word53 「告白したら付き合ってくれる人 人数」④

 あった――。これだ――。


 黒いパソコンみたいに隠さなくてよくて、雑に扱ってきたノート。ジュースでできた染みがある裏表紙をめくる。すると、そこに懐かしい光景が広がった。


 思いついた傍から走り書きされたワード達。汚い文字を見ただけで、どんな結果が表示されて、どんなことが起こったか思い出される。そんなワードもあれば、書いたままでその検索を行っていないワードもあった。


 それらを見ていると、ベッドの中にいた時よりもインスピレーションが湧いてきた。ああでもないこうでもないと遮断されていた思考回路が広く長く、伸びていく。このノートがあればきっと良質な今日の検索に辿り着ける。


 そう思ったから、僕は上から1つずつ書かれたワードを見ていった。


『「神様 存在」「魔法 使う方法」「一番胸がでかい 同級生」「僕 寿命」「競馬 勝つ馬」「参考書 おすすめ」「映画 ネタバレ」「担任の先生 秘密」…………』


 頭の中で声に出して読みながら、引っかかるものがあればその都度止まって、無ければ次に。続けていくと、ページの一番下に僕の視線を完全に止める……1つのワードが見つかる。


「告白したら付き合ってくれる人 人数」


 いつだったか……。以前も検索したことがあるワードだった。確か現在自分がどれくらいモテているかを確認して、自分磨きのモチベにする為に。そして、数か月後にもう1度検索してみようとも決めていたワード。


 隣には「いつかまた検索」と一言メモも書いてある。


 見た瞬間にこれだと僕は思った。骨董品屋で掘り出し物を見つけた時のような気分、そんなものは経験したことが無いけど何か感じるものがあった。


 しかし、僕は動かなかった。不動のまま、ノートの文字を見つめ続ける。


 見つけたワードは物凄く検索したい。今すぐに検索したい。


 だけど、これを検索してしまっては、最近の悩みごとの解決から逃げられなくなってしまうような気がする……。

 

 いや、そうに違いない……。


 その検索結果が良いにしろ悪いにしろ僕は追いつめられる。もし結果が良いものであれば、自信を持って早く行動に移したほうがいいと焦ることになるし、結果が悪いものであれば、僕なんかじゃ駄目だと目標から遠ざかってしまう。そう思う。


 うん、だめだ。今は恋にちょっとでも関係する検索はダメだ……。僕は「告白したら付き合ってくれる人 人数」というワードも飛ばして、次に進んだ。


 ノートを持ったまま布団に戻った。先ほどよりも体を丸めて、ページをめくった。今日検索するワードを探すというよりも、逃げ方を探す作業になった。


 まるで、どうしてもやる気が出ない日に仮病を使って休む方法を考えているときみたいだった。するべきことをやったほうがいいことは分かっている、今逃げてもいつかは向き合わなければいけないことも。だけど何かないか、まだこうして布団にくるまっていれる方法がないか考えてしまう。


 ただただ無駄な時間が流れた。当然代わりになるワードなんて見つからず、僕はノートも閉じてスマホの横において、結局同じ形に戻ってしまっていた。


 天井の模様を数える僕の中では、好奇心と恐怖心がせめぎ合っていた。しかし、その勝敗がどうなるかを僕は分かっていた。思いついてしまった以上、もう引き返せない。あとはもう時間の問題だ。


 そう、遅かれ早かれなのだ――。


 僕はおもむろに立ち上がると、黒いパソコンを取り出した。決心がついたというよりは、観念した。容赦ない自分に身を委ねて、無心でワードも入力する。


「告白したら付き合ってくれる人 人数」


 そしてあろうことか、Enterキーもそのままのノリで叩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る