執筆チートで成り上がり! 追放冒険者、最強助っ人になる。

柊遊馬

第1話 追放されて死にかけて


 ふっ、と目が覚める。……あれ、俺、意識が飛んでいた?  何で?


 左脇腹が燃えるように熱かった。あ、これ、刺されたわ――俺は瞬時に理解し、患部を押さえ込んだ。


 痛い。ベットリとした血の手触り。


「……」


 どうしてこうなった? 俺は頭を働かせる。そして思い出した。


「……そうか、俺。パーティーから追い出されたんだった」


 時間は少しさかのぼる。



 ・ ・ ・



「――ツグ、お前、ここから出て行け。追放だ」


 俺にかけられたその言葉。

 それを発した青年魔術師アヴィドは冒険者パーティー『ガニアン』のリーダーだ。


「聞こえなかったか、おっさん。追放だ、追放!」

「は?」


 アヴィドの無遠慮な言葉。俺は意味を理解するのに数秒を必要とした。


 突然過ぎた。


「除名だ。クビだ。お前、ぶっちゃけ邪魔!」


 アヴィドは容赦なかった。パーティーメンバーたちもまた、俺に冷たい視線を向けてきた。


「ホント、目障りなんだよね。目の前をウロチョロされるとさぁ」


 エルフの弓使いであるイリスィが睨んでくる。は? ろくな援護も遊撃もしないアーチャーが何を言ってるんだ? 


 女騎士――テチが腕を組む。


「正直、ツグはいてもいなくても同じだ」

「そうさなぁ……」


 パワーファイターであるアロガンが、ニヤリとした。


「ツグは、オレ様みたいに力があるわけじゃないし、テチのように防御力があるわけでもない」


 アロガンは肩をすくめて俺を見た。


「まあ、仕方ねぇよ。誰もがオレ様のようなパワーに恵まれているわけじゃねえ。ツグは、まあ普通だよ、普通」

「いいか、ツグ。アロガンの言う普通と言うのは、そこらの数あわせの農民兵と変わらんという意味だ」


 テチの言葉は、俺の心をえぐった。

 アヴィドが口を尖らせた。


「ほら、パーティーの共有資産を置いて、とっとと出てけ。お前がいると、うちの品格が落ちるんだよ」

「説明してくれないか?」


 俺はきちんとした説明を求めた。大きなヘマをしたおぼえはないし、むしろこのガニアンがうまく仕事ができるように、補充やらメンテもしてきた。


 確かにアロガンの言うとおり、俺は地味だったかもしれない。だがそれで追い出されるのは、正直納得できない。


「わからない? ……かーっ、説明するにも面倒くせぇ。リーダーのおれがクビだと言ったらクビなんだよ!」


 脳筋なアロガンやテチ、傲慢リーダーのアヴィド、わがままなイリスィ。そして先ほどから黙っているが、人を見下したような態度をとるヒーラーのトリス。

 

 パーティーの誰ひとり、味方はいなかった。むしろ追放したくて、とことん冷淡になっているようにも見えた。


 こいつらと組んだ頃は関係も悪くなかったのに、いつからこんなになっちまったんだろう。


 理不尽。ここに極まれり。とても惨めだった。自然と握っていた拳。ここまで虚しさをおぼえたのは初めてだ。


 評価もされず、ご苦労さんの言葉すらない、クソ野郎ども。



 俺はきびすを返すと、もう連中を見なかった。怒りと悔しさがない交ぜになり、脳が煮えるほどの熱を感じた。


 だが、ひとたび離れていくと、寂しさというか、落胆もまた大きくなってきた。


 これからどうしようか……。


 追放された以上、もはや、パーティーのホームにも帰れない。支度の間もなく追い出されたから、装備もあまりない。


 とか、考えていたら、路地に入り込んでいて、そこでいきなり脇腹を刺された。


 物盗りだった。ベルトに下げていたショートソードと、わずかながらの金が入った袋を持っていかれて、今に至る……。



 ・ ・ ・



 俺は路地裏で死にかけている。どんより曇った空を見上げて、地面に寝転がっているのだ。


 くそ、ここで終わりかよ……。


 人生26年。貧乏で、冒険者をやって、所属したパーティーを上級にまで引き上げるために尽力したが、最期は蔑まれて死ぬ。何の意味があったんだよ、こんなの……。


 体は冷えていくのに目もとが熱い。涙がたまってくる。


 くそっ、くそがよ……!


 ふと、目の前に光が見えた。


「……いよいよお迎えがきたってか?」


 光の玉ってことは行くのは天国か? などと思っていたら、男の声がした。


『お前、俺が見えるのか?』

「ん? 何だって……?」


 頭の中がぼんやりとしてきた。これはいよいよ終わりか。


『ふむ、お前は俺が見えたというわけか。ひょっとしたら入れるかもしれんな。駄目でもともとだ、やってみる』


 すっと光の玉が、俺の胸あたりに近づいてきた。


『うまくいったらお慰み。……乗っ取ってしまっても恨まないでくれよ』


 その瞬間、光の玉が俺の体に入り込み。そして俺の意識は途絶えた。



 ・ ・ ・



 目が覚める。デジャヴだ。


 俺は体を起こす。はて、ここで何をしていたか。少し考えて思い出す。


 冒険者パーティー『ガニアン』を追い出され、物盗りに刺されて死にかけたところで、光の玉が入ってきて――


「俺は……生きて?」


 乗っ取ってしまっても……なんて言葉を聞いたような気がしたが、あれは何だったか。とくに何かに取り憑かれたということもなさそうだが……。


「あ、怪我がない!?」


 脇腹を刺されていたはず! だが服に穴が開いていて、血の跡はあるが傷はなくなっていた。


「俺はツグ。Eランクの冒険者。26歳」


 呟いてみて、ふと光の玉が入った胸のあたりを探る。……ん? 胸ポケットの中に何か入ってる。


「……本?」


 小さな本――いや手帳だ。……テチョウ? なんだ手帳って?


 わからない単語だったが、何故かすぐにそれが何なのかわかった。初めて見るはずなのにそれがわかる。


 備え付けの鉛筆がついていた。これも初めてなのに、何故か書くものだとわかる。俺はそれを取ると、手帳をペラペラとめくった。


「異世界転生したら……?」


 そこに書かれていた文字は、これまで見たことがなかったのに読むことができた。わけがわからないが、わかるのだ。


「ステータス……? トガツグ?」


 名前だろうか。おいおい、俺の名前はツグだぜ。誰だよ、トガツグって。


 俺は鉛筆で名前を修正した。そしてそのページを眺める。


 そこには力とか素早さとか魔力とか、色々書かれているが、そこにMAXとそれぞれ書かれていた。


 うん、何となく理解した。これは俺のステータスだ。ラノベを書くためのキャラ作りで書いた……?


「んん? ラノベ? 何だ、ラノベって?」


 おかしい。俺、なんかおかしい。知らないことや知識が、当然のようにあって、混乱してしまう。


「……!」


 その時、背後に気配を感じた。振り向けば、そこに少女がひとり立っていた。


 不思議な髪色だった。水色のショートカット。ぼろい簡素な服をまとった、見るからに小汚い子供。12、3歳くらいか。路地裏の孤児のように見えて、しかし、その整った顔立ちに、綺麗なアクアマリンの瞳は美しかった。


「……まるで天使か女神だ」


 俺は思わず呟いてしまった。その彼女は、小さく首をかしげる。


「ここで何をしているの……? おじさん?」


 か細い声で、少女は問うた。

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