第32話 森羅万象の技法

 武蔵はニャン吉が正式に番犬に就任したので、森羅万象の技法というものについて話し始めた。


「俺達が使っている生命力の技があるだろ? その技は正式名称、『森羅万象しんらばんしょう技法ぎほう』という。一般に万象ばんしょうと呼ばれているものだ」

「万象だにゃんね」


「万象は生命力を使う力だ。その生命力を死神及び現世の者は霊力、鬼は妖力、天使は神力、そして、魔は魔力と呼ぶ」

「にゃるほど、万象を妖術とか魔法とか呼ぶのはそういうことだったにゃんね」


「その万象には種類があってな。それを五行ごぎょうの属性で分けている」

「占いにゃのに裏付けがとれてるのかにゃ」


「五行には、火性かせい水性すいせい木性もくせい金性きんせい、そして、土性どせいの五つがある」

「星じゃにゃいのに気を付けようにゃ」


「五行の要素は、りきそくけいの四つで構成されている」

「その得手不得手が属性で決まるんだにゃんね」


「知っていたのか?」

「そういうの地球では月並みだにゃん」


「地球なのに月か」と武蔵は笑った。


 武蔵は紙を渡した。紙にはこう書かれていた。

 力は威力を決める。

 速は加速力を決める。

 技は自在に扱う技術を決める。

 型は再現力を決める。


「同じ万象でも、力が高ければ技の威力が出る。速が高ければ回転率が増す。技が高いと即興で技を出したり、複数の技を出すことができる。型が高ければ、安定して技を再現できる」

「分かったにゃ! 技をわざわざ分析しているにゃんね」


「ああ、もう一度紙を見ろ」

 それぞれの要素が強い方から並べると。

 力は、土性、火性、水性、木性、金性。

 速は、火性、金性、水性、土性、木性。

 技は、金性、木性、水性、火性、土性。

 型は、木性、土性、水性、金性、火性。


 火性は猪の如し。火力と速さはピカ一だが大雑把、力押しが得意。

 水性は熊の如し。全てが平均的で何にでもなれる。

 木性は猿の如し。再現力と技術の精密機械だが遅い、一芸に秀でるべし。

 金性は鷹の如し。力や再現力は無いが生き馬の目を抜くような早業を得意とする。

 土性は象の如し。力強いが小回りが利きにくい、一撃必殺を得意とする。


「――とまあこんなところだ。冥界では常識なんだが、これを番犬候補に教えてしまったら簡単に試練を突破してしまい純粋な力を見れなくなる」

「にゃるほど……で俺の五行属性はなんだにゃ?」


「俺と同じ土性だ」

「師匠ー!」

 ニャン吉は武蔵に飛びつこうとして頭を抑えられた。


「五行属性は極秘の個人情報だ。強み弱みが明るみになってしまうからな。それに対し、番犬には閲覧権といって五行を見聞きする権利がある。もし番犬に嘘をついたら重い罰則もある。しかし、鵜呑みにはするな」

「はいにゃ! 強み弱みに明るみで韻を踏んでいるにゃん! 隕石が夢に出そうだにゃ」


「それから、門番とその近しい者は、五行登録義務があって、閻魔帳に記載されている。属性について大王から聞いておくように。ちなみに、火性はタレ。水性は骨男とクラブ。木性はレモン。金性は鬼市と集太郎とペラアホだ」

「にゃんと!」


「これは俺の予想だが、ケロケロ外道は水性か金性。柿砲台はほぼ間違いなく木性。策幽とミケは……見てみんことには分からん。不埒鳥は……見当もつかん。魔界鬼反は聞いた話では水性。モモは恐らく水性だろう」

「花枯爺とかはにゃ?」

「花枯爺と墓地は共に金性。不埒の子については、蜘蛛の生糸はタレを縛るほどの糸を出すから土性。火刺とかいうさそりはあの身のこなし、火性だろう」

「にゃるほど。こうやって五行属性で分析するにゃんね……さて、閻魔に聞くかにゃ」


 ニャン吉は閻魔に番犬候補と主だった者達の五行属性について尋ねた。

「ふむ。私は水性だ」

「あんたのことは聞いてにゃい」


 閻魔は渋い顔して、閻魔帳をニャン吉に見せた。

「にゃんと!」

 極秘ファイルはニャン吉と閻魔のみ閲覧権を持つ。


 ニャン吉の閲覧が終わると、武蔵がまだ話があると言ってきた。

「次に冥界の姿だ。あの世には三界がある。『三途の川があり、閻魔による裁判が行われる霊界』『罪人が罰を受ける地獄』『善良な者が行く天国』の三つだ」

「にゃるほど」


「三界はそれぞれ別の形をしている。霊界は平面の板の上に乗っているような姿だ」

「板チョコみたいで美味しそうだにゃ」


「地獄は球体の内側に世界がある。丸い宇宙船の内側だと思え。中央には太陽があり、移動しているから各地獄に昼と夜が生まれる」

「遠くにあるにゃら太陽の光も弱くにゃり、普通の星と同じになるにゃんね」


「天国は……昔は馬の鞍の上に乗っているような形をしていたが……不便なので作り直したらしい。大きな台形の上に世界があり、その周りに堀が廻らされて、堀からはその水が霊界や地獄に送られている」

「水地獄の滝だにゃ」


「三界の内、地獄は他と異なっているものが多い。まずは太陽について。天国と霊界は現世と同じで核融合している。それに対して、地獄は核分裂だ」

「にゃ……にゃに?」


「天国と霊界の星々はそれぞれの担当が創る光なのに対して、地獄では太陽から出た放射線物質のゴミだ」

「じゃあ被爆するにゃん……」


「核分裂の太陽は地獄の象徴と言われている。核兵器こそが地獄の象徴と」

「……」


「各地獄は球の内側に貼り付いているような形となっているが、互いに何光年も離れている。その距離は遠すぎる。だから地獄は門を使って行き来をするようになっている」

「地獄の外側は何があるにゃ……」


「ブラックホールを敷き詰めてできた海だ。魔王は時々、無間地獄の囚人をブラックホールの海で泳がせ楽しんでいる」

「それで地獄同士は電話が使えにゃいのか」


「離れ過ぎているし、ブラックホールの海があるし、もっとも、地獄の門を使えばその限りではないが、電話の使用許可はまず下りん。ミケが送ってくる全地獄放送も本来なら閻魔か天子魔家しか使えんものだ」

「にゃるほど……それで伏魔殿を乗っ取ったにゃんね」


「それから、三界の死神、天使、鬼や魔などは人扱いだ」


「しょれはこの化け猫も人あちゅかいか。あの世もしゅえじゃの」

「獣も出世したーもんだーね」

 集太郎とペラアホが突然話に入ってきた。……がすぐ飽きてどこかへ飛んでいった。


「あ、そういえば千里眼についても一応説明しておこう」

「お願いしますにゃ」


「千里眼は第六感の一つだ。それは五感の六感化である。地獄耳もその一つだ。千里眼の定義は『知恵の眼を開くことで生命の本質を観る力を』とされている。生命を観れば、生命力を使う万象は全て見破れる。あの厄介な魔法もな」

「またしても月並みだにゃ」


「月並みはいいとして、千里眼には、階級である五眼、万象や生命の気配を見通す洞察力、遠くまで視る視力の三つがある」

「にゃんと三つも」


「特に洞察力が高いと、どれだけ隠しても万象を見抜けるようになる。それと、千里眼を維持する常識もある」

「えっと……万象と五行に……三界と千里眼……後花見の場所取りにゃ」


「俺が後でまとめておくから大丈夫だ。それに今すぐ覚える必要はない。その都度、体で覚えていけ」

「頼むにゃん」


「最後に、万象を創意工夫して、己の拳法を編み出せ」

「師匠はどんにゃ拳法を使うにゃ?」


「冥界流・御結剣おむすびけんだ……剣士は皆冥界流だ。お前も冥界流になる」


 ここに来て、鬼市が突然ゴミ箱へ走り嘔吐を始めた。ゴミ箱には鬼市の写真がプリントされていた。


 レモンはその姿を確認すると「やったぜこの野郎! 命がけで吐きナ!」と柄にもなくガッツポーズを決めた。


 ――森羅万象の技法と五行の属性。冥界の姿。千里眼。番犬になったニャン吉はそれらを教えられた。自己の拳法を編み出すために。


 緊急事態宣言レベル二、地獄封鎖ヘルロックダウン中。


『次回「悪巧み其之二・敗戦の報」』

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