第24話 毒蛇道

 猛毒山脈の麓へ着いたニャン吉達は、鬼市を探して登山道の一つ毒蛇道どくじゃどうを登ることに。


 その山々は標高十万メートルを超す山が連なる。風地獄ほどではないにせよ高い。


 これから登る猛毒山脈の登山道の一つ、毒蛇道について簡単に触れておこう。


 毒蛇道は他の登山道と比べ登りやすい。道は蛇行しており、その姿から毒蛇道と名付けられた。もちろん毒蛇も出るが、毒地獄では普通のこと。隠れる場所も多々あり、隠れるには最適であった。


 ニャン吉達は毒蛇道を登っていった。


 しばらく登ると、ひらけた場所に出てきた。そこには湖もあり、ポイズンシティの町を見下ろすことができた。

「ここは蛇乱広場じゃみだれひろばっていうんだぜ」

 骨男は広場について語りだした。

「ここはキャンプができるようになっててよ。昔ポイズン大学の連中とよくここにきたもんだぜ」

「じゃらん広場じゃにゃいのか?」

「おう、じゃみだれひろば、だ」


 蛇乱広場はキャンプ場になっている。そこでは、サイクリングやキャンプファイヤーができるようになっていた。


 湖では、人面魚釣りがよくおこなわれていた。晴れた日には船を浮かべ、子供達が目を血走らせ魚の乱獲をして資金調達をしたり、極道が目を輝かせ夢を語り合ったりした。


 夜になるとキャンプファイヤーがあちこちでおこなわれた。子供達が『都会なんてろくなもんじゃねえ』という歌を歌ったり、極道が『うさぎさんのぴょんぴょん跳ねる』という歌を歌ったりした。


 寝る前には満天の星を眺める。子供達は「きたねえな、あの月」と定番の言葉を言う。極道は「キラキラ星、綺麗ね」とつぶやく。


 子供達は夜中に起きると金を数え、極道はトイレへ皆で行く。


 その姿を見ると烏が「それでいい。それで……」と鳴く。


 ニャン吉はその話を聞くと、愛想笑いだけが出てきた。


 キャンプファイヤーの跡の前に立つと骨男が再び語る。

「ここで仲間と色々話したもんだぜ。人面魚を売った金で『太古の現代人は夢と金』ゲームをしたな。作家になった奴もいてよ。たしか『初めての権力争い』っつー児童文学書いたんでぇ。画家もいるぜ。たしか『鬼嫁姑おによめしゅうとめ合戦図屏風かっせんずびょうぶ』とか『裏切る前に裏切られるブルーギル』っつー絵を描いたっけ」

「今にゃんて……」

「ん? ああ、昔の話だ」

 哀愁を漂わせる骨男を眉間にシワを寄せて見るニャン吉であった。


 ニャン吉達は蛇乱広場で少し休憩をすることにした。


 武蔵は懐からむすびを包む経木を出した。その竹の皮に包まれたむすびを食べようと広げた。むすびの中身を見るとそこには……。

「む!」

 武蔵は驚愕の余り立ち上がった。


 心配したニャン吉が言葉をかけようとするが……。

「俺は閻魔宮の料理人におかかを頼むと言ったんだ! それを……よくも! 三つともシーチキン入れやがって!」

 ニャン吉は言葉が出てこない。

「クソ! むすびを舐めやがって!」


 クールにクラブが武蔵に言う。

「武蔵師匠、俺達はその昔、猿の野郎の持つ柿の種とむすびを交換した。そう、猿蟹合戦だ。その時以来むすびを見ると渋柿を思い出すんだ……もう続きは言わなくても分かるはずさ」

「む? え? 何のことだ?」

「言葉にしなくても伝わるものがあるって話だ。秘せば花子ってな」

 クラブの言葉は誰にも何も伝わらない。


 クラブは朝焼けの空を眺めながら、武蔵にもらったシーチキンむすびを頬張り何やら語る。

「昔、松尾駝鳥だちょうという人がいてな。その人の俳句は有名だ」

「どんなんだにゃ?」


「相棒、聞きたいか?」

「まあにゃ」


「ふっ、いいだろう。この広場の池を見て読んだ俳句だ。古池や蛙飛びこむドット・コム」

「続きはウェブでかにゃ?」


「ふっ、そんなところか……。彼の俳句は『屑の横道くずのよこみち』という本に纏められている」

「怪しい名前の本だにゃ」


「他にも、千死球せんのしきゅうという茶人がいてな」

「茶人がデッドボール当てるのかにゃ」


「彼は人生に疲れた者達に、たてたお茶でお茶漬けを作るとコーラとポテトをセットにして出していたらしい」

「何たるご乱心、そいつの方が疲れてにゃいか?」


「帰りには鼻にピアスをするように勧めていたらしい。茶碗でナメクジを飼っていたとかでな」

「にゃんと!」


「千死球の弟子で千魔球まきゅうというのもいてな」

「どんな球……茶人だにゃ?」


「何でも、部屋に入った奴は不気味なほど元気になってでてくる。皆、注射の跡があって……警察に捕まった」

「どんな茶だにゃんよ」


「千死球のもう一人の弟子、千落球らっきゅうがいて……怪しげなバーで酒を出していた」

「また変なのが出たにゃ」


「そいつが開いたバーこそカマカマファームのオカマキョンシーだ。鬼市達の村を開いた張本人だ」

「にゃんと!」

「それは本当かクエッ」


 話を終えるとニャン吉達は蛇乱広場から先へと進み始めた。


 しばらく登っていると、木々の生い茂る道なき道に出た。


「許さん!」

 突然鳴り響いた声の方へとニャン吉達は驚き振り向いた。


 武蔵は報連草ほうれんそうを取り出す。報連草は再び低いドスの利いた声で「許さん」と言った。

「これは……鬼市は近くにいるぞ!」

 武蔵は辺りを千里眼で探る。


「な……こいつらはモモの連中の気配」

「クエッ、どういうことだ」

「鬼市は気配を消していてどこにいるか分からん。だが、代わりにモモの一味の気配がする」

「それは……やばいにゃ!」


 ――毒蛇道を登るニャン吉達。鬼市は近くにいるが、モモの一味の気配もする。


 緊急事態宣言レベル二、地獄封鎖ヘルロックダウン中。


『次回「急げ」』

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