word54 「もしも 宇宙戦争起こっていたら」④

 ヘリコプターくらいの大きさでホバリングする円盤状の機械。その上には十数個の触手のようなものが生えていた。形で言えばイソギンチャク、1つ1つの触手の先は銃口のようになっている。


「2023/2/23 14:34 攻撃開始」


 次の瞬間、何の前触れもなく攻撃は始まった。


 宣戦布告もなく、人々が驚く隙も無い。銃口っぽい見た目通り触手の先から弾が放たれる。見えないほどの速度だった。


 全ての触手から一斉にという訳ではなく、必要な分だけの触手が屋内の人間を狙いすますように動くと、1発づつだけで人間の頭を貫いた。


 その様子も見やすいように様々な視点から流された。屋内の映像では労働中の男や女が次々に床に倒れた。


 歩いていたら突然――窓の外の機械と目が合った瞬間――とにかくあっけなく逝くものだから、あまり殺されたという感じはしなかった。


 その効率が良い殺戮は次々に……各地で行われた。謎の機械は1つではなく、中型以上のビルと同じくらいの数がいた。最上階の人間を撃ち終わると、その下の階――隣のビルやマンション――地上と、タコよりも滑らかな触手を使って移動しながら、逃げ惑い始めた人間を狙う。


「同刻 ニューヨーク」


「同刻 上海」


 さらに世界各国の都市でも同様のことが起こっていることが映像で説明された。謎の機械が通った後に倒れる大量の死体が、ダイジェストで流れる――。


 僕は今のところの映像ではあまり心を痛めていなかった。現実で起こる可能性があった出来事だけれど、現実ではない。それこそ映画を見るような気持ちで見れていたからだ。


 むしろこれが起こらなくて良かったなという、他人事のような安堵が強かった。


 しかし、次に始まった映像で話は変わる。頭を撃たれ、そこから血を流しながら倒れているスーツ姿の男がフォーカスされたと思えば、なんとその男が何事も無かったかのように立ち上がった。


 急所を貫かれて一瞬で死んでしまったという風に見えていた。にもかかわらず、立ち上がればすぐに歩き出す。これは一体どういうことか、画面を見ながら考えれば男の虚ろな目に気持ち悪さを感じる。


「先ほど撃ち込まれたのは生物の脳を解析し、その働きを制御するチップです。これがこの男性のように正常に作動してしまうと、人は人格や記憶を残したまま侵略してきた宇宙人の操り人形になります。命令には無言で従い、命令せずとも主人の為に身を捧げる、そんな人間を作り上げる人工の寄生虫のようなものです。」


 考え事の答えはすぐにテロップで画面に表示された。一瞬だけゾンビ化させる生物兵器のようなものかと思ったが、それ以上に高級でエグいものだった。


 頭を撃たれた人間たちは次々に立ち上がった。そして、その起き上がるタイミングに差異はあれど、皆同じ方向に向かって歩き出す。


「最初に下されている命令は、半径約41km以内で最も広く開けた場所へ集まれというものです。宇宙人は地球の資源を効率よく回収する目的や戦争に使う捨て駒として地球人の労働力を欲していますが、人間達を1度同じ場所に集めて、そこでさらに選別を行います――。」


 しばらくの間、人間が集団でぞろぞろと移動していく様子が続いた。車の事故や割れた窓ガラスなどで多少荒れた都市を、無表情で歩くそれらは、さらに殺され続ける人間を見ることも無かった。


 信号も無視で、運良く生き残った子供が泣く声も無視。制服を着た若者もいれば、パジャマ姿の老人もいた――。


「2023/2/23 16:25 宇宙船着陸」 


 ある多目的スタジアムには、グラウンドから観客席まで埋め尽くすほどの人間が集まっていた。スタジアムの外まで長蛇の列が続いている。


 そこへ降りてきた宇宙船はよく見たことがあるような形をしていて、見たことが無い大きさをしていた。


 こうして画面越しに見ていると、CGにしか見えない。遠近感がバグる。宇宙広しと言えど、こんなものが存在するなんて信じられない、山なんてレベルではなかった。


 そんな中また1人の男へカメラが寄っていく。スタジアムの真ん中にいたその男は密集する集団の中で唯一、空を見上げていた。表情が見えるところまでズームインすると、目が曇っていないことも分かる。


 僕が映画みたいなものを求めていたからだろうか、そこからはその男が主人公の映画のように映像が進んだ。

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