第3話:バイクのひとり旅なんて、変わり者
11月2日 雨 450km
→Nambucca Head→Coffs Harbour→Grafton→Ballina→Lennox Head→Byron Bay(YH)
風を切る爽快さ、それがバイクの醍醐味だ。なんていうと、バイクに乗らないものは『なるほどね』と思うかもしれないが、正確にはそれはウソだ。バイク乗りの俺が保証してもいい。想像では、ツーリングと言えば、快適・爽快なイメージが強い。でも実際はというと、つらいことの方が多いかもしれない。ただ道を走るだけ、景色なんてそうそう変わらないからすぐに退屈してしまう。だから、丸一日走っていると、意識が飛ぶ空白の時間なんてのもある。それに日に数百キロも走ると必ず雨にも遭遇する。レインコートを着たり脱いだり、着ていての中の服は汗でびしょびしょ状態。当然といえば当然かもしれないが、よく言えば自然を満喫、実は自然を身を持って痛感する一日。せめて雨を当たらないために屋根のある車で旅したほうがよっぽどましに思えたりもする。でもだ、そんな苦痛のバイクツーリングの一日にもほんの一瞬風を切る爽快さを感じたりもする。例えば、雨に打たれ湿っていた服が風を浴びて、袖がパタパタなびき乾こうとするその瞬間。またほとんど何も感じず考えずバイクに乗っている時に、日ごろは取るに足らない風景に唐突喜びを感じたり。そうか、俺を含めバイク乗りは、ただの変わり者かもしれない。だから、釣り吉と同じく、ライダーが語るツーリングうんたらかんたらは、話し半分で調度いい。もっともこんなバカげたことを話す俺は、その両方に属する類の人間だ。
コフスハーバー近くのハイウェイ(国道)を走っていると、絶対に見逃したくでも見逃せない巨大オブジェを目の当たりする。ひとはそれを『ビックバナナ』と呼ぶ。なんじゃそりゃと言いたくなるが、まさにその名のとおり、道の脇に、馬鹿げるほど大きい一本のバナナの像が立っていて、バナナ園のシンボルタワーなのだ。あまりのストレートな象徴に、その作者とそれを採用した経営者に敬意を示すべく、立ち寄ることにした。予想に違わず、そこには面白いアトラクションなんてのは全くなく、天下の風来坊の俺には当て付けだった。これも何かの縁、売店で、バナナ10本(最少ロット)買うことにした。暇すぎて世間話している売店さんたちに、芝居じみた言い方で、ひと言声をかけてやった。「すみません。バナナこんなに買っちゃったんですけど、この園のどこかにチンパンジでもいますかねえ。」。この冷めたユーモアに、空気が一瞬凍りつき、みんな笑いを誘った。ヨシッきた、技あり有効。それを聞いたひとりの店員さんが、俺を呼び寄せ、バナナを一本(与えて)くれた。これこそユーモアのセンスにイッポン、参りました。その粋な計らいには嫌味ったらしいところは全くなく、俺も喜んでしばしいっしょに笑ってしまった。追伸、その夜の夕飯は決まった、バナナ11本。
バイロンベイはオーストラリア大陸の最も東にある町で、そこにある灯台はおのずと大陸最東端ということになる。記念碑(ケープ・バイロン)の前で写真でも撮りたくなるのが、人の情というものだ。でも行ってみると、そこにはただのどこにでもある灯台があるだけだった。人かげも寂しく、何の記念にか写真を撮ろうする輩は日本人の俺だけで、日本の常識・世界の非常識をこんなところに感じてしまう。それでも典型的日本人代表として、一枚撮ったのは言うまでもない。
バイクを止めて、シートに腰掛けたままで、岬から変哲もない太平洋を見い見い、ひとり佇んでいると、そこが少し坂だったのか、またがっていたバイクがすべりふっと傾いた。そうなると、止まったまま傾いたバイクなんてただの鉄の塊にすぎず、重さに耐え切れずバイクを倒してしまった。幸い、自分はバイクの下敷きにならずに済んだが、半端じゃない量の荷物と横綱級のバイクは、俺のクソ力を持って起こそうとしてもビクともしない。仕方なく、所帯道具一式を道端で一度ほどくことにした。誰もいない露天商のようだ。もっとも誰かいれば、バイクを起こすのを手伝ってもらうところだが。方向指示器も割れてしまっている。どこかのバイク屋で新品にとっかえようとも思ったが、またいつ転ぶか分からないので、その破片を拾い集めボンドくっつけてた。足らない破片の所はテープでその穴を埋め、なんとか補修した。これがケープバイロンでの惜しくも一番の思い出になった。
この先にいけば、ゴールドコーストという、オーストラリア一番のリゾート地が待っている。ゴールドコースト手前の町々でも、かなりマリンスポーツを始め、かなりアクティビティの匂いがきつくなってくる。なら、ゴールドコーストなんて名前からして、さぞやモノすごいことになっているのだろう。
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