呪具師のノアは友達100人作りたい

佐野 瑛祐

第1話 呪具師のノアです。どうぞよろしく。

ヴィンセント・ヴァン・ノア・ハイヌダルは呪具師である。


その事実を肯定するかのような見た目、白い髪、青い肌、痩けた頬、光の灯らない目。


森の奥深く、ひっそりと建つ木造一軒家に住み、薬草を摘んだり、罠を仕掛け獣を仕留めたり、と自給自足の生活。何一つとして不自由などないはず…だった。


しかし長年の孤独を過ごし、彼は思った。


……さびしっ。


彼の生まれ、ヴィンセント家は代々呪具を扱う家系だ。


そのために関わったら呪われる、ヴィンセント家の者を5秒見つめれば不幸になる、屋敷の前を通れば死に魅いられる…etc。根も葉もない噂が飛び交い、ヴィンセント家は長きに渡る迫害を受けた家系でもあった。


理不尽な迫害に嫌気がさした彼はわずか10の齢でヴィンセント家と縁を切った。


縁を切り、家を出ることで迫害は終わると考えた。友ができ、いずれ彼女ができ、幸せな人並みの人生を手にすることができると…だが現実は非常である。


ヴィンセント家の見た目を持つ彼はこの国の何処へ行こうといわれなき迫害を受けた。


そんな彼が辿り着いたのが森深くの古く放置されたであろう一軒家、迫害に心を閉ざした彼が見つけた安住の地。


ここで死ぬまで1人で暮らそう、そう決めたはずだった。


しかし彼とて人である。元来群れる性質の人間だ。


孤独に耐えられなかった。寂しかった。


15年の後、彼は思い立つ。


この国に居場所はないなら居場所がある場所を探そう。


そう思い立ったのは寂しさからであるのも事実だが、最も彼に影響を与えたのは一軒家に残された1冊の本だ、正確には本の中に在ったもの。


丁寧に折り畳まれ挟み込んであった精密な世界地図。この家の先人が残したものだろう。


そして地図には癖のある文字で走り書きが記されている。何かの詩の一節だろうか。


「生きよ、生きる道を探すのだ。望め、望めば道は答える。人は誰しも偉大なる者よ、意味を持ちこの世界に生まれ落ちるのだ。


世界は雄大である、迷うだろう、暮れるだろう、だからこそ道を探すのだ、望むのだ。辿り着くべき場所は必ず存在する」


彼の痩けた頬に涙が伝う。


必要とされている気がした、暗いと思った人生の先に光が見えた気がした。


そして世界が広いことを知った。


充分だった、辛い過去など心の荒れ模様など忘れてしまうには。


ヴィンセント・ヴァン・ノア・ハイヌダル。呪具師、現在25歳、旅に出る。


「まずは隣国目指すか」

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