word53 「告白したら付き合ってくれる人 人数」③

 僕はベッドの上に寝転んだ。黒いパソコンを取り出す前にまずは、何を検索するか考えながらネットサーフィンといこうではないか。今日は金曜日で時間に余裕もあるし、スマホを使ってじっくりと……。


 一瞬、だからこそ折原と会えない時間も長いことが頭を過ったけれど、僕はわざとらしく首を横に振った。


 まずは今日1日の間で世間に何があったかを見ていこう。僕はSNSや検索エンジンにあるトップニュースで、そういった情報を収集した。驚きのニュースがあれば詳細を黒いパソコンで調べてもいいし、有名人の熱愛報道があれば真偽を調べてもいい。


 指を動かすだけで様々な情報が僕の手の平に流れた。その流れをじっと見つめていると、驚くほど速く時間が進む。そのうち当初の目的を忘れ、ネットの中であっちへ行ったりこっちへ行ったり。僕はそうしてネットの波に呑まれた。


 流され流され……結局辿り着いたのは、スマホのアプリ欄の1番上にある僕が昔からやっているソシャゲだった。最近はログインしない日も増えてきたけれど、そういえば後輩が何か話していたし、起動だけでもしてみることにしたのだ。


 見慣れた起動画面を連続でタップすると、重い更新データのダウンロードが始まる。


 うーん、特にこれといった検索候補は見つからなかったので、またこのゲームでガチャから強いキャラを引く為に検索を使おうか。しばらくちゃんとプレイしていなかったし、強いキャラを引いて開催されているイベントを消化していけば良い暇つぶしになるかもしれない。


 と、ゲーム画面を見ながらその様子を想像してみる……。けれど、やはりやる気は起きない。僕はこのゲームに飽きていた。理由は皮肉にもこのゲームに黒いパソコンの検索を使ったからだった。


 欲しいキャラが欲しい時に手に入って、難しいステージの攻略法もすぐに分かるようになったソシャゲは、僕に飽きをもたらした。初めのうちは無双を楽しめたけれど、未所持のキャラやクリアしていないステージが減っていくにつれ飽きて、この前最高難度のステージをクリアした瞬間に糸が切れた。


 だからまた多少増えたコンテンツを黒いパソコンで消化しても同じことの繰り返し、また飽きるだけ。今更検索なしでプレイしようとも思えない。


 僕は始めかけたゲームを強制的に終了してアプリを閉じる。そして、スマホの電源も切って枕の横に置いた。


 ずっと同じ体制で寝転んでいたので体が固まっていた。立ち上がって、体を伸ばしたい。喉も乾いていた。冷蔵庫まで行って飲み物を持ってきたい。でも、寒いから布団の中から出たくない。


 部屋にいても寒い季節は長く続いていて、今季も当たり前になっていた。テレビの中のお天気お姉さんもクラスメイトも、寒い寒いと毎日言っている。僕も同じだ。それくらい冷え切っている……。


 飽きていると言えばたぶん――僕はもう黒いパソコンでの検索自体にも飽きているのかもしれない――。


 いや、飽きていると言えば言い過ぎになる。飽きてきたという言うべきだろう。


 以前ほどの興奮ではなくなった。1日1回とはいえ、毎日使っていると検索したいことがすぐに思いつかなくなってきた。


 何でも検索できるなら何を検索したいか考えて、ぱっと思いつくようなワードはとっくの昔に検索し終えた。下ネタやスキャンダルも程度の低い物じゃ満足できないし、少なからず驚きに耐性が付いてしまった。今ではこうして数十分ネットサーフィンをしてみても……まだこれだと言えるものが見つからない。


 いや、折原への恋心を紛らわそうとしてるから高いハードルを設けてしまっている。それだけの話だろうか。


 昔はノートに所狭しと検索したいワードを書いていたほどなのに……。そういえば、あのノートは今どこにあるだろう。いつからか使うことも無くなった、元々は確か英語のノートを後ろから使ったあのノート。


 僕は勇気を振り絞って布団を出ると、勉強机にある棚から1つのノートを手に取った。

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