最終章 6.私は窮地で、アイツを助ける。

「ギリギリ間に合ったか……。しかし立石、私をかばうだなんて100年早いぞ! ジム通いのアイドルを舐めるなよっ!」

最上さいじょうさん!」


 茫然ぼうぜんとしている立石の妹『腐女子のJK』の無事を確認すると、驚きを隠しきれない立石の顔を見つめた。男二人にがっしりと腕を捕まえられている。その表情は相変わらず拍子抜けな顔をしているがそんな姿を見るとなぜか心底ほっとした。そんなに気弱そうなのに、私を庇うなんていっちょ前にかっこいいことしてくれるじゃないか。

 

「あれ、最上まこじゃね?」

「今男にすっごい勢いで体当たりしなかった?」

「なんかケンカでもしてんの?」 


 やばい、さすがにハデに暴れすぎた。被っていたキャップもさっきのハイパー体当たりで脱げ落ちてしまった。街ゆく人々が騒ぎ始め、私に気付き始めたみたいだ。


「おい、立石をはやく離せ!」


 仁王立ちして腰に手を当て、立石の腕を掴んでいる男二人に睨みながら言ったのはいいが、全速力で走ってきたせいか心臓がかなりドクドクしている。息も切れ切れだ。


「ご本人登場かよ。またスキャンダルを食らいたいみたいだな……」

「おまえ、ふざけんなよっ!」


 すると私のハイパー体当たりで転がっていた変態男田中がよろよろと立ち上がりながら言い、もう一人の男もキツくこちらへにらみを利かせながら地面からのっそりと立ち上がった。


「ふざけてもいないし、スキャンダルも上等だ! 何度でも食らってやる……! お前らの悪事を暴いた後にな!」


 その男達に真っ直ぐ腕を伸ばして人差し指を突き刺し、力強く宣言してやった。

 だが、周囲に人だかりが出来始め、スマホで撮影をしている者もちらほら現れ始めた。


「おい、お前達何をしている!」

 

 人込みをかき分けながら太い声を出す数人の男性がこちらへやってきているようだ。


「ちっ、警察か?」

 

 遠くから聞こえた声に男達は焦り出し、立石の腕を乱暴に持ち上げた。


「おい行くぞ! こいつまだ録音機材持ってんじゃねーか? 連れてくぞ」

「ああ」


 男4人は立石の腕を握ったまま歌舞伎町方面へ駆け出した。


「おい、待てって! 立石っ!!」


 私は慌てて立石達を追いかける。


「お兄ちゃん!」

 

 後方からは立石の妹『腐女子のJK』が泣きそうな顔で追いかけてきた。すると今まで見たことのないような青い顔をした立石が口を開いた。


「もう……、もう二人ともいいから! ぼく、僕が悪いんだ……! 秘密を重ね過ぎたから……!!」

「秘密……?」


 男に腕を乱暴に捕まれている立石が後ろを振り向きながらどうにか慌てふためきつつ、そう叫んだ。そんな中、どんどんと立石が歌舞伎町の人込みの中へ連れ込まれ、次第に距離が遠く離れていく。


「くそっ、足が……」

 

 さっき全速力で走ったせいか全く足が言う事を聞かない。もう立石の顔がほんの少ししか見えない距離にまで離されている。


「まこさんっ……! 僕がっ、僕が……!! ふじょっ……」


 立石は何かを言いかけたまま、ギラギラとネオンが輝く歌舞伎町の人込みの中へ完全に消えてしまった。

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