第11話 武蔵の剣技とモモの技
風地獄、武蔵とモモは対峙する。
「武蔵とか言ったな。本当に一人でいいのか?」
「モモ、お前は確かに強い……。間違いなく百鬼山公だ」
モモは不敵に笑い顔を洗い始めた。
「だが、実戦経験はそうでもないだろ?」
「自信ありげだな、侍。だが、どうにもならない力の差というやつを見せてやろう!」
モモは猫のサイズに戻り武蔵との間合いを一気に詰めると、武蔵も刀を振り上げ迎え撃つ体制を取る。
モモが武蔵の間合いまで来たところで武蔵は真向斬りで斬りつけるが……モモは刀を紙一重で左方に避ける。
「甘いな! 侍!」
モモは刀の峰の部分にひょいと乗ると、刀を滑るようにして鍔の方へと移動する。
武蔵は刀を返そうとしたが、モモに足で刀を押し下げられた。そして、モモは飛び上がる。さらにモモは鍵尻尾を武蔵の刀を握る手の指に引っ掛け手元を狂わせる。そのまま、武蔵の懐へ飛び込もうとした。
さすがは猫。その速さ、その柔軟さ、その正確さ、天性の物がある。猫はハンターと呼ばれるのは伊達じゃない。
武蔵の腹を横から引き裂こうとするモモであったが、武蔵はそれを飛び膝蹴りで蹴り飛ばす。
即座に武蔵は刀を握り直し、モモに右から横一文字に斬りかかる。それをモモは体をねじり避ける。
モモが避けると、武蔵は間髪入れず左手で脇差を抜きモモを薙ぎ払うが……モモの爪で刀は止められた。武蔵とモモは間合いを取った。
息詰まる攻防、一瞬の油断が命取りになる。
モモは黒獅子の姿になるとニタリと笑い武蔵に急接近し爪を突き立てようとした。武蔵はそれに刀で応戦する。
刀と爪が火花を散らす。
「ふはっ! お前は先程の白猫とは違うな。俺に爪を使わせるとはな!」
「何だと! 獅子王との戦いでは使ってなかったのか!」
モモは爪を出して見せた。さらに、牙も見せると「牙も使ってないぜ」と言い放つ。
モモは牙をカチカチ鳴らしたら、不気味に笑いながら顔を洗う。
(嘘だろ……獅子王の奴……)
それから攻防は続いた。
モモの恐るべき力に圧倒される武蔵であったが、武蔵は百戦錬磨の経験と研ぎ澄まされた技の差で劣勢をはねのける。
(まずい……この戦闘技術は……)
モモは焦り始めた。武蔵の底力に恐れすら抱く。このまま戦いが長引けばどうなるか……臆病という魔がモモの心に忍び寄る。
モモは切り札として取っておきたかった技を使うことにした。
戦いの最中、モモは霧を吐いた。
(霧? なるほど、この手の技か)と武蔵は考えた。
次の瞬間、霧が猫の手の形になり実体化し武蔵を襲うが、想定内のことであり即座に反応し避ける。
霧が集まり巨大なモモの形になると、その上にモモ本人が立ち武蔵を見下ろす。
「まさかこれをかわすとは……」
「それを経験というのだ」
モモは霧の上で顔を洗いながら技について語りだした。
「侍、これは俺の妖気だ。生命力を吐き出して作った『
モモの霧は力強さを増した。髑髏印の魔法から言霊を引き出し使ったのだ。
モモの形をした霧が晴れてくると、モモは山の斜面に降りて武蔵を見下ろす。そして、口から霧の刃を撃ってくる。
武蔵はその刃を全て刀で弾き返す。モモは口から霧の龍を吐き出してその上に乗り、武蔵に突撃させた。
武蔵は山の斜面を駆け下りながら龍を次々と避ける。
モモが牙を出して笑うと龍が突然加速し、口を大きく開けて武蔵に噛みつこうとした。武蔵はとっさに刀で龍を止めるが……龍の上に乗るモモが武蔵の上を飛び越え後ろに回り込む。
「侍! これで終わりだ!」
モモが武蔵の背を爪で引き裂こうとする。
「クエッ!」
モモを横から突き飛ばした者がいた。それはタレの母、ツケダレであった。
「クエッ!」
さらにモモの霧龍を火起こしで焼き払う者がいた。それはタレの妹、クシであった。
ツケダレとクシは武蔵の方へ来る。
「クエッ、大丈夫ですか?」とツケダレが心配する。
「ああ、助かった。タレの母君と妹だな」
「クエッ、ツケダレです」
「クエッ、クシです」
ツケダレもクシもタレと違ってお淑やかであった。
「ツケダレさん、クシさん。私のことはいいので直火さんと盛塩さんを連れて避難していてください」
「クエッ、武蔵さん。でも……」
「モモはさっきの龍を出したことでかなり力を使ったはず。私にお任せあれ」
ツケダレは「承知しました。あちらの山に行っておりますので」と言うと、クシと二人で直火、盛塩を連れて飛び去った。
火喰鳥一家が飛び去って少ししたら、モモは足音も無く山を登ってくる。
「武蔵! 火喰鳥! ぶっ殺す!」
怒り狂うモモが武蔵に飛びかかる。
武蔵はモモの爪を全て悠々と避ける。
(やはり、先程の龍で妖気の大半を使ったようだな)と武蔵は見抜いた。
感情的になるモモ。
モモは焦り一気に片付けようと大振りの一撃を放った。その隙を武蔵は見逃さなかった。
武蔵は刀に霊気を溜めるとモモの爪を刀で受け流し、モモは体勢を大きく崩した。武蔵は突きの構えを見せる。
「焦ったな! モモ敗れたり!」
武蔵の刀は白く輝き、一気にモモを突いた。光の刃がモモの体を貫いた。
「髑髏印を外したか……だが、次でお終いだ!」
武蔵の突きはモモの右肩を貫いていたが、致命傷にはならなかった。とはいえ、深手を負わせたことに変わりはなかった。
肩から流れる血を舐め、さらにその舌で前足を舐め、顔を真っ赤に染めながら顔を洗うモモ。
「今のは何だ……」と力なく聞く。
「俺はただ突いただけだ。焦り、勝負を急いだお前が悪い。お前のように焦って負けた奴を俺は幾人も知っている」
武蔵は敵の心を攻めることを忘れない。
(今のは……間違いなく何か技を使った……)とモモは思ったが、それが何なのか判らない。武蔵は何度かわざと刀を白く発光させてカモフラージュしていた。
「縮地! 魔境地獄の登り門! 覚えていろよ侍!」と言うとモモは消えた。
「逃げたか……深追いは愚だな」
武蔵は刀を鞘に収める。
(
――モモはニャン吉との戦いでは爪や牙すら使わなかった。その上に
『次回「ニャン吉の致命的弱点」』
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