第15話 少年の正体

「怖かった。父さま、ありがとう。助かった」


 柚は畳の上に、へなへなと崩れ落ちた。


「けがは、なかったか」

「肩が少し痛かったけど、だいじょうぶ」

「この、莫迦者が。あんなの、知らぬ振りで通せ。おかげで、えらい大騒ぎになってしまったじゃないか」

「知らないって、言ったわよ。でも、あいつらのエラそうな態度が許せなくって、つい……じゃない、ごめんなさい」


 ごまかそうとしたが、父の鋭い視線は衰えなかった。柚は素直に謝った。


「助太刀、ありがとうございます。それに、柚さんを危険にさらしてしまい、申し訳ありませんでした。あんなやつらに、柚を傷つけられて、頭に血がのぼってしまって」


 恭しく木刀を父に返し、礼儀正しく素直に頭を下げる鉄之助に、柚は臍を曲げる。先に下手に出られては、ますます硬化するよりほかない。


「ほら、鉄之助に礼を。柚よ」

「勝手に飛び出してきたのは、鉄之助。私は、鉄之助に助けてほしいなんて、ひとことも言っていない。騒ぎの間に、私をおとりにして逃げればよかったのに」

「柚、お前まさか、時間稼ぎのためにわざと兵を挑発したのか」

「知らないってば、もう。どうでもいいじゃないの」

「意地を張るな。さあ、お別れのときがきたぞ。鉄之助、今日までの給金だ。十日分。これでしばらくは持つだろう」


 柚の目の前で、父は鉄之助に給金を渡した。


「ありがとうございます」


 何気なく、そっと袋の中を確かめた鉄之助は、包まれていた金の多さに驚いた。


「こんなに。いただけません」

「いいんだ。受け取ってくれ」

「ですが」

「同じ剣術を学んだ誼だ。戸塚宿、門弟一同からの餞別でもある」


 それを聞いた、鉄之助の顔色が変わった。


「鉄之助。お前さんは箱館から落ちてきた、新選組の一隊士だろう。『誠』。新選組の旗印。戎服の腕章で、最初から分かっていたよ。新選組をつくった天然理心流の人たちには昔、よく出稽古に来てもらって、世話になったからね。私には、旅籠や家族があったから、新選組に参加できなかったが、せめてもの恩返しだ。鉄之助は志高き、立派な同門。やたらな横暴にも屈せず、私は誇らしい。『薩摩の初太刀は必ず外せ』。局長副長の言いつけをしっかり守っている。しかも、天然理心流が得意とする、見事な突きだった。うつくしかったぞ」


 鉄之助は、まだなにかを考え込んでいるが、父は柚を促した。


「さあ。荷を持って、急いで裏口に回りなさい。今ならまだ、やつらの脚を食い止めていられる。気がつかれる前に、早く」

「早くって、言われても」

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