word11 「仕返し 方法」②

 仕返しをすると言ってもパターンはたくさんある。何をすれば僕の心が1番スッキリするだろうか……。


 僕は考えた。そしてその答えは「答えを黒いパソコンに聞く」ということになった。


 それすらも黒いパソコンに頼る。2日分の検索をプリン1個の為に使ってやることにしてやった。


 でないと、僕の怒りが収まるはずがない。


 僕は怒りを抱えたまま0時になり日付が変わるのを待った。黒いパソコンの検索回数は0時になると同時に回復する。


「仕返し 方法」


 家の外も中も静まり返った少し湿気の多い夜。たぶん家族は皆寝てしまっていて、僕も眠かった。けれど僕はそのワードをキーボードで入力した。


 やっと待っていた時間が来た時に怒りがまだ収まっていないことに喜びを感じながら。


「あなたの父親が大切に保管しているおつまみセットが床下収納の缶詰置き場の下にあります。あなたの父親はそのおつまみセットを今日のゴルフから帰宅したときに食べるでしょう。あなたが父親が帰ってくる午後8時までにそのおつまみセットを食べることが素晴らしい仕返しになります。」


 僕はその文でさらに頬を緩ませる。なんて良い案件があったのだろうと。


 そして、黒いパソコンを本当に良い子だと思った。僕と気が合う。僕も仕返しするなら同じことで仕返しするのが良いと考えていた、食べ物の恨みは食べ物の恨みで返す。目には目を、歯には歯をだ。


 次の日、僕は黒いパソコンに言われた通りに床下収納を開けた。家族がそこに誰もいない時を見計らって。普段開かない場所だったので開けた時にはこんなものが家にあったのかと探検しているような気分だった。


 缶詰がいくつか入った箱をどけると簡単にそれは見つかった。ぱっと見は見えなかったけれど箱の下にはおつまみが描かれたパッケージの袋がいっぱい。数は多いけれど1つ1つの袋は小さかった。


 僕はそれを全て持って素早く自室に戻る。


 しかし、そこでまた1つある問題が発生した。大きな問題である。


「うう……」


 机の上に置いたおつまみ達がどれも僕の好みではない。全く食べたいと思えないものだったのだ。


 それというのも……僕と父は食べ物の好みが全く違う。しかも酒のつまみとして食べる物の中で上等であれば、まだ未成年の僕の舌にはより合わない。


 父はチーズが大好物であるけれど僕は大嫌いだ。チーズ味のお菓子でも絶対に食べたくないほどに。


 チーかま、チーズサラミ、そのまんまチーズ、なんかよく分からない鶏の爪みたいなやつ……並んだ袋を見て僕は体を引いた。


 嫌いであれば食べなければいいかもしれない。このまま隠してバレないように捨ててしまえば……そんなことも頭をよぎるけれど、食べ物がもったいないし、仕返しとしてきっちり同じことをやり返さないといけない。気が済まない。


 こいつらをしっかり腹に入れた状態でおつまみを必死に探す父に「知らない」と言ってやらなければ……。


 僕は悩んだ。一旦ベッドの中に入って現実逃避をする。そうしながらも時間をかけて心の準備をした。


 最後に戦うと決めると喉を鳴らして、一息つくと……意を決して苦しみながらおつまみ達を頬張っていった。飲み物も用意して半ば飲み込むように。


 チーズの味が舌へ伝わる前に、取り込んだ固体をかみ砕いて飲み込む。凄いスピードで次から次へと。そうやって被害を最小限に抑えながら戦って……10分後、僕は勝利した。


 開けては空にして、投げ捨てていったつまみの袋の上、僕は勝利の栄光をつかみ取ったのだった。


 その時にはもう父が返ってくると聞いた午後8時前だった。後がない時間だったことも意を決することができた理由である――。


 仕上げの為リビングに待機していると、思惑通りに床下収納を漁り始めた父に僕はこう言った。


「何を探してるの?」


「ここに入れ取ったつまみ知らん?チーズの美味しそうなやつ」


「知らん。昨日も飲んでたしそんなの食べてなかったっけ」


 色んな棚を開けてつまみを探す父。「これはおかしい」と首も傾けていた。


 そんな父を背に部屋に戻った僕は、椅子に座って大きなゲップを一発かます。チーズの風味が口の中に戻ってきたけれど気持ちの良い1発だ。


 復讐は果たされた。大勝利だ。


 しかし……次の日僕は1日中トイレの中にいた。

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