第四章 風地獄

山脈に吹く風

 風は自由の象徴だ。どこへでもいける。

 追い風の時もあれば、向かい風の時もある。

 そして、暴風となって襲い来ることもある。


 門を抜けた先は、山頂だった。見渡す限りの山と、眼下に広がる雲。その間の谷に強風が吹いていた。


 虫達に空から周りの様子を見てもらいたかったが、この強風では無理であった。それどころか吹っ飛ばされそうになるのでレモンの蔦に掴まり目を閉じていた。


 骨男がこの地獄について説明を始めた。

「ここは第四の地獄、風地獄っていうらしいぜ。どこまでも山が続いているらしくってよ、山から山につながる道があるとかいってたっけな」

「すごい風だにゃん。みんにゃ、大丈夫かにゃ?」

 骨男は発明品の靴をはいて地面にくっつけていた。

 レモンは、虫達を頭の上に置いて蔦でしっかりと掴み、クラブも蔦でしっかりと掴んで山の僅かな亀裂や木の枝などに蔦を絡めて進む。

 鬼市は普通についてくる。


 ニャン吉は猫歩きを使って歩くことにした。

(これさえあれば、どんな悪路も越えていけるにゃん)


 山をいくつも越えたニャン吉。

 谷の底が見えない。

(この谷は底があるのかにゃん? 深いにゃん)

 台風のような強風と、底が見えない谷。ニャン吉達は精神的に参ってしまいそうだった。周囲を見ると、空にも山にも大きな鳥がいた。


 ――夕方になった。

 夕陽に照らされたニャン吉達が山道を歩いていると、突然大きな鳥が空から飛んできた。

「クエー!」

 その鳥は、橙色のフワフワの羽を全身に持ち、鋭い赤い鉤爪と水色のくちばしをした三メートルくらいの大鳥であった。鳥はニャン吉を捕まえ質問する。

「クエッ! お前達何者だ!」


 代表してニャン吉が「初めましてニャン吉ですにゃん。番犬候補ですにゃん」と答える。

「クエッ? 番犬候補……そうか! クエックエッ。歓迎するぞ」

「えっと、どうもよろしくにゃん」

 ニャン吉達は圧倒された。

(大きいにゃん! にゃんだこいつ!)


 鳥は大きな顔をニャン吉に近づけて来た。

「クエッ! お前は猫だ。ケルベロスは犬だった。お前はニャンけんだな。面白い! 気に入った! ついて来い! 小屋に案内をするぞ!」

 鳥は悠然と飛び始めた。


「ど……どうするにゃん?」

 骨男とクラブは「ついていこう」と乗り気である。レモンは「ニャン吉様に任せマス」と言う。虫達は鳥を怖がっている。


 皆、正直心身の限界が近かったのでニャン吉はありがたく鳥の提案に乗った。


 ニャン吉がついていくと、鳥はある山にとまった。山は頂上付近に野球の球場並みの平らな所があり、そこに巨大な研究所があった。鳥はその研究所を「小屋だクエッ!」と主張するが、どこからどう見ても研究所だ。


 鳥は研究所の戸を開けようと指紋認証をするが、認証できないのでくちばしで戸をぶち破った。

「クエッ! 入れ!」

「ちょっと! 本当に大丈夫かにゃ!」

 鳥は研究所の中へ入り機械の前へ。機械は、「おかえりなさい、焼鳥タレ様」と音声を発している。

「クエッ! 早くしろニャン犬!」

 ニャン吉達は研究所に招かれた……はず。


 鳥に客間に案内された。客間は出入り口が一つ切りで、ソファーが窓際にあった。

「クエッ! そこに座れ!」

 鳥はニャン吉達に聞く。

「お前達はなんて名前だ! クエッ!」

 ニャン吉達は自己紹介をした。

 鳥は嬉しそうだ。

「クエッ! 私の名前は焼鳥やきとりタレだ! タレって呼べ。私の一族はここの門番をやっている火喰鳥ひくいどりの一族だ」


「ええ! おめえ火喰鳥なんか! こりゃあおどれぇた。火喰鳥っていやあ地獄でも滅多にお目にかかれねぇって聞くぜ! ちっとばかし後で骨密度を調べさせてくれよ」と興味津々で骨男が言った。


 タレは苛立ってきた。

「骨! お前信じてないのかクエクエ! いいだろう、証拠を見せてやろう」


 タレは機械の所へ歩いて行った。そして、機械をくちばしでつついて電線を漏電させてカーテンを燃やした。更に、重要と書いてある数式がメモされた紙を撒いて火を広げた。

「な……なにをするんだにゃん!」

「まあ見ろ、クエ」

 タレは火を一気に吸い込んだ。

「クエッ、まあまあだな。まずくはないクエッ」

 タレは火を食べた。


 残ったのは壊れた機械と灰になった紙とカーテンだった。機械はバチバチと、カーテンと紙はプスプスと音がしている。


「おめえすげえじゃねえか! もう消化器いらずってところだな!」と骨男が嬉しそうに言う。

「クエッ! 消化器嫌い!」


「……こういうことは保安官として見逃せないな。タレ、今度からは火遊びはやめてくれ」とクラブは注意する。

「クラブ、分かったクエ」


「まあまあ、馬人ばじん、甲殻類、バタバタ鳥、仲良くしマショウ」とレモンがまとめた。

「クエッ? バタバタ鳥? 私のことか?」

「ハイ、バタバタ鳥」

「クエッ! 面白い! お前気に入った!」


 その時、研究所の玄関から声が聞こえてきた。

「タレ! また戸を壊したな!」

 白衣を着た中年の男が客間に入ってきた。その男はニャン吉達を見て「あれ? お客様ですか?」と尋ねた。

「初めましてニャン吉です。番犬候補です」

「君は中村ニャン吉君かね? 初めまして、魔性ましょう苦歩歩くるぽっぽと申します。私は魔境地獄の博士をやっていてね」

「魔境地獄? それはどこの地獄だにゃん?」

「次の地獄だよ、そこに研究所を構えている」


 博士は壊れた機械と紙とカーテンが目に入るとタレを叱り飛ばした。

「クエッ! 分かったよ! 反省すればいいんだろ!」


 苦歩歩博士はニャン吉一行をもてなした。ニャン吉達は研究所に泊めてもらうことになった。


 ニャン吉はタレに尋ねる。

「聞きたいことがあるにゃん」

「クエッ、何でも聞け!」

「タレはここの門番の一族なんだにゃんね」

「クエッ! そうだ。皆で門番を交代しながらやっている。飽きるからな」

「じゃあ、門番に協力してもらえるように頼めるかにゃん?」

「お安い御用だクエッ! 私の番だ。お前に協力してやろう。仲間にも全員伝えておく」

 ニャン吉は拍子抜けした。


「クエッ、皆に言いに行くか」と言うとタレは研究所から飛び出して空へ消えていった。タレにぶつかった博士のロボットが一つ壊れた。


「ところで博士、この地獄の適応法は知っているかにゃん?」

 博士はタレの行動に腹をたてながらもニャン吉の質問に答える。

「それは……今度教えよう。今はちょっと……本を探さないと……タレが」

 どうやらタレが散らかして整理しないと見つからないみたいだ。ニャン吉は片付けを手伝った。


 ――夜、タレは研究所に帰ってきて、風地獄の皆がニャン吉に協力したことを話した。ニャン吉は鬼の首をあっさりと取った。


 ――風地獄へ来たニャン吉達は広大な山々と強風に苦戦していた。そこへ、巨大な火食鳥が来て、ニャン吉を研究所に案内。ニャン吉は火食鳥の協力を得て、もう鬼の首を取った。


『次回「逃げ出した人造人間ホムンクルス」』

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