看護師の本音とお見合い

@path33

短編

「看護師は白衣の天使」

キャッチコピー廃止運動があったら、

みずきは是非参加する。


みなさん、知っています?

看護師は職業です。

慈善活動では、ありません。

お金を頂いているから、やっているんです。

仕事中の献身的な態度、笑顔の半分は営業スマイルです。


いやいや、本当に白衣の天使のような人もいるよね。

ごめんなさい。

これは、みずきの意見です。


  ******

 看護師をやっているとプライベートでも病気や健康相談をされる。

親族、友人は許そう。

だが、全く連絡とってない人からの突然の相談はうんざりする。

特に困るやつ。

「親が病気なんだけど、どこの病院が良いかな?」

「知らんわ!」

と、みずきは言いたくなる。

言わないけどね。


横の繋がりがあるから、多少は病院の情報は知ることが出来る立場だと思う。

だけど、その情報収集も医師達に聞いてまわったりして、楽じゃないんだよ?

それに、医師が言ってたとはいえ、その医師の友人は良くても、ひどい病院はある。

もしそんな病院を勧めたら、みずきのせいになるんだよね?

実際に本当に良い病院かは、自分が行かなきゃ、分からない。自分が通院するか、働くしかない。

それくらいの覚悟をしないと軽はずみに答えられないんだよ?

人に優しく生きるべき、とは思うけど、ごめんね、そこまで責任を負うことは出来ないの。

親友に話すと、相手もそんな本気に考えてないんだから、軽く答えなさい!と。

ごもっとも。

でもさ、みずきは知らなくてもその人にとって大事な人のことなんでしょう?


  ******

 それから、初対面の人に仕事のことを聞かれたくない。お世辞だろうけど、

「大変なお仕事してるんですね。素晴らしいですね。」

そんな言葉をみずきは素直に受け取れない。

みずきも大人だ、スルー機能を身につけなくては、と考えた結果、

「どんな仕事も大変です。看護師はそう言ってもらえる分、得してるかもしれませんね。ふふ。」

と笑って返すことにしている。


そんな愚痴をこぼすと、

「看護師ってだけで、男ウケが良くて、良いじゃん。彼氏の両親とかにも、喜ばれるでしょ。」

と言われる。

それって、将来介護してもらえるってことだよね?

いやいや、プライベートで、しかも無給で無休とか、ありえないから!

そいういうことを言う人とは、友達にならないだろうから、みずきは頭の中で反論するが、

「そうかもねー。ハハ。」

と笑って返すことにしている。


******

 友人の真由美から連絡がきた。

「申し訳ないんだけど、お見合い変わってもらえない?紹介相手はみずきも知ってる、小林さんなんだけど、行けなくなっちゃって。小林さんに話をしたら、向こうはもう準備してるから、キャンセルできない。せめて誰か代役を呼べないかって…」

真由美は結婚願望が強く、今年に入ってから、結婚相談所に入会し、いろいろな人に頼み、積極的に婚活をしていた。

友人の紹介で良い人が見つかったのは良かったが、付き合い始めようとしているタイミングでのお見合い。

その紹介してくれた友人に、キャンセルできないから、顔だけ出しても良いか、と相談したら、そんな人に彼を紹介したくない、と怒られたそうだ。


気が進まないなぁ。

今は結婚願望どころか、恋愛すら面倒だ。

自分の趣味で、好き勝手暮らしている方が楽しい。

しかも小林さんの紹介。

小林さんには、真由美繋がりで、2、3回旅行に連れて行ってもらった。

良いおじさんだが、押しが強い。

断って良いと言っているが、断りにくいだろうなぁ。

でもせっかくの真由美の幸せのためだ。

彼女の努力を見てきたから、幸せになってもらいたい。

1、2時間、小林さんの顔を潰さないように、静かに座っておけば良いだけ。

私の両親を連れて来い、とまでの大袈裟な話ではない。

しょうがない、行くか。


******

 お見合い当日。お見合いの前に、お礼がしたいと真由美からランチに誘われた。

真由美は、ひとしきり今の彼について惚気てから、今日のお見合い相手、と封筒を差し出した。


ん?なんで封筒?

開いてみると、履歴書が入っていた。

あれ?まだ何か入ってるな。封筒を逆さにすると履歴書の写真が出てきた。

ツッコミどころが満載だ!


なぜ履歴書?

お見合い初体験の私。これが常識なの?


なぜ写真が別に落ちてきた?

ただ剥がれただけかな?

履歴書の写真の裏には名前を書くのが常識。

裏をみると何も書いてない。

いやいや、会社の面接じゃないんだから!


とりあえず、履歴書を拝見。

まぁ、ご立派な職歴。

是非うちに!

あ、違うか。

わたくしには勿体ないお方ですわ。

うん、ちょっとおかしいけど、こっちだな。


頭の中で1人ノリツッコミをしながら、

いい加減現実に戻らなくては、と真由美に尋ねる。

「最近のお見合いは履歴書なの?私も今から書いた方が良いのかな?」

真由美は、複雑な表情をしている。

「みずきの履歴書はいらないと思う。でもみずきもずっと彼氏いないし、私は悪くないと思うよ?」

真面目に返された…

あれ?突っ込んでくれると思ったのに。なんか急に距離を感じた。

やっぱり彼氏ができると、友人関係は変わるよなー。


履歴書写真を眺める。

これが、ありか。真由美のストライクゾーンは広すぎないか?

失礼なことを考えながら、写真と睨めっこ。

勝てるわけがない。


  ******

 お見合いの前に小林さんに、もし気に入ったら、食事の後に2人でコーヒーでも飲みに行って。ちゃんと送ってもらうようにお願いするから。気に入らなければ、食事が終わったら、自分と一緒に帰るようにしてと、言われた。

そして、着いた場所は、高級料亭。

マジか!?真由美の嘘つき!

なにが軽いお見合いだ。

これ、かなり本気のやつじゃん。

断る前提で来ているのに、奢りとか気まずいぞ…

でも、払うというにも、値段が恐ろしいぞ…

念のためワンピースを着てきたが、これで良いのか。もっと高級な服を着てくるべきだった?

それとも着物を着てくるべきだった?ムリムリ、持っていない。


お相手の方はもう先に来ていた。

緊張なのか、みずきと同様やる気がないのか、

表情は固い。

紹介者同士が、お互いの自己紹介を始め、それでは、お2人でお話をどうぞ。

と、言われた。

やっぱりお見合いじゃん。

この風景テレビで見たことある!

騙されたー。


まぁ、いっか。こんな経験することは、今後ないだろうし、

料理も豪華だ。

楽しまなきゃ、損だ。

そう思いながらも、みずきは嘘の微笑みを顔に貼り付け、

ここは、出しゃばらず、お相手の方が話すのが待つのが正解だよね?

足を組みたいが、我慢我慢。

そして、姿勢を良くするのは、腹筋、背筋が鍛えられる!

そう言い聞かせて

出来るだけ上品に見えるよう振る舞い、でもしっかり料理は食べる。


お相手の紹介者の方が

「ほら、昌樹。」

とせっつく。昌樹さんは渋々と

「仕事は何をされてるんですか?」

と聞かれた。

はい、これ、いつものパターン。

「病院で看護師をしています。昌樹さんはご立派な会社にお勤めで、すごいですね。」

「たいしたことありません。では、休日は何を?」

ふむふむ、お見合いっぽい。

あれ?看護師スルーされた。

普通病棟とか聞かない?

いつもと逆に相手の仕事を褒めてる。

あれ?なんか悔しい。

あぁ、私、看護師の仕事に誇りを持ってるんだ。

だから、スルーされたことが悔しいんだ。

褒められてもスルーされても腹立つ私、厄介な性格だなー。みずきは心の中で笑う。


うん、これは相手も乗り気じゃないとみた。

よし、お互い乗り切ろうじゃないか!

みずきは気が楽になった。


その後はお互い、なかなかマニアックな映画を見ていることが分かり、そこそこ盛り上がったりもしたが、

みずきの顔に貼り付いた微笑みは、剥がれることはなく、昌樹さんの表情も変わることはなかった。

だが、紹介者同士は、うまくいってる、とニヤニヤしている。

みずきは終わった後が、お互い大変ですよ、と仲間意識を勝手に感じて、心の中で呟く。


すると廊下から、ガタンと物音が響く。

昌樹さんの紹介者の方が、襖を開く。

そこには、ご夫婦が気まずそうに立っていた。


誰だろう?

みずきはふと昌樹さんをみると、顔が赤い。

「父と母です。」

恥ずかしそうに昌樹さんは言う。

昌樹さんのご両親は

「ごめんなさい、気になってしまって。お邪魔しました。」

と言い、部屋からそそくさと立ち去る。

昌樹さんの紹介者の方は、あたふたしながら、

「いやぁ、昌樹は愛されていてね。」

など、言い訳をする。小林さんも

「良い両親で、昌樹くんは幸せだね。」

と、取り繕うように言う。


みずきは笑ってしまった。

昌樹さんも恥ずかしそうに笑う。

初めて変わった表情。


さて、これからコーヒーを飲みに行くのかな?

昌樹さんは誘ってくれるのかな?

看護師スルーをした彼と本音で話してみたい。

みずきはなんて答えよう。


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