第84話 燃える城の激戦

 牢獄にて策幽を討伐。植物園にて柿砲台、ミケの亡霊を討伐。残すは、2階の大広間で死闘を繰り広げる天馬と鬼反。そして、番犬たちの争い……。


 タレが伏魔殿に放火してそれぞれがそれぞれのターゲットを追いかけて行った。赤兎馬天馬も2階の大広間にて鬼反と対峙する。

「一万年の決着をつけようか天馬」

「ここで全てを終わらせよう」

 シルクのかかった細長いテーブルの上には、幾つかのロウソクが置かれていた。燃える伏魔殿の炎に引火して、火が灯るものもある。


 先に動いたのは天馬であった。テーブルの上に右足をかけると、そこを足場に鬼反めがけて真っ直ぐに飛んだ。その勢いのまま、空中で方天画戟を振るい鬼反の首を狙う。

 待ち構える鬼反はテーブルクロスを引いて天馬へ覆いかぶさるように投げ付けた。方天画戟でテーブルクロスを払い除け、刃が床の方を向いた。すると、鬼反は一足飛びでテーブルの上の天馬の前まで飛ぶと、渾身の力を込めた拳で鳩尾を突いた。

「ガアッ!」

「どうした! こんなもんか!」


 転生前の鬼反の力なら、大柄で屈強な武人である天馬を相手に徒手空拳では通用しない。仰け反らせることもできないだろう。しかし、今は地獄1屈強な大地地獄の原始鬼の体。加減をしていても相手は悶絶する。


「やるな……」

「そういえば、拷問の力でお前を殴ったのは初めてだな」

 拷問に転生して以来、天馬とは1度も接近戦になったことはない。魔法と方天画戟の応酬である。


 2人は、細長いテーブルの両端に立って向かい合う。その間も炎は燃え広がり、天井にまで達している。テーブルの上を除いて床も壁も天井も燃え、ステンドグラスも溶けだし色鮮やかな雫となって垂れている。まさに大会議は火の海と化す。


 火がシャンデリアを吊るすフックの辺りを燃やしだした。フックは鉄でできており、熱されて真っ赤に発光する。天井が焼けてフックが抜け始めた。


 シャンデリアがフックごと落下。天馬と鬼反の間に落ちてくる。テーブルに直撃すると同時に、2人は飛んだ。シャンデリアはテーブルを真っ二つに折り火の海に沈んでいく。


 天馬は、空中で方天画戟を振るい、鬼反の喉元を狙う。対して、鬼反は魔法の卵を投げ付けて天馬の腕を狙う。互に相手の攻撃をかわしながら何とか一撃をいれようとする。

 だが、天馬の方天画戟は鬼反の喉元に届かず、また、鬼反の魔法の卵も方天画戟の柄で巧みに叩き落される。


 赤白く燃える床へ着地する。ゴウゴウと炎の音が響き、ほとんど他の音が聞こえなくなった。

「さあ、これからだ。骨しゃぶみたいに小便垂らしながら気絶するなよ!」と鬼反が自信たっぷりで言う。

「ははは、俺をあの小便犬と一緒にするな!」と天馬も答える。

「小便だけじゃない、大便も漏らしていたぞあの犬は!」

「その上よだれも垂らしてな!」

 妙なことに、骨しゃぶの悪口合戦が始まる。

「弱い犬ほどよく吠えるってな!」

「ブルブル震えて『ももも、モモがもももも』ってな!」

「シャーッて威嚇すると!」

「シャーッと小便を漏らす!」

 シャーッの言葉を合図に死闘が再開した。今までたまったストレスのはけ口に骨しゃぶを選ぶところがこいつららしさだ。

 炎の中で、因縁の戦いはさらに燃え上がる。


 この時、屋上ではニャン吉たちとモモの戦闘が始まっていた。ゴシップ式の尖塔の頂点にしがみつくモモ。アイスのコーンを逆さにしたような薄茶色の尖塔に、抱き枕でも抱えるようにしがみつくモモ。

 同じ尖塔の下部には、木登りでもするように両手両足で踏ん張るニャン吉ともっさんがいる。

 空からやってくるモラッシーと御亀とイーコ。フクロウの足にぶら下がる亀とペンギンの姿は何とも間抜けであった。


 モモは、尖塔から降りて屋根の平らな所へ降りた。ニャン吉たちもモモを追いかけてそこへ行く。六角形に並べられた尖塔の合間は、黒い瓦が敷かれた平らな屋根になっていた。それは、さながら格闘技のリング。


 ニャン吉とビッグ4は遠巻きにモモを囲む。円形に囲んだ。モモは顔を洗うとニャン吉を見て鼻で笑った。

「骨しゃぶでも1人で来たのに、お前は大勢で来る。相当なビビリ猫だな」

「モモ……ここで終わらせようや」

 ニャン吉が番犬化すると、モモも番犬化する。ビッグ4も皆、転生の時に魔改造で手に入れた番犬化の姿に初めて変わった。

「ワオーン!」と吠えるともっさんは柴犬狼になった。

「グワッ」と鳴くとイーコは背丈1メートルを超える大きさのペンギンになった。

「ガッ」となにやら喉を鳴らすと御亀は、古代の海亀アーケロンのように変化した。

「ホーッ」と闇夜に響く声で鳴くと、モラッシーは背丈1メートルあるフクロウへ変化。

 今回の番犬レースで飛び抜けた成績を残した錚々たるメンバーの変身に、モモは思わず「ヒーローの変身か」と大笑いした。さらに、「囚人ヒーローか」と言うと馬鹿笑いする。モモはさらに1人1人に目を注ぐと、「クソ猫ホワイト、カス犬ブラウン、下劣ペンギンブルー、脅し亀グリーン、ゴミフクロウ……とにかくお似合いだ」と嘲笑った。


 嘲笑われたニャン吉たちなのに、なぜか納得したように互いの顔を見ては頷く。


 顔を洗って笑うモモに対して「お前は、洗顔ハゲ猫のブラックかにゃ?」とニャン吉が急に言い返した。

 ニャン吉の邪王猫な笑いが飛び出す。


 顔を洗うのをやめると、モモは生命力を全開にした。ニャン吉たちも、生命力を開放する。


 ニャン吉はモモに背を向けると、いきなりバク宙してモモに飛びかかった。突飛な動きに一瞬度肝を抜かれたが、モモは冷静にバックステップで後ろへ避けた。

 避けた先へ、二足歩行に切り替えたもっさんが一気に加速して行く。そして、モモの横顔をもっさんが右ストレートで殴りにかかった。だが、モモは軽々とスウェーで避ける。さらに、もっさんのボディに肘打ちを入れた。

「ギャイン!」と悲痛な声を上げて悶絶するもっさん。追撃をしようと、爪を出すモモ。


 風を切り飛んでくるモラッシー。彼は、後ろからモモの頭を鉤爪で狙う。だが、モモは跳躍しモラッシーの目の前まで来ると、後ろ足で回し蹴りを入れた。


 イーコと御亀は、モモが着地するタイミングを狙う。イーコのリズミカル千鳥足の酔拳で撹乱し、御亀の回転甲羅で体当たりをする。


 しかし、モモは尻尾で御亀を弾き返すと、さらにイーコの顔面へ猫キックをぶちこんだ。

「にゃんと!」

「俺のボクシングが」

「今の蹴り見えなかった」

「ぬあっ」

「フフフフーン、やるじゃない」


 番犬たちは、以前とは違うモモの身のこなしに驚いた。

「どうした、これが本来の俺の動きだ。やっとこの体に慣れてきたんでなあ」


 ――モモの強さは想像を超えていた。


『次回10月27日(金)午後6時頃「屋根のリング」更新』

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