第12話 ニャン吉の致命的弱点
風地獄での戦いは終わった。気付けば囚人兵は武蔵を恐れてどこかへ去って行った。
力は武蔵よりモモの方が強かったが、戦い自体は圧倒的に武蔵が優勢であった。
無傷の武蔵と深手を負ったモモ。しかし、次はモモも対策を練ってくるだろう。なんといってもむこうには策士の策幽がいる。
戦いが終わり、武蔵はツケダレ達が向かったという山の方へ駆けて行く。山頂には簡易避難所があった。そこでは傷付いた鳥達が介抱されていた。
武蔵が避難所へ着くと鳥達が集まり口々に感謝の言葉を述べた。
ツケダレは直火と盛塩を担架に乗せると皆に伝える。
「クエッ! みなさん、第二研究所へ行きますよ!」
「む? もう一つ研究所があるのですか?」
武蔵の方へ振り向きツケダレが詳しく語る。
「クエ。万が一に備えてこの地獄では第一から第三研究所まで用意してありますクエクエ。さあ、共に参りましょう」
「そうしましょう……ですが、少々お待ちを」
皆を待たせて武蔵は駆け出すと、タレが置いて行った金庫と招き邪王猫を回収し戻ってきた。
「お嬢さんがおいて行ったこれのおかげで私も助太刀に参ることができました。……さすがの機転です」
武蔵は金庫を見せながらタレを褒めるとツケダレは嬉しそうな顔をし、目を細めクチバシで羽をつつく。それをみた集太郎が「ちゅちゅくんじゃ」と一言添える。
そして、武蔵と鳥達は第二研究所を目指して移動を始めた。
第二研究所へ着いた武蔵は眼を見張る。
「こ……これは……さすがは風地獄か」
第二研究所も第一研究所とほとんど変わらなかった。
やはり、屋上へ降り立つと、そこから中へ入った。中の科学力も第一研究所のそれとは素人目には違って見えない。そこで、直火と盛塩は治療を受けた。
治療中診察室から「クエー! 痛い! 痛い! 針千本飲んだ時と同じ位痛い!」と悲鳴が聞こえた。その声の後から「このくらい我慢だチュン。ただの傷薬だチュン。針千本は大袈裟だチュン。ハリセンで叩かれたほうが痛いくらいだチュン」という医者の優しい声が聞こえてきた。
第二研究所は避難してきた鳥達で活気づく。皆の治療中、武蔵はツケダレの案内で中を見て回る。
「ここが別荘ですクエ、ここに金庫を置くといいと思いますクエ」
「ええ、そうさせていただきましょう」
武蔵はツケダレの案内で研究所の一室へ入った。部屋の中央には大きな鍋がありグツグツ何かが煮えていた。武蔵は思わず鍋を見ると、鳥が煮られていた。
「クエクエ、野鳥を煮て食べるのですよ。鬼では無いので安心してください」
「ええ……」と気のない返事を武蔵がしたのでツケダレは急に大声を上げた。
「鳥が鳥食べるのは普通ですよクエ! 食べてなんぼですよクエッ! おかしいですか! 鳥が鳥を食べるの!」
「え? ええ、分かりますとも」
「クエッ! 食えば分かりますよ! 食えば! クエッ! おかしいから美味しいに変わります!」
ツケダレは武蔵に詰め寄ると「クエッ!」と怒鳴った。武蔵にはその言葉が「食え」と命令しているのか、鳴き声の「クエッ」なのか判別できずに言われるがまま鶏鍋をいただいた。
招き邪王猫を安置した武蔵はレストルームまで戻る。その元へ回復した直火がやってくる。
「いやーお恥ずかしいクエッ!」
「直火さん、無事で良かったです」
武蔵は気になっていたことを直火に尋ねる。
「ところで、どうして山を背に研究所を建てなかったのですか? 防衛のことを考えたらその方がいいと思うのですが」
「平地の方が建て安かったクエッ!」
「うん……しかし、お嬢さんから聞きましたが前の研究所は山を一つ吹き飛ばしてその上に建てたと、この第二研究所もそうなのでは?」
「クエッ!」
「何故わざわざそんなことを」
「クエッ! そこに山があるからだ」
武蔵は集太郎とペラアホに監視虫を研究所に置いておくように指示して閻魔の間へ縮地した。
監視虫は集太郎とペラアホそっくりな蝶々、蜻蛉の分身である。その虫が見たものを、同じ地獄にいる限り見ることができる力へと昇華させていた。
閻魔の間では、ニャン吉が多少体力を回復していたが、レモンは重症でまだまだ時間がかかりそうであった。
武蔵はニャン吉を見付けると険しい顔して厳しい口調で尋ねる。
「獅子王、モモの奴は爪も牙も使っていないらしいな」
「……はいにゃ」
(まさか、まだ攻撃の時に加減する癖が治っていないとは……)と武蔵はニャン吉の深刻な弱点について頭を悩ます。
武蔵は梁山泊でその弱点の原因をニャン吉に幾度も問うたが不明であった。それのみか、克服も難しく後回しにした課題であった。
武蔵は閻魔に聞く。
「……大王、もちろんあなたはご存知なはず。原因を教えてください」
ヒステリックぶつ代に何度も顔を叩かれ真っ赤に顔を腫らした閻魔が重い口を開く。
「……この番犬レースで治ると思っていたのだが……」
「その原因は何です?」
「獅子王は子猫の時分、御主人を引っ掻いて病院送りにしたことがあるのだ。それ以来、いついかなる時も、無意識の内に爪や牙で攻撃するとき加減をするようになったのだ。それでも人を病院送りにできていたが……」
「無意識! 大王、それは……」
ニャン吉は番犬レースを馴染み技と身体能力だけで勝ち進み、加減癖を克服することなくここまできた。
青ざめた顔で武蔵はニャン吉の方を見る。
「思った以上にまずい……」
「師匠! どうしてだにゃ!」
「無意識のことを矯正するのは困難を極める」
「にゃ……」
「とにかく修行だ!」
閻魔はコソコソと周囲の者に何やら指示を出した。それを武蔵は見逃さなかった。
「大王、なんですか? 今の」
「ん? おお、聞こえておったか武蔵」
「ええ、私の耳には獅子王を首にしてもっさん達を代わりに据えると」
「流石だな武蔵。地獄耳も会得……」
「大王!」
閻魔の間は険悪な雰囲気となる。
「どうもこうもない。もしニャン吉が使えなかった時のために他の奴らを鬼ではなく死神として転生かつ番犬候補のキープをだな」
「な……」
武蔵は愕然とした。
ニャン吉は恐る恐る武蔵に聞く。
「死神ってなんだにゃ……」
「……天国の天使や地獄の鬼、魔界の魔とは違って三途の川があるこの閻魔庁の世界に住む者のことだ。別名を冥界人と呼び、現世の肉体を持つお前も死神、若しくは冥界人ということになる」
涼しい顔して閻魔が続ける。
「天使は
「ニャ吉は死神だったんか!
「ニャッキーは人殺しだーね」
虫達は何かを勘違いしている。
「まあ、もしお前が使えんなら奴らをキープすることは何も問題ない」
「しかし、大王!」
「武蔵よ、これでも譲歩している方だぞ」
「……獅子王を鍛えてみせます。それまでは……」
「ならん!」
閻魔の大音声に水を打ったように閻魔の間は静まり返る。
「……私に策があります」と武蔵はあることを提案した。
――ニャン吉の弱点は深刻だ。閻魔も弱い番犬を就任させ続け乱れる地獄を放置するわけにもいかない。そこで武蔵はあることを提案した。その内容は……。
緊急事態宣言レベルニ、
『次回「武蔵の策」』
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