第26話 猛毒山脈の対決

 バニラの木から少し離れた場所で戦闘が始まった。骨男、タレ、クラブが戦う相手はモモ一派の誰だ……。武蔵とニャン吉は骨男に加勢すべく、森を駆ける。


 武蔵は念の為ニャン吉に聞いた。

「一度骨男からモモ一味のことは聞いたが……簡単にもう一度聞いておくぞ」

「分かったにゃ」


「モモの資料は検索中だ」

「にゃん」


「ミケはファシズムの猫」

「にゃん」


策幽さくゆうについては名前と顔以外全てが不明」

「にゃん」


「ケロケロ外道は水地獄の孤児院で育った蛙で、毒地獄のギャングのボスだったと聞いている」

「にゃん」


柿砲台かきほうだいは名門、かき一門の出であり、執事と犬をお供に連れている」

「にゃん」


不埒鳥ふらちどりは出自不明のからすで、ポイズンシティのスラム街で育った」

「にゃん」


「獅子王、他の返事はできんのか?」

「にゃあ?」


 武蔵とニャン吉は情報を整理しながら骨男達のいる所を目指す。もちろん、気配を断って。


 戦闘のあった場所が見えてきたところで立ち止まり様子を見る。


 骨男達と対峙するのは大きな柿頭の下に木製のマネキン人形の体をつけた柿砲台だ。扇子を広げ優雅にしている。

 柿砲台の両隣にいるのは、仁王立ちする半裸に短パンの筋肉質な金髪爺さんと、緑色した隻眼の大型犬。


「ホホホ、そちは早う白ドブ猫の居場所を教えるでおじゃる」

 柿砲台が大砲に変えたマネキンの腕を骨男に向ける。

「ニャン公なら自分で探してみやがれ!」

 骨男が威勢よく返す。

「ホホ、では死になされ――っておじゃあ!」

 柿砲台を差し置いて爺さんと緑犬が前へ出てきた。柿砲台は後ろへ転げた。


 鋼のような肉体をした爺さんはオールバックの金髪が眩しかった。

「おら様を舐めんなよ! 柿家執事の花枯爺はなからじじいだ!」


 爺さんの横から緑犬がぬるりと出てきた。

「うふふふ、はじめまして、墓地ぼちと申します」と落ち着いた声で名乗りあげた。墓地が笑うと銀歯が見えた……全ての歯が銀歯である。

「クエッ! ちゃんと歯を磨け!」


「頼むでおじゃるよ」と柿砲台は言うが……。

 爺さんと犬はその場に仲良くゴロンと横になった。花枯爺と墓地は柿砲台を振り返り、賤しい顔して見つめる。

「は〜あ、何だか急に腰が痛くなったべ。なあ墓地」

「そうですねえ。おやぁ、私も急に老犬化したみたいですよ」

 柿砲台は「早く戦うでおじゃ!」と叫ぶが花枯爺と墓地はその必死な顔を見てせせら笑う。笛吹けど踊らず。


 花枯爺と墓地は急に立ち上がると、柿砲台の方を振り返った。そして、足でリズムを取りながら歌い始めた。

「欲しいなぁ墓地」

「ええ欲しいですねえお爺さん」

 二人は柿砲台の方をチラリと見た。無言を貫く柿砲台に阿吽の呼吸で舌打ちする二人は歌を続ける。


「それがあれば何でも手に入るべや」

「物とサービス何でもござれ」

 二人は柿砲台の方を再びチラリと見た。怒気を浮かべる柿砲台に二人は阿吽の呼吸で溜息をつく。


「だべ〜さ〜、それはカで始まる」

「ワオーン、それはネで終わる」

 二人は柿砲台の方をまたしてもチラリと見た。柿砲台は「金なら三毛猫太郎が用意するでおじゃ」と半ば諦め気味で言った。

「その言葉を待っていたんだべ!」

「ワオーン、秘すれば花ですよお爺さん。まるで我等が催促したみたいじゃないですか」

 二人は急に元気になった。醜いまでの雇われ根性コンビは現金である。


 草むらから様子を見ていたニャン吉が小声で聞く。

「師匠、どうして早く助けないんだにゃ?」

 その言葉に返答せず「獅子王、あそこにいるのは柿砲台だな?」と逆に聞き返す。

「にゃん」

「ということはあの爺さんと犬が柿家の執事と番犬か……。先程、微かだが別の気配が――」


 武蔵は何を思ったか急に後ろを振り返り千里眼で視た。

「獅子王! 避けろ!」

「にゃん」

 武蔵とニャン吉がその場を飛び退くと、黒い烏が突撃してきた。地面には、大きな鉤爪の跡が残る。


 武蔵は烏に向き直り「お前が不埒鳥か?」と問うた。

 体長二メートルはある大烏が笑う。

「カーカッカッカッ! いかにもいかにも。おい柿ピー、やはり奴等も別行動していたぞ」

 柿砲台は「ホホホ、近うよれ」とニャン吉と武蔵に言ってきた。


 ニャン吉と武蔵も骨男達に合流した。

 不埒鳥は木に止まり、上からニャン吉達を見下ろしていた。不埒鳥は木から暴風の如く地面に急降下して、地面激突スレスレで急停止。今度はそよ風の如くふわりと羽音を立てて徐々に地に降りた。


「こいつらただ者ではないぞ」

 武蔵が弟子たちに警戒するよう促す。


「師匠、鬼市は?」と骨男が聞く。

「いなかった」


 ニャン吉達は挟み撃ちにあった。全面には柿砲台と花枯爺と墓地が、後方には不埒鳥が。

 武蔵は皆に指示をする。

「獅子王、骨男、クラブは爺さんと犬を頼む。タレは、きついと思うが不埒鳥を食い止めてくれ。俺は柿砲台と戦う」

 弟子たちは頷き三手に別れた。


 ――戦闘開始。


 花枯爺が腰につけた巾着から緑色した灰を出して周囲に撒いた。すると、草花は全て枯れ、虫の鳴き声も止んだ。


 花枯爺は舌を出して挑発してきた。

「こいつぁ、オラ様特製の怨念灰おんねんばいだぁ。多種多様の生物を焼いた灰を絶妙なバランスで混ぜて作った灰だべ。この怨念の粉に妖気を混ぜて撒くとあら不思議」

 怨念灰を再び地面に撒くとその場所にいた全ての生物が枯れ果てて行く。モグラも巻き添えにあって、カラカラのミイラになっていく。


「にゃんと! 枯れ果てて……」

「おいら骨だが……こいつぁやべぇな」

「クールとドライは似て非なるぜ」


「オラ様の怨念灰の力、御覧あれべ」

 高笑いして怨念灰を撒き散らす花枯爺。怨念灰を避けたニャン吉、骨男、クラブに追撃の怨念灰を撒く。

「ぬへへ! 枯れろ枯れろ!」


 ニャン吉は爺さんの背後に回り込もうとしたが……。

「おや、いけませんね。私のことを忘れてもらっては」

 墓地がニャン吉に立ち塞がった。

「おい! 墓地公! その白髪猫を始末しろや!」と花枯爺が命ずると「ええ、それが私の役目ですから」と墓地は了解する。


「骨男、クラブ、その爺さんを頼むにゃん」

 ニャン吉はそう言うと、墓地と戦い始めた。


 墓地は地面をガサツに掘った。すると、その穴の中に口から何かを吐き出して埋めた。目にも留まらぬ速さで一連の動作を終えると、後ろへバク転しながら下がった。

 その動作はとても素早く、醜かった。


 ニャン吉は「そこで吐くにゃ!」と声を荒げ墓地を追いかけ引っ掻こうとする。


 墓地が何かを吐いて埋めた所の前まで来ると、突如埋め立てた所から黄土色の光が飛び出しニャン吉めがけて飛んでゆく。


 ニャン吉はそれをはたき落とすと、「汚いにゃ!」と嫌悪する。

 墓地は微笑み「さすがは番犬・獅子王。私の掘った『墓穴ぼけつ』を避けるとは」と言った。


「汚い吐瀉物だにゃ!」

「ふふふ、金のためなら醜くワンワン」

「心まで汚いにゃ!」

「それもまた、世の理です」


 骨男とクラブは二方から花枯爺を挟み撃ちにするが……怨念灰を撒かれて近寄れない。

「くそ! 近寄れねえ」

「ハサミが届かない」

 骨男とクラブは攻めあぐねていた。


「花はなぁ、枯らしてなんぼだべ! ホレ! 枯れろ枯れろ!」

 花枯爺の暴言が響き渡る。


 ――森にて、モモ四天王の柿砲台、不埒鳥と戦いになる。ニャン吉、骨男、クラブは柿砲台の執事・花枯爺と番犬・墓地と戦う。


 緊急事態宣言レベル二、地獄封鎖ヘルロックダウン中。


『次回「猛毒山脈に蠢く敵の姿」』

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