第5話神聖力2
「もしもし!どういうことですか?」
奴隷商の事務室に怒鳴り込んだら、ちっさいおっさんはお札を数えてた。
「何だ……………ああ、お客さん。どうしました?」
悪役っぽい素から営業用スマイルに早変わりして金庫にササッと売上をしまう奴隷商人。
「あの奴隷のことですけど、用途説明になかったぽいですよね?」
「へえ、まだ生きてるんですかい。てっきりもう死んでるかと思ってました」
死ぬの分かって売るとか、がめついだけじゃん!
「死んでません!で、彼なんですけど、ええと使い道が、そのなんであれ…………」
「は?なんです?」
ちょび髭を整えつつ、面倒そうに聞き返すおっさんに汗出てきた。
「せ、性奴隷とか知らなかったんですけど」
「首輪に書いてましたよね。はっきりと」
「読めないんです」
「困りますよ、お客さん。どうせ死ぬって分かって買ったのはあんたでしょ?用途などうとか今さらどうでもいいでしょ。返品は受け付けませんからね」
あれ、私何をしたくて来たんだっけ。冷静な返しに、沸いた頭が冷えてきた。
「なんであれ限定用途なんですか?」
「足痛めてたでしょ。労働力にはならないし、まあ造りは悪くないからってことで」
「あー、そっか」
確かに乱れた姿は色っぽか…………ちがう違うそうじゃない。
「死ななかったんでしょ、それ。だったらいいじゃないですか。半額で買ってお得だったでしょ。毎度あり」
死ぬと思ってたんでしょ。大概だわ。
話は済んだと帳簿に目を通すおっさんに、モヤモヤした気分を抱えながらも出口に引き返そうと思ったら、乾いた笑いを溢していた彼が浮かんだ。
「鍵、本当に無いんですか?」
「何です?」
「あの人の首輪の鍵です。本当に無いんですか?予備の鍵とか、マスターキーみたいなのは?」
今度こそ面倒そうな態度を隠しもせず、奴隷商人は椅子にふんぞり返った。
「だから、そんなのありません。何だっていうんだ」
腰に着けたポシェットに手を入れて、私は帳簿の上に金貨をポンッと二枚乗せた。一度やってみたかったんだよね。
「ほお」
「外す方法ぐらい知ってますよね?彼のあとの半額分と、残りのお金でここにいる奴隷さんにご飯ちゃんとあげて下さい」
気休めだ、分かってる。
自宅の玄関を開ければシンッと静まり返っていた。一人暮らしの小さな家だ。キッチンと居間、水回りと物置、あとは寝室として使う部屋が一つ。
そうっと部屋を覗いた。
「………………逃げなかったんだ」
「まだ体力が無い」
奴隷さんは眠っていたようで、気だるげに伸びをした。確かにあんなに悶えてたらそりゃあ…………ダメだ、彼の行動一つ一つがエロく映る。性奴隷なんて知ったものだから。
自分の膝に頬杖ついて私を横目に見るとかあかん!
「で?俺をどうするつもりだ?」
「はああ…………え?」
「その様子では、俺を返品できなかったんだろう」
また小馬鹿にしたように嗤い、いきなり私の腕を引いた。
「わっ?」
「……………試してみるか?」
彼の胸に顔をぶつけるように倒れたら、肩を掴まれた。
「最高に屈辱的な一年間。敵国の奴等の性奴隷にされるなんて真っ平ごめんだったからな、無駄に足掻いて死ぬ方がマシだと悟ったつもりだったんだが、まだ続くとはな」
肩まである私の焦げ茶の髪に彼の指が触れて驚いて見上げたら、耳に横髪を掻き上げられるようにする。
「ど、どうしたんですか」
「俺を助・け・た・礼ぐらいはしなきゃな、ご主人様?」
顎を掴まれて、赤い瞳とかち合う。品定めをするように見下ろされる。
「マナと言ったか?幸い見目も悪くはないしな」
微妙に失礼なことを言われたが、フリーズした私は声も出せない。
可笑しそうに目を細めた男の唇が私のそれに重なる。
「ん…………」
ひやりとした感触。
目を開けたままそれを受けてふと気付いた。
この人は私ではなく、自分をずっと嗤っているんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます