第43話 十羅刹女始動、大函谷関で迎え撃て

 閻魔の間の2階・会議室にて一大事。魔界鬼反は三途拷問に転生していた。拷問改め鬼反は、招き邪王猫でモモらを呼び寄せ、門番と閻魔に大打撃を与える。その頃、ニャン吉とレモンとクラブは毒地獄へと縮地していた。


 ニャン吉が招き邪王猫の前に現れると、毒地獄の皆が駆け寄ってきた。

「ニャン吉!」

 今もなお、悪党外道の四面楚歌作戦の銃撃に使用したあの場所を拠点としている毒地獄の住人。そこから、ポイズンシティをジワジワと取り返しつつあった。


「カマカマファームの人たちはどこだにゃ?」

「……ああ、あいつらならたぶんカマカマファーム奪還作戦中だよ」

 誰ともなく棘のある言い方で返事が帰ってきた。


「ありがとにゃん」

 少し言い方が気になったがニャン吉も誰にともなくお礼を述べる。そして、ポイズンシティにあるホテル朝寝坊の屋上にある招き邪王猫へ縮地した。


 朝寝坊の屋上は片付いていた。屋上から町を見下ろす。既にこの辺りには囚人がおらず、鬼たちが凱歌を上げていた。

『我らの邪王猫〜、クズの邪王猫〜、悪を極めた邪王猫〜、悪知恵は本懐邪王猫〜』

 その歌を聞いたニャン吉は、鬼の形相で舌打ちを響かせた。


 ポイズンシティの毒溜め広場まで来たニャン吉たち。町は思った以上に活気付いていた。広場では炊き出しが行われ、皆が楽しそうに食事をしていた。それを見届けるとニャン吉たちはカマカマファームまで駆け出した。


 カマカマファームが近付いてくると、断続的に聞こえてくる爆発音が次第に大きくなってきた。音のする方から黒い煙が立ち昇る。


 村が見えてくると、家も牧場も畑も荒れ放題。舗装されていない道を歩きながら辺りを見回すニャン吉たち。すると、例の笑い上戸の鬼がクスクス笑いながら歩いているのが見えた。


「久しぶりだにゃ」

 ニャン吉たちは、笑い上戸の鬼に声をかけると向こうもこちらに気付いた。

「クク、ニャン丸、よく来たな」

「ニャン吉だにゃん。鬼市害はどこだにゃ?」


 笑い上戸の鬼は爆笑してニャン吉の尻尾を触った。そして、オカマキョンシーの方を指して「店長なら店だよ……グフフ」と教えてくれた。


「ありがとにゃん」

 ニャン吉たちはオカマキョンシーの方へ駆けていった。


 オカマキョンシーは看板を降ろしてあり、店の戸を開けると中は陣営となっていた。物々しい空気が立ち込め、オカマたちはその手に武器を持っていた。ニャン吉が入って来ると、一斉にこちらを振り返る。

「おう! ニャン吉じゃねえか!」

 バーの奥から鬼市害の太い声が響いた。


「鬼市害、話があるにゃん」

 ニャン吉は十羅刹女じゅうらせつにょの出陣と、大函谷関だいかんこくかんを呼び出すようにとの閻魔の指示を伝えた。

「ふむ、なるほど! おめえら聞いたか!」

 鬼市害のその声に皆一斉に返事を返す。


「ところで、その十羅刹女と大函谷関って何だにゃ? 鬼市害」

「おお、十羅刹女は俺ら選ばれたオカマのみで結成された戦闘部隊でな。閻魔の許可が下りたら大鎌を使用できるのだ。その威力は並じゃないぜ」

「じゃあ、大函谷関はにゃ?」

「毒地獄の登り門に出てくる砦で……まあ、後で呼び出すところを見せてやる」


 ニャン吉は嬉しそうに続けた。

「それからにゃ、鬼市が許されたにゃ」


 鬼市害の顔がパッと明るくなった。

「そうか……そいつぁよかった」

 何故かレモンが鬼市害の肩をポンポンと叩き、嬉しそうに微笑む。

「良かったデスネ鬼市害さん。私は小鬼のことは嫌いデスガ、素直に良かったと思いマス。立場も姿も異なってモ、志だけは同じデスカラ」

「おう! そうだ、お前ら何か食ってくか?」

 ニャン吉たちはお言葉に甘えてよだれを垂らした。


 ニャン吉は熱々のグラタン。

 レモンはレモンジュース。

 クラブは三角のおむすび。

 それぞれガツガツと食べた。


「おうおう、うめえか」

「ハイ、美味しいです」

 何故かレモンは上機嫌。やはり、万世鬼になれたこともその一因だろう。


 店の出入りは先程から激しかったが、1人の男が血相変えて店に飛び込んで来た時はさすがにニャン吉も驚きそちらを見る。

「き……鬼市害さん……大変です!」

「どうした? 囚人兵の奴らが手強いか?」


 息を切らし汗を滝のように流すその男。何かを伝えようとするも、息が上がって言葉にならない。そこで、鬼市害は厨房の白猫で眉毛のみ金色に染めている料理人の三木丸丸川に水を持ってこさせた。


 男はその水を一気に飲むと、コップを床に投げつけ叩き割り「よっしゃおらー!」と雄叫びを上げる。鬼市害は男の頭に拳骨を食らわせた。


 冷静になった男は口紅を塗ると、急報を伝え始めた。

「鬼市害さん、閻魔の間で急変がありました。三途拷問が鬼反の……俺らの先祖の転生した姿でした」

「な! 何! そんな馬鹿な」

 仰天したのは鬼市害だけではなかった。ニャン吉たちも、店のオカマも天地がひっくり返るような驚き方であった。


 騒然とする中、レモンが皆に転生の秘術について教えた。鬼反が転生の秘術を使ったこと。自分もそれで1度死んだところを生き返ったことなど。

「……つまり、俺らの先祖がのうのうと大地地獄で生きて嫌がったわけだ」

「それがよりによって……大地地獄の三途拷問かにゃ……」

 あまりの急変に皆、顔面蒼白でその場に佇む。


 急報を伝えに来た男が声を振り絞るようにして何かを口にする。

「俺……俺……」

「ああ、分かっている」

「俺は……苦しい! 鬼反なんかより……うんこ!」

「分かっている、早く行け」

 男は尻を抑え内股でトイレを目指す。それを見送った鬼市害。


「すまねえな、あいつはうんこの時に限りあんな慌て方をするんだ」

 呆れ顔をするニャン吉とレモンとクラブ。


「たぶん、鬼反とかあいつにとってはうんこ以下なのだろう。糞以下を地で行く奴だ……」


「ま……まあ、うんこは一大事だにゃ」

 うんこ、うんこと騒ぐ男をにゃんこが庇う。


「相棒、急ぐぞ」

「そうだったにゃ」

 ニャン吉は鬼市害のズボンの裾に爪を引っ掛け2、3度引っ張った。

「どうした?」

「大函谷関と十羅刹女頼んだにゃんよ」

「おう! 任せろ!」


 急報を聞き、危険を承知でニャン吉は閻魔の間へ縮地する。


 登竜門へと戻ったニャン吉たちは愕然とする。眼の前が炎一色で何も見えないのだ。

「にゃんだ! これはどうなっているにゃ!」

「相棒! 危ない!」

 バチンと爆ぜる音がすると、ニャン吉の頭上に燃える瓦礫が落ちてくる。咄嗟にクラブは本地覚醒すると、黒い頑強な背の甲羅でニャン吉とレモンを庇う。


「ニャン吉様! 甲殻類! あそこから外へ出られます!」

 閻魔の玉座の後ろにある窓を根で指差すレモン。窓を突き破り外へと飛び出したニャン吉たち。


 三途の川まで走ると、死神たちが皆避難していた。ニャン吉は閻魔の宮殿を振り返る。壮大な宮殿は全て炎に包まれ天をも焦がすかと思われた。


 ――鬼市害へと閻魔の命を伝えたニャン吉たちは、閻魔の間で起きた事件に急ぎ引き上げる。そこは火の海であった。


『次回は4月19日(水)正午「焼跡」更新』

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