地獄は嫌だにゃん

第27話 猛毒山脈に蠢く敵の姿

　ニャン吉、骨男、クラブが花枯爺（はなからじじい）と墓地（ぼち）のコンビと戦う。

　タレも不埒鳥（ふらちどり）と空中戦を繰り広げていた。宙に鉤爪同士がぶつかる音が響く。

　武蔵は柿砲台（かきほうだい）を倒すべく刀を抜いた。マネキン人形の頭に赤い三つ目の柿がついたような柿砲台へ。

「柿砲台、覚悟！」

「おじゃあ！　麿に逆らうか！」

「一体いつ俺がお前に従うなどと言った？」

　柿砲台は木製のマネキン人形を武器に、武蔵を迎え撃った。

　柿砲台へ真っ向切りで斬りかかる武蔵であったが、足元が悪く、足を取られて上手くいかない。振り下ろされた刀を柿砲台は後ろへ飛んで避けた。

「では、麿の番でおじゃるな。必殺『渋柿砲』でおじゃ」

　柿砲台は右腕を大砲に変えると、足をしっかりと地につけ体を支る。そのまま大砲を武蔵へと向けた。

「本気の麿は一味違うでおじゃ」

「ほう」

「おじゃあ！」と吠えた柿砲台は大砲を武蔵にぶっ放した。ボーリング球くらいの茶色い光の球体が武蔵を襲う。その弾丸は柿の形をしている。

「甘い！」

　武蔵は、さっと弾丸を避けた。弾丸は後ろの大木を圧し折った。大木は爽やかに倒れた。

　柿砲台は鬼の形相で続けて弾丸を撃つ。

「おじゃじゃおじゃー！」

　柿砲台は吠える。

　武蔵は足場を確認しながら弾丸を避けていく。弾丸は木を次々に倒し、木は爽やかに倒れていく。自然は爽快だ。

　武蔵は反撃の機会を窺うが、こうも足元が悪いと思うように動けない。千里眼を怠らずにひたすら機会を窺う。

「おじゃるあぁ！　おじゃっらぁ！　うおじゃらあああ！」

　柿砲台は攻撃の手を緩めない。目を血走らせ、牙を剥き、つばを飛ばしながら撃つ。

　その声が遠くにいた花枯爺と墓地の耳に入ると、『またいつものか』と二人は嫌味に笑う。

　戦いの最中、武蔵はあることに気付いた。それは、柿砲台がその場から一歩も動いていないのである。

（この柿、地面に根を張っているのか。ならば……）

　武蔵は勝負に出ることにした。

　柿砲台は「おじゃこるぁ！」と怒鳴り声にも似た声で吠えた。そして、武蔵に弾丸を放った。

　武蔵は弾丸を避けると柿砲台へ向かって駆け出した。

「おじゃあ！」

　武蔵は懐に手をいれると、オニギリの形をした手裏剣を取り出す。それを、柿砲台の足元へ投げつけた。

「おじゃーる！」

　柿砲台はその場で飛んで回避。ならばと武蔵は間髪入れず、空中の柿砲台へ先程の手裏剣を数枚一斉に投げた。

「どうした！　俺のオニ剣（けん）を撃ち落としてみろ！」

　柿砲台は大砲を使うことなく、手で柿頭を庇った。体にオニ剣が幾つも刺さる。

「じゃおおおお！　おじゃおおおお！　よくも！」

　木製の体は消えた。

「見切ったり！　お前の技は戦闘用の体を作る技だ！　地面に根を張り大砲のエネルギーを補充していたな！」

　武蔵は鋭い口調で言った。

　柿頭だけになった柿砲台の顔には焦りの色が見えた。その顔を見た武蔵はさらに動揺させようと心を攻める。

「お前の五行の属性は木性だな。木性の妖気は一つのことを極めると強力な武器になる。しかし、その反面技の発動に時間がかかる！」

「おじゃあ！」

　柿砲台の驚き様は尋常ではなかった。それほどまでに五行の属性というのは戦いの行方を左右するものなのか。未だニャン吉に教えていないものである。

　武蔵は一気にカタをつけようと柿砲台へ斬りかかる。だが……。

「そうはいくカーッ！」

　黒い隕石が降ってきたと思わせる程の勢いで急下降した不埒鳥が武蔵を遮る。武蔵の刀を白刃取りで止めた。翼で刀をはさみ、武蔵の度肝を抜いた。

「カッカッカ。どうした剣士」

「不埒鳥！　何故……タレは」

　刀を引き武蔵は不埒鳥と距離を取る。柿砲台を仕留めそこねた。

「お前は……タレと戦っていたはずでは……」

　不埒鳥は空を翼で指す。そこには、何かでグルグル巻にされたタレの姿があった。タレは木から宙吊りにされていた。

「カッカッカ、あの鳥は我が子の手の内よ」

「我が子……だと？」

　不埒鳥は歌い出した。

「可愛（かーわいー）い七ツ（なーなあつ）の子があるからよ……カモン！　生糸（きいと）！　火刺（ひざし）！」

　不埒鳥が我が子の名を呼ぶと、木の上から何かが降りてきた。

　一人は、真黒い蜘蛛で糸を出しながら急降下してきた。そして、地面に激突。目を回す。

　もう一人は、真黒い蠍（さそり）で枝から枝に飛び移りながら降りてくる。そして、脆い枝に乗ってしまい地面に落下。悶絶する。

　あ然とする武蔵。不埒鳥は愛しの我が子と呼ぶその虫達を助け起こす。

「カーッ」

「父ちゃん」

「お父さん」

　虫達はそう言った。

「お……我……子……え？」

　困惑する武蔵を不埒鳥は横目で見ながら笑った。

「カカカ、俺様は虫が大好きなんだ」

「意味が分からん」

「卵をみると我慢できん。俺様の血を与えた後、暖め孵化させるのだカッ」

　言葉にならない武蔵。頭が追いつかない。

「カカカ、お前達、ごあいさつしろ。そして、襲いかかれ」

　蜘蛛が出てきた。

「俺は生糸（きいと）。不埒な息子だよ」

　その蜘蛛を横目で睨む蠍。蠍は蜘蛛をハサミでつまんで後ろに放り投げた。

「あたしは、火刺（ひざし）。そこの生糸のお姉様よ」

　不埒鳥は声を出さずに口だけ開けて笑った。バカ面だ。

「……、お前等虫だろ？　お前は鳥だろ？」

　さすがの武蔵も理解ができなかった。

　――柿砲台を追い詰めた武蔵であったが……不埒鳥の妨害に会い決定機を逃す。不埒鳥は、我が子とかいう虫を武蔵に紹介する。

　緊急事態宣言レベル二、地獄封鎖（ヘルロックダウン）中。

『次回「地に落ちた者」』