地獄は嫌だにゃん

第7話 大将格との死闘

　悪寒谷の旧道で囚人兵がレモンを悪寒谷の谷底へ突き落とす。

　ニャン吉は頭上から囚人兵に支持を出す白熊を討伐に行き、タレはレモンを追いかける。

　タレは崖から突き落とされた氷漬けのレモンを追いかけ、火を纏い火の玉の如く高速で飛ぶ技、『火球』を使い追いつく。そして、レモンに火の風を起こして氷を溶かし、鉤爪でレモンの頭を掴むと浮上した。

　武蔵との修行で覚えた火球でなければ追いつけなかっただろう。

　崖の上側ではニャン吉が番犬化し、翼を出し白熊を追いかけ飛び上がる。

　勢い良く迫ってくるニャン吉に白熊は巨大な氷塊を降らせる。ニャン吉は火猫で全身に炎を纏い、さらに氷塊に炎を吐きかけ溶かしていく。

「ほほう、やるな」

「待て！　逃げるにゃ白熊！」

　逃げる白熊を追撃するニャン吉。

　何故ニャン吉は白熊をここまで追うのか。それは白熊が千里眼を使えるからだ。それも、死角にいる者も見付ける開眼を使える奴。

（並の鬼や魔では使えない千里眼だにゃ。使える奴は一人でも倒さにゃいと危険だにゃ）と判断したのだ。

　生前死後、常に戦いに身を置いてきたニャン吉の直感である。

　敵は旧道伝いに逃げている。ニャン吉は空を飛び白熊の前へ回り込むと、火を吐き旧道を溶かし敵の退路を断った。

　不敵に笑う白熊の前にニャン吉は立ち塞がり問いただす。

「お前はミケの仲間かにゃ！」

「ふはっ！　ミケの仲間だと？　この私がか？　片腹痛いわ！」と言うと白熊は前脚を口に当てて笑った。

「我が名はホット・ケーキ・アマイシロップ。数々の権力者を葬ってきた武人だ。あのような下賤な者と一緒にするな！　我等は手を組んだにすぎん！　獅子王、いざその首もらい受ける！」

　ホットは旧道を滑りニャン吉に突進した。ニャン吉はギリギリまで引き付けて空へ避けた。というか、ギリギリ避けることができた。

（下へ落ちろにゃ）というニャン吉の狙い通りとは行かず、ホットは器用に止まる。

　ホットはニャン吉に飛びついてはたき落とそうとした。ニャン吉は辛うじて一撃目は避けたが、二撃目は肩にかすってしまいその衝撃で谷の側面に激突する。

　少し落下したが、体勢を立て直したニャン吉。

（な……なんて力だにゃ！　この強さ、この感じ、天馬の時を思い出すにゃ……）

　ニャン吉はホットの足場を焼き払うが、ホットは崖の壁面に爪を立て落下を防ぐ。のみか、蜘蛛のように自由に壁面を移動する。

「にゃんと！」

「甘いな！　獅子王。ホットケーキもびっくりするぜ」

　ホットは壁面からニャン吉めがけ飛びつく。そして、ニャン吉を爪で切り裂いた。

「ふはっ！　これで……む」

　ホットが切り裂いたはずのニャン吉は幻影だった。番犬化した獅子王の幻の奥に、元々のサイズのニャン吉が現れる。

　ホットは器用に旧道へ着地する。

「ふはっ！　獅子王、閻魔の犬め。中々の早業だったな」

「まあにゃ」

　本当はギリギリだったニャン吉。

　ホットは再び壁面に爪を立て、蜘蛛のように崖を登る。ニャン吉もそれを追いかける。

　戦ってみた感じ、このままでは負けると予感したニャン吉は一計を案じる。

　ホットは旧道に立つとニャン吉が来るのを待った。ニャン吉もそこへ着くといきなり、「火猫」と叫んで息を吐きかけた。ホットは両前足を前に交差させて防御した。ニャン吉の邪王猫な笑いが飛び出す。

　ニャン吉の吐いたのは火ではなく、絶対零度の凍り付かせる息であった。

　ホットの両前足は凍らされた。しかし、怪力で氷を砕いた。その拍子に顔を守っていた両前足が動き、顔が顕になった。その顔へニャン吉は「絶対零度」と偽って毒の息を吐きかける。まさか毒とは思わずその息を吸ってしまったホットは、体が痺れてしまった。

　体が痺れてもなお抵抗するホットであったが、やがてニャン吉に取り押さえられてしまった。

「……殺れ！　獅子王！」

「策幽とは何者だにゃ？　答えにゃいと苦しい拷問が待っているにゃんよ」

「元より承知のこと。武人に二言はない、殺れ！」

「にゃんで奴を庇うにゃん！　奴は反逆者だにゃんよ」

「早く殺れ！」

　自ら死を選ぶホットにニャン吉は天馬の面影を見る。そこでニャン吉は聞く。

「お前、本当は赤兎馬天馬の仲間じゃにゃいのか？」

　ホットは顔を上げ目を見開き「貴様！　天馬様の名を……」と口に出すと黙り込んだ。

　ニャン吉は雪原城の方を指差し、ホットに教える。

「天馬にゃら今、雪原城の門を守っているにゃん。我々と共に戦っているにゃん」

「……」

「事の起こりを聞くにゃん！　詳しく教えるにゃ！」

　ニャン吉は要所を掻い摘んで天馬から聞いた一万年前の真実と、天馬と共に戦ったことを教えた。ホットは目を閉じそれを聞いていた。

「ホット、天馬の所へ行き共に戦うにゃん！」

「獅子王、もしそれが本当ならお前達の味方となろう。案内せい」

　その時タレがニャン吉の所へ飛んできた。背中には、青い顔をして瀕死のレモンが乗っていた。

「クエッ！　奴等は倒してきた！　その白熊も倒すぞ」

　ニャン吉はタレに事情を説明した。タレは頷くとホットを背に乗せ、ニャン吉と雪原城へ飛んでいった。

　雪原城の門へ舞い降りたタレ。赤兎馬天馬が側に駆け寄り声をかける。

「レモンは無事か……ん？　その白熊はまさか……」

「天馬様！　私です。ホットです！　骨しゃぶの就任式以来です！」

「ホット！　お前生きておったのか！」

「はい！」

　再開を喜ぶ二人。二人が一言発する度にくしゃみをするニャン吉。また会えて嬉しいくしゃん。共に戦くしゃん。いざ、くしゃん。ニャン吉は寒さでくしゃみが止まらない。

　――レモンを救出したニャン吉は、悪寒谷にて生きていた天馬の昔の仲間、ホット・ケーキ・アマイシロップと交戦後天馬の所へ導く。

　緊急事態宣言レベルニ、地獄封鎖（ヘルロックダウン）中。

『次回「例え宿命でも」』