲っぽい苦笑を浮かべた。


「その、ええ……普通は、そうですよね。魔法剣が壊れるなんて」

「……?」

「実は姫様は、お力がとても強いお方なのです」


 ヘイレンさんが言った。途端に顔を真っ赤にするネージュ。


「これまで折ってしまった剣は二桁。……ちなみに全部、ミスリル製以上の魔法金属剣です」


 とんでもない浪費家だ。二桁のミスリル剣なんて、しばらく遊んで暮らせる金になるだろうに。


 セアが口を開いた。


「剣ではなく、メイスにしたら?」

「最近は、それも試したのですが……」


 ヘイレンさんは首を横に振った。


「やはり折れてしまいまして」

「まあ、基本的に武器ってのは戦っていれば壊れるものだけど、さすがにミスリル製が折れるのは不良品でもなければ、あまりよろしくないな」


 俺は思ったが、まあ、さほど深刻には考えなかった。少なくとも、俺たちと一緒に行動している限りは。


「ネージュ、スノーホワイトを貸して」

「はい」


 彼女から、魔法剣を受け取り、『複製』。叩いて増えるビスケットの如く、スノーホワイトが二つになりましたー。


「ええっ!?」

「ヘイレンさん、こっちが元の方なんで、保存を」

「は、はい……。ツグ様、今のは――」

「複製の魔法だ。同じものを作れるんだよ」


 はい、これ――と俺は複製したスノーホワイトをネージュに渡した。


「複製で増やせるから、好きなだけ折っていいぞ」

「! ……はい!」


 しばらく呆然としていたネージュだが、やがて付き物が落ちたように顔を綻ばせた。


「そんなふうに、言われるのは初めてです……!」


 自分でも折りすぎだと自覚があったようで、その心配がなくなったのだ。ネージュはまたも涙を見せ、しかし喜んでいた。


 ヘイレンさんは首を振る。


「複製の魔法とは……やはり、ツグ様は底のしれないお方だ。しかし、先ほどから高度な魔法をお使いになられていますが、魔力は大丈夫なのですか?」

「魔力?」

「ええ、この手の奇跡の魔法ならば、消費する魔力も桁違いのはず! 普通の魔術師なら魔力切れを起こして倒れてもおかしくありません」

「あー、そういう話は聞くなぁ。でも俺の場合は……どうなんだろう。魔力量が測れなかったんだよな……」

「ツグ、測定用の魔道具を壊した」


 セアが言えば、ヘイレンさんは目を回した。


「測定魔道具を壊したぁ!?」

「そう。たぶん、ツグの魔力は桁違い」

「……なるほど、それであれだけの魔法を使いながら平然とされているわけですか」


 ヘイレンさんから尊敬のまなざしを向けられる。いやー、これ執筆チートのおかげなんです。いい装備品があって、強くなっているだけで、実際のところは大したことないですよー。


 その時、急に腹の虫が鳴った。いまのは誰だ、と思ったら、セアとネージュがそれぞれ自分のお腹を見ていた。二人同時に鳴ったのか。そういや、腹減ってきたな。


「とりあえず、飯にしましょうか」

「そうですな」


 俺の提案にヘイレンさんは同意した。持ってきた野外食の定番、干し肉……。うん、次からはちゃんと市場へ行って、色々買ってこよう。異空間収納に入れておけば、場所を取らないし、腐らないだろう。


「ツグ様は、食材を複製の魔法で増やしたりはできるのですか?」


 ヘイレンさんがそんなことを聞いてきた。


「そういや、やったことないけどできるんじゃないかな。何故?」

「いえ、一通り食材を揃えたら、後は買わずとも食料を確保できる、と思いまして」

「あー、なるほど」


 食費を大いに節約できるし、残りを確保した上で増やせば、食材がなくなるということもなくなる。でもそれって……。


「いえ、出過ぎたことを申しました。複製の魔法は魔力を使いますから、いくらツグ様の魔力が豊富とはいえ、効率の悪いことには違いありません。申し訳ありませんでした」

「あぁ、いえ。そうだね、効率はよくない」


 一瞬、複製で増やしまくって、売れるんじゃないかって思ったりもしたが、装備の複製の時も思ったが、金儲けには使いたくないな。偽善なんだろうけど、すっきりしない。


「ただ、不足している時や必要な時はやってもいいと思う」


 方法があるのに、やらずに飢え死にとか阿保らしいし。たとえば、希少で調達困難なものは、個人使用を前提に増やすのはありだと思う。


 まあ、この辺りは深く考えず、臨機応変にやっていこう。変に考えすぎて、身動きできなくなるのも馬鹿みたいだし。


 食事の後は、交代で見張りをしながら、残りは睡眠。血に飢えた魔獣が徘徊している野外でのキャンプだ。


 まあ、俺がいる間は、索敵スキルで見張るし、俺が仮眠をとる間はセアがいれば大丈夫だろう。あれで、そこらの戦士よりレベル高いし。


 ネージュとヘイレンも交代で見張りをするが、正直、どこまで頼っていいかは、まだわからないんだよねぇ……。



 ・ ・ ・



 何事もなく、一夜が過ぎた。


 本日も快晴。スープと干し肉をかじり朝食とする。


 俺はそれぞれに、クリーンの魔法をかけて、汚れなどを落とす。ちょっとした魔法だが、ネージュもヘイレンさんも朝から驚いていた。


「至れり尽くせり、ですね」

「あると便利だよね。……それより、ネージュ。君、眠そうだね」

「すみません。寝ようとは思ったのですが、中々寝つけなかったので……」


 知り合ったばかりの人間に任せて寝るというのは、案外難しい。泥棒や暴行などが、当たり前のようにある世界だと特に。


 そっと疲労回復に魔法をかけてやる。眠気についてまでは効果があるかわからないけど。こりゃ気をきかせて睡眠魔法でもかけてあげたほうがよかったかもしれない。


「セアは、元気そうだな」

「うん。寝れた」


 彼女はぐっすりお休みできたらしい。元から寝る時はすぐ寝る教育でもされたのか、あるいは俺を信用してくれているのかもな。


 信頼できる人がいるからこそ、睡眠という無防備な姿をさらせるのだから。


「それで、ツグ様。これからの予定ですが、いかがいたしましょうか?」


 ヘイレンさんが聞いてきた。俺は答えた。


「食料の買い出しと、ギルドへ行って、何か適当なクエストを探そうかと思ってる」


 あとこの二人が俺に恩を返そうとしているが、どういう形がいいか考えたいし。

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