第14話 ダンジョンにいこう


 アルトズーハから西に少し離れた森がある。俺とセアはその森の中にあるミデンダンジョンに到着した。


「いよいよダンジョンだ」


 俺が言えば、セアもコクリと頷いた。その手にはすでにラン・クープラが展開している。


「ここは結構広いダンジョンなんだ」


 一度入ったのだが、地図は残念ながら、前のパーティーの物なので手元にはない。


 だが、俺には魔法と、執筆チートがあるのよねぇ。


「オートマップ!」


 ダンジョン『ミデン』の構造、フロア、通路すべてを自動で把握する超絶チート!


「……ツグ?」

「ごめん、びっくりさせたかな?」


 突然『オートマップ』だもんな。


「ダンジョンは把握した。さあ、進もう。……ライト!」


 光の魔法球を具現化。照明として薄暗い周囲を照らす。暗い場所ではトーチやランプなどの照明道具が欠かせないが、魔法なら手が塞がらない。


 さらに捜索と索敵も発動っと。


 捜索は何かしらの装備や武器やトレジャー的なもの探し、索敵はダンジョン内のモンスターの位置や動きを把握する。


 もうすでにいくつか反応がある。こんなに見えてしまっていいのかしら?


 俺とセアは、ダンジョン内を進む。ただの洞窟のように見えて、中の道はそこそこに広い。魔獣と遭遇しても戦えるくらいには。


「案外、落とし物ってあるもんだなー」


 道中にいくつかアイテムを回収。鑑定と合わせると、それが冒険者の落とし物とわかった。


「銀貨や銅貨が落ちているのは、袋が破れたのかな」


 照明をつけないと暗いから、一度落とすと見つけられなくてそのまま、というパターンだろう。


「ツグ、いま壁で光った」


 照明の魔法の光で、それが反射したのだ。


「うん、どうやら剣みたいだ」


 鑑定も使ってみれば、とあるDランク冒険者が使っていたとあった。


「放棄、か……」

「捨てちゃったの?」

「そうみたいだな。……見たところ異常はなさそうだし、拾っておくか」


 異空間収納へポイっと。


「もしかしたら、他の武器に換えたのかもしれないな。たとえば、より上等な剣を手に入れたから、古いのは荷物になるから捨てたとか」


 その場合、少々キナ臭いものを感じるが。落ちていた、というならともかく、ダンジョン内で他の冒険者を殺して手に入れた、とか……。あるいは死体があった、というオチかもしれない。


 深く考えないようにしようか。


 そんなこんなで前進。ダンジョン内の魔獣は、遭遇したものは倒す。集団なのは、コウモリ種の他は、ゴブリンやオークだろう。


 単独か、あるいは二、三体くらいまでの敵を選んで戦闘。モンスターは適度に狩るべし。狩らねば、いつかはダンジョンスタンピードになって災厄となる!


 索敵スキルで、見つけているから待ち伏せはされない。先手はこちらが取る!


 スライムが這い出てくれば、ファイアーボール(小球)であっという間に炎上。単独のゴブリンスカウトは、足止めの魔法で動きを封じたら、セアが肉薄してその首を一撃で落とした。


「セア、ジャイアントスパイダーだ! 飛ばしてくる糸や毒液には注意!」

「任せて」


 風のように一気に距離を詰めるセア。スパイダーは口から糸を吐いたが、セアはわずかな動きで回避。そのまま突進して、ジャイアントスパイダーの頭を刺し、引き裂いた。


「セア、君って超有能!」


 前線で戦わせれば、ヒラリヒラリと蝶のようにかわし、敵を確実に仕留める。騎士や重戦士のような壁役ではないが、素早さと速攻を武器にするアサシンといったところだ。


 美少女アサシン……。小説のネタになるなぁ。


 俺は、彼女のおかげでだいぶ楽をさせてもらっている。さて、ジャイアントスパイダーを解体……といっても、欲しいのは魔石なんだけどね。鑑定様のおかげで、魔石の位置もわかるし、解体スキルのおかげで、かかる時間も最小限。


 では次に行こう。



 ・ ・ ・



 ダンジョンの地下四階……といっても階段があるわけじゃないから、だいたいそれくらいの深さってだけなんだけど。


 適度にモンスターを狩り、捨てられた装備を回収。まあ、壊れているものも少なくないんだけどね。


「……」


 索敵スキルに反応。これは冒険者かな。右の道へ行くとかち合うから、左の道に行く。今回は気持ちよくダンジョン探索をしたいから、他の冒険者との遭遇は極力避けていく。セアを見て、変に絡まれると面倒だからな。


 そうやって移動していると、何やら索敵スキルが『強力な魔獣』の存在を知らせてきた。ちっ、単独だから大丈夫と思ったが、近くになったことで、その魔獣がそこらのやつと格が違うのがわかってきた。


「ツグ」


 セアも気づいたらしく、正面を見つめている。


「雷のような音がする。……危険なヤツが、来る……!」

「そういやギルドで、雷を使う魔獣がいるらしいって話を聞いたな」


 そいつが近づいてきているのか。


「さすがに麻痺とか感電死は、ごめんだ。……えーと、全魔法、対電撃防御!」


 俺は、ギルドの資料室でみた防御魔法をやってみる。……これで大丈夫なはず。


「セア、油断するなよ」

「うん!」


 セアが身構える。俺もショートソードを向ける。


 ゴロゴロ、と雷鳴のような音が奥から聞こえた。


「ああ、向こうもこっちに気づいているな」


 マップ上で、敵のスピードがグンと上がった。駆け出したのだ! こっちに!

 一瞬の稲光。そして白き魔獣が見えたのも刹那。雷の轟音と共に、俺の方へ突っ込んできた。


「うおおっ!」


 ザンッ!


 腕がすさまじく痺れた。重量物の当たる感触。


「ツグ!?」


 セアの悲鳴じみた声。俺は一歩も動けなかった。いや、言い直そう、一歩も動かなくて済んだ。


 振り返れば、真っ二つになった白き魔獣の死骸。突っ込んできたから剣を出したら、一刀両断にしていた。


 筋力MAXは伊達ではない、ってことだな……!


 セアが俺の隣にきて、魔獣の死骸を見下ろす。


「これ何……?」

「雷獣、って言うみたいだ」


 鑑定結果ではそうある。雷をまとうキツネとも虎の化け物とも言われているらしい。


「電撃を魔法のように操り、その動きはとても素早い」

「わたしは、かわすので精一杯だった……」


 セアだって相当速いのだが、それよりもさらに速いということだ。


「素早さ特化の分、守りは弱いみたいだ。電撃をまとうことで、その防御の低さをカバーしているってところか」


 対電撃防御してなかったら、果たして一刀両断できたか怪しい。


「モンスターランクはAランク相当」

「……ツグ、すごい」

「まぐれだよ、まぐれ。あいつが勝手に飛び込んで死んだんだ」


 とはいえ、ランクAの魔獣なんて、滅多にお目にかかれるものでもない。


「素材は希少だからな。これは確保しておかないとな」


 異空間収納に雷獣を入れておく。解体は……冒険者ギルドでやると、噂になるか? 口止めとか……守秘義務も許容を超えている気もする。


 いざとなれば、どこか人目につかないところで俺が解体するしかないかもしれない。

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