word50 「作戦 成功?」

 夕飯を食べ終えた僕は自室のベッドに寝転がっていた。仰向けの姿勢でスマホを手に持って、気になった動画を見ている。動物の動画だとか好きなアイドルの動画だとか。


 友達から何か連絡が来たという通知は無視して放置している。他にもやったほうが良いこともいくつかあるが、全て無視。明日の授業の予習も、ギターの練習も筋トレもやる気が出ない。


 なぜなら、今日の僕の行いで宇宙戦争が止められたかどうかが定かではないからである。


 どうにも落ち着かなかった。おそらくは大丈夫、確率で言うなら98%くらいは。それでも残り数%ダメだった可能性がある。そんな気がするだけで何も手につかない。


 だからただ……これといってみたい動画がある訳でもないのにスマホを眺めていた。いつもならこの行動は寝る前にするものである。子供でも見れる動画を眺めながら、じっと待つのだ。目を開けるのも辛くなって、スマホの充電コードまで手が届かずに寝落ちてしまうあの瞬間を。


 それと違って今は、黒いパソコンが検索可能になることを待っている――。自分1人では何もできない僕は、ただ黒いパソコンが道を示してくれるのを待っていた――。


 体勢を変えて体を伸ばすと、あくびが出る気配を喉のあたりから感じたので、僕は口に手を持っていった。しかし少々の間、動画を止めて待ってみても出てきてくれなくて、代わりに溜め息を吐く。


 なんだか情けない気持ちもあった。昨日もそう感じたことだが、ピンチに陥った時に僕は黒いパソコンに頼るばかりで、自分の力でどうにかしようなんて全く考えていない。


 今回の件に関してはそんな調子でも仕方ないかもしれないが、思い返してみればいつだってそうだった。僕は黒いパソコンを手に入れてから、何事も黒いパソコンに頼ってばかり。ちょっとした悩み事でも判断を任せてしまうこともある。


 いつからか……すっかり依存してしまっている。黒いパソコンが無い人生が考えられない。情けなくなったと言うよりは、僕が情けない状況になっていることに気付いたと言うべきか。


 僕の人生このままで良いのだろうか。ずっと黒いパソコンに動かされるような人生で本当に……。


「……うん。別にいいな」


 と、そうやって悩んでもみてもそれが答えである。だって黒いパソコンは世界で1番正しいのだ。その指示通りに生きて何がダメなことがある。


 だから厄介だ。黒いパソコンがもたらしてくれるメリットは、依存してしまうことや、今こうして無駄な時間を過ごす羽目になっているデメリットなんかよりもずっとずっと何億倍も大きい。


 こんな悩みごとの忘れ方も、無駄にした時間の分を取り戻すほどの効率的な使い方も検索すれば分かってしまう。


 手強いな……。僕はもう1度溜め息を吐いて、今度は笑ってみた――。



「作戦 成功?」


 0時を回ると、僕はすぐに黒いパソコンを。その必要も無さそうだけど、ハテナマークを最後に付けた。


 気持ち的には僕がもうこの件に関して何もしなくていいのかを聞いていた。もうあんな面倒なことはしたくない、そう思ってEnterキーを押す。


「あなたの活躍により宇宙戦争は止まり、地球に住むたくさんの生命が救われました。作戦は成功です。お疲れさまでした。」


 結果はなんだかあっけなかった。ホッとはした……すごくしたけれど、昨日と違ってあまり喜びみたいなものは湧いてこない。リアクションとしては、何度か頷いたくらいである。


 小さなガッツポーズすら出ずに、もう1度文を読むと、黒いパソコンを閉じた。


 その黒いパソコンの隣には、検索で宇宙戦争が止められたことが確認出来たらやることに決めた予習用の教科書とノートが準備してある。落ち着いたらやる気が出る気がしていたのだ。


 でも、どうしてだろう。まだ全然やる気が出なかった。むしろそういうことは忘れて、さっさと寝てしまいたい。ああ、予習しなくても済む方法を黒いパソコンで検索したい。先生が予習をチェックするかどうか黒いパソコンで検索したい。


 ここ最近お隣さんとの件で後回しにされていた娯楽目的の検索もしたい。いくつか思いついたものがあるのに、また24時間待つのが苦しい。


「はあ……」


 だけど、明日もまだ駄目だ。次の検索も決まっている。


 僕は明日、黒いパソコンの正体を暴く検索をするつもりなのだ。

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